トゥーランドット電撃戦②
母なる星・エウロパ……この星には通信手段が乏しい。一応、旧世紀並みの携帯電話は使用できるが、アンテナは立たないわ、エリアが限定されているわでお世辞にも便利とは言えない。
だから未だに主だった情報機関は新聞だし、固定電話どころか手紙が主流ですらある。
何故か。
端的に言えば地球連邦がユピタルに制限を掛けているのだ。火薬輸入量の規制や、通信・レーダーの規制法案があって著しく不便にさせているのが実情である。
何故か。
ユピタルに独立されたくないので規制をかけて前時代の技術で満足させる……それは表向きだ。ユピタルが分裂して、政情が不安定な方が『飛行石』を安く買い取れるから…………それも真理である。
だが、何より地球人は見下しているのである。
ユピタルの住人はかつて、地球で犯罪を犯した罪人や戦争難民出身だったと聞く。だから1ランク劣る。ならば、上等なものを与える必要なんか無いではないか。現に見よ、彼らは未だに何十年も戦争をしている。戦争を止める事のが出来ないのは劣っている何よりの証左であろう……そう思っているのだ。
そして、決して自分達の身に危険の及ぼさない安全なエリアから、劣等人種の愚かな、コントロール出来ない戦争を、高みの見物して娯楽としているのだ。
だからこそ、たった一つだけ、地球に向けた衛星が光レーザー通信を行い、ユピタルの様子を逐次中継しているのだ。
―という事を、かつて、天才と言われていた二番目の兄から聞いた記憶がある。本当かどうかは知らないが、リアリティのある話だけに怖くて眠れなかった記憶がノラ・シアンにある。
「…聞いてましたかい?」
怪訝そうにこっちの顔を伺う巨体は、デカ軍曹。
辺りは大会議室。教壇にドン・ボルゾック中将が我々、陸戦部隊の小中リーダーを集めてブリーフィングしている真っ最中だ。
「嗚呼、聞いてたよ。ドン・ボルゾックが俺達を前線には置かないって言うんだろ?」
ちゃんと聞こえてたのが意外そうに首を竦めながら、巨体が引き下がった。
「ああは言ってるけど、マルマラ海戦の事もあるからな……あんまり信用しない方が良い」
「へへっ、ちきしょーめ」
悪態を突きながらもどこか楽しそうなデカ。こういう男が片腕になってくれるのは実に頼もしい限りだ。
「それより大丈夫なんすか?」
ん、何が?
「パンジール・ウルケーの兵役システムは、昇進して自分の部隊が出来たら自分達で補充しないといけないんですぜ?」
え!?
オレはこっちにはほとんど身寄りも居ない。知己もいないし地縁・血縁だって居ない。冒頭に思いがよぎった様に、募集をかけたって時間が掛りすぎる。何しろ一週間後に作戦実行なのだ。
「…あ~あ。あのクソ参謀、一杯食わせてきやしたね。“トゥーランドット作戦”とはよく言ったものだ」
溜息をつきながらデカが笑うしかない呈でこちらに語り掛ける。
「ど、どういうことだ?」
「“トゥーランドット”でしょ? 『誰も寝てはならぬ』という意味ですよ。死ぬ気で準備しろってことでさぁね」
「…驚いた。デカ、君は思ったより学があるんだな!」
褒めたつもりだったが、急につまらなそうにして話を切り上げるデカ。
「…生きてりゃ色々ありますわな。それより一人信頼出来る男が居ますぜ…そいつを引き入れましょう」
善は急げ。
こうして、ドン・ボルゾックの熱弁溢れるブリーフィングを、後半何も聞かずに会議室を後にしたのだった。
前回言い損ねてすみません。一章が書けたら、一気にドバっと出していこうという作戦に切り替えました。その代り、期間期間のインターバルが長くなると思いますが、どうか長い目で見守って頂けましたら幸いです。




