トゥーランドット電撃戦③
パンジール・ウルケーの徴兵制は独特である。
いや…ヴ帝国と社会主義国家は国民皆兵制なので例外ではあるが、その他は「軍閥」なので勝手に掻き集める、と言うのが正しいかもしれない。その点に於いてパンジール・ウルケーのシステムの方がメジャーとも言える。
報酬は隊長が支払う。だから裕福な奴なら、沢山兵隊を集めていきなり将軍にもなれる。ただ当然ながら、実績のない隊長の下では自分の命が危うい。そういう部隊は作戦途中で瓦解するので自然淘汰されていき、大軍閥の下で認められた者が新たなグループを形成するのだ。
それが各国の現状であり、パンジール・ウルケーの現実でもある。
ノラ・シアンが曹長になったという事は、規定に定められた人員を集め、自分の部隊を作らねばならないのだ。
だがノラ・シアンには支払えるモノなど無い。曹長としての自分の給料は貰えるが、部下の給料分には追い付かない。現地調達……つまり「略奪」というやり方もあるにはあるが、それこそノラ・シアンが戦場で見てきた、最も嫌な光景の一つだった。だからそんな選択肢はそもそも有り得ない。
加えて知己も無い。だからこそデカ軍曹の提案にはありがたいものであった。
スラム貧民街の片隅にある鍛冶屋で銃弾の薬莢を作ってる、小汚ねえオヤジ……蚤虱だらけのドワーフ。
それが第一印象だった。
「アンタが隊長だって?…デカの頼みじゃあしゃあねえ、ヨロシクな」
グローブみたいな手を差し出すドワーフ。ものすごい力で握手してきて、手が潰れるかと思った。
「よろしくお願いします、オレはノラ・シアン。アンタは何て呼べばいい?」
「オレはクルックベシ。元・伍長だ。原隊復帰するならその待遇で頼むぜ、坊や」
下士官二人までの給料は軍が保証してくれる。それがノラ・シアン分隊に与えられた条件だ。一も二も無く快諾。
「ああ、こちらこそ嬉しいです。でも……」
途端に顔がくぐもる。
「兵隊を揃えるほどの器量がオレには無いんです」
すると、奇妙な笑みを浮かべるデカとクルックベシ。
「何言ってるんだアンタ。“マルマラ海の英雄・カーラマン”だろ? そこの街の辻で叫んでみな、殺到するぜ」
クルックベシの親指が指し示す方へ行き、デカが声を張り上げた。
「新たな戦争が来るぞーッ! 兵隊になりたいヤツはいるか!? 部落民出身の英雄、ノラ・シアンの下で働きたいヤツは居るか!?」
一瞬、空気が止まったかのようだった。
やがてざわつきが起き、そして大歓声が起きた。
「オラも連れってくれ!」
「カーラマンの下でなら、オラ達も死なずに英雄になれるだ!」
目だけはキラキラさせた、ボロボロの身なりな10代の青少年達がどこから湧いてくるのか、わらわらと押し寄せる。
「給料なんていらねえ、部落の英雄の下で働けるなんて光栄ですだ!」
そんな事言ってる奴まで居る。
「へへ、ちきしょーめ」
鼻を擦って笑顔を浮かべるデカ。彼が悪態をつく時は大体楽しんでいる証拠だ。
確か、分隊は7名。自分と、デカ、ドブロク。そしてクルックベシが加わったのだから、後は3名いれば良い。
「ク…クルックベシ伍長、初任務だ。この中から3人分新兵を選定してくれ!」
「へっ、任せて下せえ!」
こうして、人員は揃った。作戦まであと6日。




