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ユピタルヌス戦記  作者: いのしげ
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マルマラ沖海戦ー⑤


 轟雷の音が腹にズンと響く。近くの高射砲が発射されたのだ。

 考えてみれば空中戦艦とはいえ、質量保存の法則には逆らえない。重く武装すればするほど、いかに半重力物質で浮かぶ事が出来るとはいえ、スピードは鈍るのだ。

 だから高射砲は空中戦艦にとって大いに驚異といえる。

 ……数隻程度の話ならばだが。

 

 「遅え! 何やっていたんだ新人共がぁ!」

 陣地に戻るや直ぐに罵声が飛んだ。折しも、敵であるヴ帝国軍艦が被弾して地表に墜落していくのが、ベシ軍曹の背中越しに見えた。

 「は…すみません!」

 簡易的な敬礼をしつつ、陣地内を見渡す。高射砲の弾は残り5発。とてもこれで残りの艦隊を退かせることは不可能である。

 何よりパンジール・ウルケーの高射砲は徹甲弾だ…と言えば聞こえは良いが、単なる鉄の塊である。地球による火薬の規制が厳しくて、炸裂弾を作れるほどの余裕が無いのだ。

 なので、弾が当たっても空中戦艦が直ぐに撃沈する事は無い。

 二発目装填を終えた後、ノラ・シアンは叫んだ。

 「隊長殿にご提案がございます!」

 どおん! 追随の如き地響きが、地震の様に襲う。

 はじめ、高射砲の発射衝撃だと思った。しかしそれにしてはあまりに大きすぎる。

 さっきの撃沈した空中戦艦が地表に堕ちた衝撃だと気付くのに、だいぶ時間が掛かった。

 空には時々、近隣からの高射砲部隊と思われる光の弾が撃ちあがっているのが見える。

 ガマガエルに聞こえなかったと思い、もう一度同じ事を叫んでみた。すると、いきなり鉄拳が飛ぶ。

 「うるせえ! 一度言えば聞こえるわ! それより口よりも手を動かせ、クソ野郎!」

 言われるがまま、三発目の弾と薬包の装填をウンウン言いながら済ませる。残りはもう3発。

 「隊長殿!」

 自分の仕事は終えたので、今一度の具申をしようとした。ガマガエルも流石に、コイツ話をするまで止めるつもりねえな…と感じたようで、溜息を一つ吐いた。

 「…なんだ、手短に言えよ」

 「撤退しましょう! このままではジリ貧です。このままだと…!」

 言い終わらぬうちにまた鉄拳が飛んだ。流石に食らい過ぎて腰に来てしまい、後ろに盛大に吹っ飛ぶ。

 ドブロクがおろおろしながら、抱え起こしてくれる。

 「バーヤロー! 他の高射砲部隊が居ながら、オレ等だけ撤退なんかしたら、笑いものだろーが!」

 ガマガエルの声に呼応するかのように、辺りが爆音と閃光と地響きでシェイクされる。

 「……!!」

 何かガマガエルが叫んだような気がした。だが、本当にそうかという確信は持てない。

 

 …五感が戻るのにどれだけ時間が掛かったのだろうか。身体を触って先ずは死んでない事と、怪我が無い事を確認する。

 次に目が見えることを確認してから漸う立ち上がった。幸い、この陣地に異変は起きてはいなかったが、辺り一面業火に覆われていた。

 空中戦艦だって単なる的あての標的ではない。一斉反撃にて対地砲を撃ち込まれたのだ。

 どうやらこの陣地以外全滅した様子。というか此処だけが残っているのに奇跡を感じる。

 「た、隊長殿…ここはノラ・シアンの言う通りでさあ。オレも撤退を支持します」

 頭を打ったのか、デカ伍長も後頭部を摩りながら、立ち上がって意見を述べた。

 「ぐ…むむぅ……て、撤退!」

 ビル、イキ、ウチュ。全員無事なのを確認して、一目散に陣地を後にした。

 ヴ帝国艦隊は、地上砲火が沈黙した事を確認して、攻撃の第二波は取りやめた様だ。どこも火薬は惜しい。深追いしなかったのがこちらにも吉と出た。

 「言っとくがなあ、ノラ!」

 暗闇を走りながら、アルトゥ軍曹が怒鳴る。

 「お前の意見を聞いた訳じゃねえぞ! これは戦略的撤退だ!」

 ハイハイ…心の中であしらうノラ。

 「だがしかし、どうするつもりだノラ? ここはイスケンベルン市だぞ。パンジール本島に戻るには海を越えねばならない」

 パンジールウルケーは大小2つの島から成り立っている。パンジール・ウルケーの本島は左の大きなイスタンブール。右の小島が今、我々の居るイスケンベルン市のあるアンカラ島である。

 「だ、大丈夫です! 知り合いの海賊が船を持ってますから…そ…それに乗って…」

 「おい待て…その船って…」

 後ろを走っているイキ上等兵が声を上げた。

 「本島に水の上を走る船じゃないだろうな!」

 この星の水は何故かやたらと粘性が高い。だから水上舟を漕ぐのには多大な技術と労力を要する。

 それもあって空中船が発展したのだとも言える。同じ帆船ならば、抵抗の少ない空中船の方が効率が良いのだ。

 「それ以外、脱出方法ないでしょう!」

 「…拙者が操船出来る。任せるでござるよ」

 ウチュ上等兵が口を挟む。聞けば彼は元々、この市の漁師の子供だそうだ。…にしては何でその口調?

 「よっしゃ、ともかく本土へ転身だ!」

 不気味な影に空を支配されたイスケンベルン市を見棄てて、脱兎の如くパンジール・ウルケーへとひた走る。

  

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