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ユピタルヌス戦記  作者: いのしげ
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第二次聖都攻略戦(カルメン作戦)2ー④


「逃げろーーーッ!!」

 雪原に突如響き渡る怒号。

 それに反応して白いシートを剝ぎ取り、狙撃銃肩に担いで逃げ出す二人組。

 一瞬の静寂…雪は音を吸収するから、距離感が掴みにくい。そして急に現れる、世紀末風な武装トラック「テクニカル」の集団。

 逃げているのはご存じ、狙撃班のドクズ&セキズ、それにイェディだ。

 「森に入れーッ!」

 イェディの叫び声で、右手にある森へと舵を切る二人。

 ヒュゴバッ!

 変な音がしてそんな3人の頭上を何かが通り過ぎ、そして森の近縁が大爆発を起こした。

 「RPG!」

 3人が同時に叫んで、今度は舵を左に切って走り出す。

 辺り一面雪原なため、テクニカルも足を取られて上手く進めないようだ。特に世紀末感を出してるためなのだろうか、トゲトゲや余計なギミックを無計画にくっつけているせいで、それがイチイチ雪に引っかかる様子だ。

 それに狙撃班の白い服がうまい事カモフラージュになっていて、照準を合わせにくいこともあり、今のところ3人は生き残っている。だが「今のところ」ではあるが。

 「チキショー! スナイパー兵は走ることないと思ってたのにぃ!」

 セキズがゼーゼー言いながら毒づく。

 「バッカ野郎…俺なんて足治療中なのに全力で走ってるんだぞ!」

 やや遅れて駆けてくるドクズは確かに若干足を引きずっている。

 「兄貴は自業自得じゃねえか!」

 「なんだと!」

 「うるさいわ! 文句は生きてたら聞いてやる、とにかく逃げるぞ!」

 最後尾のイェディが顎を上げながら叫んで、スパートをかけた。

 面白いように、それこそ漫画のように、3人の辺りでロケットが爆発しまくる中、ちょこまかと器用に、間を縫って駆け去っていく。


 「ハァハァ…何とか撒いたようだな……」

 なんとかかんとか、小高い丘の四角に隠れてやり過ごす事が出来たが、3人はもう走るどころか夕食をありつく程の余力さえ残ってなかった。

 雪原を走るのはテクニカルも難しいが、それ以上に人間には向いていない。

 ましてや重い狙撃銃を担って走るのだ。そりゃへたばるのも仕方ない。

 そのまま小一時間ほどもジッとしていた頃であろうか、おもむろにイェディが首を傾げた。

 「今、俺らが逃げてた雪原て、あんまりにも平坦過ぎないか?」  

 そんな事どうでもいいとばかりに、セキズがぞんざいに答える。 

 「きっと凍ってる湖とかじゃねえの?」

 「本当か?……いや確かによく見るとそうだな」

 辺り一面雪化粧しているので俄かには分かりずらいが、確かに湖と地面に区別が見て取れる。配られていた地図を取り出し確認してみると、間違いなく湖だ。

 「だから何だってのさ、泳ぐつもりか?」

 ドクズが鼻で笑ってイェディを笑う。だがイェディは「ふむ…」と何か頷いて、ジッと湖を見つめていた。


 「おい、ドクズ。お前、この戦争が終わったらどうするつもりだ?」

 携帯していたレーションを齧りながら、不意にイェディが訊いてきた。

 時間は夜中。元々夜時間で暗いが、敵に見つかる可能性があるので焚火も熾せない。狙撃班にとってはそんなものは慣れっこではあるが。

 「それって死亡フラグじゃねえか! ヤダよ、オレ答えたかぁねえぜ!」

 小声で気色ばむドクズ。

 「へへへ、大丈夫だよ。俺がお前らを殺させやしないって」

 「なんだよその根拠のない自信!」

 「いいじゃねえか、教えろよ」

 なんだかんだで兄貴分のイェディが訊いてるので、ドクズも少し考えた。

