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ユピタルヌス戦記  作者: いのしげ
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第二次聖都攻略戦(カルメン作戦)2-③


 ノラ・マーヴィはチェスが好きだ。チェスに興じることで日々の鬱屈した気持ちも忘れたし、嫌な現実を見ないように出来た。

 なにより、アトゥンの火に入って軍を動かすようになると、チェスでつちかった戦術が実際に役立つのを実感できた。そうして彼はココまでのし上がってきたのだ。

 そして思う。

 この状況、チェスの駒割りに当てはめるとクィーンの同士討ちで膠着させているように見えて、外枠を埋められて身動きがとれないのと一緒だ。

 だが……マーヴィはそこで二の句を継ぐ。一見、こちらが詰んだかのように感じるが、なにか向こうの戦術にも穴がチラチラ垣間見える気がする。しかも1つ2つじゃない、もっとたくさんのツギハギを感じる。

 冷静になれ、マーヴィ。相手は完璧じゃない。なにかポカをやらかしているぞ。こっちが反逆するチャンスは未だいくらでもある!

 そのためにも……

 「裏の入口への突入部隊を再編しろ! 夜中に打って出る!!」

 確実に、堅実に、こちらの包囲網を狭めていこう。キングの逃げ道を潰していくのだ。


 「あと集合時間までどれくらいだ?」

 「2日と15時間ほどです……」

 ノラの問いにユルドゥスが眠そうに答える。

 昨日、あれからパタリとテクニカルからのロケット攻撃が止み、なんとか首の皮一枚で正面突破は防げた状況だ。

 それから代わる代わる哨戒に当たってるのだが、さしもの夜間ともなると疲れが溜まってきているのか、ユルドゥスが時々瞼をこすっている。

 「それにしてもあれだけ居たテクニカルが居なくなって、当座はしのぎやすくなったな」

 「一体、なんで居なくなったんでしょう?」

 幸か不幸か、スナイパー部隊の活躍を立てこもっているノラたちには知る由もない。連絡手段がないからだ。

 「さあ……ただ言えるのは、最大の攻撃点は弱点にもなり得る…って昔教えてもらったな」

 「誰にです?」

 「…チェスの好きな兄さんからね」

 他愛もない無駄話でも眠気防止にはなるようで、ユルドゥスが話に乗ってきているのが分かる。因みにデカや他の隊員達は仮眠をとっている。

 「な、なあ……子供の頃ってどうだったんだ?」

 気の緩みからか、つい聞きたくても聞けなかった質問をポロッとしてしまった。彼女は少年兵上がりだということは重々承知している。だが、想像がつかなかったからだ。

 ユルドゥスも一瞬、ムカッとした顔をしたが、こちらに悪意がないのが分かると、フッと息をついた。

 「……別に。えた臭いと血の臭い。それだけだよ。景色はいつもモノクロ」

 そんな人生送っていた人間は誰よりも幸せになってほしい。ノラは心底そう思った。

 「……この戦争が終わったら、お前はどうするつもりなんだ?」

 コレは最近、部下に聞いてる質問だ。示唆に富んでいる返事が意外とあるもので、ノラはいつも参考にしている。

 「さあ。その前に死んじゃうだろうし」

 だが、ユルドゥスの答えは素っ気ないものであった。

 動物は未来のことを考えることが出来ないと言われている。犬や猫だと数十分後のことや数時間の事は考えることが出来るとも言われている。

 別に禽獣みたいだと言っているのではない、生き残るためにそんな先のことなんか考えても仕方ないのだろう。それだけ彼女残し方が厳しいものだったとも言える。

 そう考えていたら、返事のタイミングを逸してしまった。ユルドゥスが怪訝な顔をしてこっちを睨んでる。

 「そんな事言うなよ……」

 慌てて答えたので、実にしょっぱい返事になってしまった。苦笑しながら逆にユルドゥスが質問してきた。

 「じゃああなたは何するんです?」

 自分?

 ノラは自分の将来を全く考えていなかったことに気がついた。案外、彼女と心境は似ているのかもしれない。


 「なあ……なんか変な音しないか?」 

 いつから起きていたのかよく分からないが、突如デカがのっそりと起き上がった。確かにガンガンとなにかを叩く音がしている。鉄門扉からじゃない。裏の方からだ。

 「あの……裏に非常口がありますです~~」

 人質としてとっ捕まえていた管制官の一人が、恐る恐る声を上げた。 

 「はぁぁぁ!? 早く言ってよ!!」 

 「いや……訊かれなかったもので」

 確かにそりゃそうだ。味方でもないのに積極的に教えるバカは居ない。

 心理を突かれ、ぐうの音も出なかった癖に、ノラの喉から変な音がした。

 「ぐう!!」

 …出るじゃないか。ことわざもいい加減なもんだ。

 頭を切り替えて、脳内に地図を組み立てる。

 「デカ、守りに適していて、最悪自爆してもこの電波塔を破壊できる場所はあるか?」

 砲撃。続いての応酬戦で一気に戦場へと姿を変える。最悪、我々の命は犠牲にしてもこの電波塔さえ破壊できれば、作戦は完了となる。

 だが、そうなると……ユルドゥス始めとするシヴァス隊の面々が不憫に思えてくる。若い少女達の命だけでもなんとか救えないものか。

 「チキショーめ! 管制室はダメだ、全然役に立たねえ。そうさな…基底部である地下室だな!」

 うん、と一つ頷きデカの提言に従うこととする。だが、それは逃げ場の無くなることも意味している。

 玉砕……

 そんな単語が脳裏にちらつき始めた。

 「総員撤退!」

 とにかく、今は少しでも時間を稼ぐ。未だ浮かぶ瀬もある…はず!

 「君達はこの場所に置いていく。アトゥンの火に助けてもらうと良い」

 撤収間際、捕まえていた管制官達の縄を解いていく。彼らもアトゥンの火の一員であろうが、無駄に死ぬこともあるまい。開放されれば命まで取られることはないだろう。

 「へ? ……あ、ありがとうございます……」

 人質に感謝されるとは。その皮肉っぷりに思わず笑ってしまう。

 一応、責任者と思わしき2人のみ拘束して地下へ地下へと潜っていく。


 残り、2日と14時間―


実にTwitterだけじゃなくて、全ての世事に疎かったので存じ上げなかったのですが…「~なろう」の世界ではTwitterでの広報が当たり前だったんですね。

そして、昨年ですがTwitterで告知をしてくれました「既に読専のコボルト @ 物語を愛する人に祝福を!!」さん、本当にありがとうです! 知らぬ事とはいえ、一年以上間が空いたこと、陳謝とともに感謝です!!


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