第二次聖都攻略戦(カルメン作戦)⑧
―2時間後―
爆煙とともに吹き飛び散る扉。そこへ突撃銃を持った兵士たちがなだれ込んでくる。
次々と、次々と。
「認識、グリーン。もぬけの殻です!」
先に飛び込んだ兵長の怒鳴り声が、外にいたノラ・マーヴィにも聞こえてきた。
「フン…勘のいい奴め……」
顎を持て弄りながら、マーヴィは辺りを見渡した。さっきまで止んでいたブリザードがもう復活している。
敵の足跡なども当然ながら搔き消されており、追跡するのは至難の業だろう。勘の良さに加えて、運まで良いと見える。
だが逆に、奴らは十分な食糧を持っていないはずだ。どれほどの人数か知らないが、このブリザードの中で生き残れるほどの重装備でもないだろう。
ただ…若干心に何かしら残るものを感じる。なんという事ではないが、直観めいたものだ。
「フン…所詮、地方の部隊長が出来る事などここまでか……」
自嘲めいた笑みを浮かべ、聖都へ報告のため、通信兵を呼び寄せる。追跡が可能なら追いかけるも良し。とはいえこの手間取りの分、敵は聖都に潜り込んで見つけるのが至難となるだろうか。残念である。
逆に追跡が認められないのなら、そんな無能な司令官の下にいるのは下らなさすぎる。戦闘に紛れて部隊ごと逃げ出してしまおう。
そんなことを考えて、またマーヴィは暗く笑う。
そんなマーヴィ率いる追跡部隊から1リーグ(約1.8㌔)もないログハウス。
そこにノラ達、先行部隊は居た。
暖炉に火をくべると煙が出て発見される恐れがあるので、ただひたすらみんなで寄り添い固まっている。
「お、おい…本当にここは大丈夫なんだろうな?」
歯をガチガチしながら、イェディが確認した。
「あ、ああ……さっき敵が近くまで来てうろついていたが、ココは雪に埋もれているせいか、見分けがつかなかったようだ…ぜ」
同じく歯をガチガチならしながらセキズが頷く。そう、丁度吹き荒ぶブリザードが家を小山の様にして隠してくれているのだ。
「チキショーメ、それはいいとしても…本当に次の部隊がこっちに向かっているのか? 待ってる間にこっちが死んじまうぜ!」
今度はデカがドブロクを睨む。
「ま、間違えねえですだ……先ほど、司令部から定時連絡をもらって、第三陣の先行部隊が送られてくるって言ってましただ」
「で、どこが来るんだって?」
「いえ、それだけで、バッテリー交換が切れてしまったですだ……」
極寒の地では、ユピタル製の安物バッテリーなんざすぐに死んでしまう。何とか発電方法を考えるか、予備バッテリーを手に入れないと……
それよりも次に来るのが誰なのか気になる。ていうか、古豪のサフランボル隊ですら全滅したのだ、それに見合う部隊なんているのだろうか?
そして次のも撃墜されたら、作戦は終了である。今いる先行部隊も食料が尽きて凍結するか、一か八か聖都まで殴り込みに行くかだが、どれも成功の見込みは薄い。
ヌーリに渡りをつけて食料を補給してもらうことにするか……
実はこの小屋を手配したのもオスマン・ヌーリである。勘が冴えていて、とても心強い。
「隊長、どうするんでさあ? このままジリ貧になるまで待つんすか? それとも打って出ますか?」
メフメドがこの寒い部屋の中で、鼻息荒く訊いてきた。それだけで部屋が1~2度暖かくなった気がした。
「…待つ。必ず第三陣は来る! 扇子男の意地に賭けても、この作戦は失敗できないのだからな」
デカの力強い目を見て、全員無言で頷いた。そんなノラから大きなくしゃみが飛び出して、一同は笑いに包まれたのだった。
「参謀総長にお願いしたき件があります!」
アポイントメントもなく入ってきた下士官を見て、侮蔑の目を向けるフィデル・マスーラ参謀。
「慮外者の言葉など聞く気もない……」
「いえ、推薦状ならばココに!」
そういってバンと机に出されたのは、王女ライラ・ベラ・マスーラの文字。あの子はまたも楽しんでいるのか……そう思って扇子の向こうで小さなため息をついた。
「―で、君も第三陣先行部隊に志願するのかい?」
「はい!」
そういって敬礼した者の足には包帯が。松葉づえは必要無くなった様だが、それでも全速力で駆けるのは無理だろう。
そう。フィデルの前にいるのはイズミル隊所属のドクズ軍曹である。
「君は怪我が治っていない。それに訓練中に事故を起こすなど、とても優秀な兵士とは思えないがね?」
「いいえ閣下! それは認識の違いです、自分ほど優秀な狙撃兵は北部同盟の中には居ないと自負しています!」
「どういうことだね?」
「なにしろ、スコープを覗かずに自分の足を撃ち抜けるのです。こんなに優秀で勇敢な兵士はちょっと他に居ないと確信しております!」
コイツめ……ちょっと面白くなって、扇子の向こうでニヤリと笑ってしまった。
笑ったら負けか……扇子を閉じ、面白くもないような顔をして淡々と受け答えをする。
「分かった、君の名前も候補に入れておこう。ただ、他の参謀や将軍がウンと言うかどうかはわからないぞ?」
「は。ありがとうございます!」
勝利を確信した顔でドクズ軍曹は退出していった。
「さて、あとは誰がこの危険な役目に挙手するだろうか……」
本来ならばスカルパント隊が適任だろう。それかシーラーズ隊か。
しかしスカルパント隊は強行浸透偵察に欠かせないし、総攻撃の要でもある。シーラーズ隊は再編成されて間もないので、兵が熟練ではないから犬死になるだろう。
そうすると―アレしかないか。
そうして、フィデルはある部隊へと連絡を入れた。
最近職場が変わったので、こんな時間になってしまいます。ご容赦願えれば幸いです。