 「…まあ、普通に警官かなあ?」

 「じゃあセキズ、お前はどうするんだ?」

 「兄貴が警官になるなら、俺は泥棒だな」

 「真面目に答えろし」

 ドクズのツッコミが入る。

 「そうだな…考えたこともなかったけど、俺はノラ隊長に付いて軍に残るかも。もし隊長が別の道に行くのなら、そっちに付いてくよ。だって……」

 そこでレーションを飲み込んで一人頷くセキズ。

 「俺らの人生は隊長のおかげで切り開かれたからな」

 そうして暗闇の中で3人は少し笑った。

 「そういうイェディ、お前はどうするんだ?」

 「俺は……」

 ドクズの返しにイェディが答えようとした時、不意に光が差し込む。

 車のサーチライトに騒々しいエンジン音、無駄にとげとげとしたシルエット。間違いなくアトゥンの火のテクニカル集団だ。

 「しつこい奴らだ、まだ探してたんか!」

 イェディがセキズの狙撃銃を奪って一発放つと、一台のテクニカルがれてライトの光が減った。そしてボカンという爆発音。

 「イェディ…ここでジッとしてりゃ、気づかれなかったかもしれねえのに!?」

 「いつまでも追いかけられているってのは、性に合わねえんだ。ここで決めるぜ!」

 セキズの非難を押し切って、イェディが立ち上がった。

 「お前らはここでジッとしてろ。俺に策がある!」

 そして昼間走り回った雪原へと駆け出すイェディ。

 「何考えてやがる、殺されるぞ!」

 ドクズが叫ぶ。するとイェディが振り返って叫び返した。

 「俺はココでおさらばだ!」

 「「え!?」」

 ドクズとセキズがシンクロして声を上げる。

 その脇を数台のテクニカルが轟音を追上げてイェディを追いかけていった。幸い、二人には気づいてなかった様だ。

 「さっき言ってた様にここは凍った湖だ」

 そう言ってもう一発狙撃銃を放つ。それは当たらず、だが、テクニカル達の隊列を乱した。  

 「そんな氷の上を車で爆走すると、衝撃波が湖の凍ってない水へと伝わる……波が起きるんだ!」

 「「え、どういう事!?」」

 またしても二人はシンクロする。双子だからなのか。

 「こまけえ事は良いんだよ。その波がやがて増幅して、上の氷をも割るようにまで成長するんだ!」

 そう言ってる間にもテクニカルが近づき、銃撃を開始した。

 「じゃ、じゃあ今ソコにいるのはヤベエじゃんか!!」

 ドクズが慌てて自分の狙撃銃を構えた。だが、イェディが手ぶりでそれを止めた。

 「イェディ…お前、死んじゃうじゃんか!!」

 「だから言っただろ、お前らの命は守って見せるぜ!」  

 「ダメだって! 兄さん、命令違反でもいい、撃って止めるんだ!」

 セキズがドクズを急かす。ドクズも頷いてボルトを引いた。 

 「じゃあな、クソバカな双子共。それなりに楽しませてもらったぜ。それと隊長によろしく! こんなに生きてきて楽しかったことは――」

 だがイェディの声はRPGによって搔き消された。

 派手に吹き上がる火柱。

 「「イェディ!!」」

 テクニカルの兵たちの腕が悪いのか、幸運か。両足を吹っ飛ばされたイェディがまだ生きていた。

 「…へへへ、馬鹿が。自分から氷割ってくれるとはな…喰らえよストークス波!」

 そうイェディが叫んだ瞬間、バッカリと氷が割れて、そこにいたテクニカル軍団とイェディを飲み込んでいった。

 「……ウソだろ、おい?」

 ドクズの声だけが妙にシーンとした静寂に木霊した。そう、先ほどまでの騒音はいったい何だったのかというくらいの、静寂。

 戦場で死ぬのは当たり前だ。そんな事でいちいち悲しんだりはしない。

 だが……庇われて生き残った者のやりきれなさはどうしたらいい?

 二人はただ、呆然とするのみだった。

 

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