第二次聖都攻略戦(カルメン作戦)①
ユピタルヌス歴233年4の月、1日。
寒々とした長き冬も終わり、雪解けの小川がアチコチの渓谷で音を立て始めるこの時期は、人々にとって待ち望んだ季節でもある。
3日おきに昼と夜が来るユピタル世界の冬は閉塞感の圧が地球とは違うのだ。
あの二人のテラリアン、慣れずに苦しんでいる事であろうか。いや…オウミは日差しもあるし不都合なく楽しく過ごしている事だろう。ふとそんな事を考えてノラ・シアンが一人笑みを浮かべているこの日、戦功著しいという事でノラ・シアンは中佐に昇進の推薦を得た。
推薦人は勿論ライラ王女と、意外なことにアイシェ少佐からだった。それにドン・ボルゾック中将の添え状もある。
という事で晴れて昇進する事となり、参謀本部へと足を運んだ。
だが、分かっている。
タダほど怖いものはない。もう一つ何か命令が待っている筈だ。寧ろそっちの方がメインに決まっている。そんで、それはとんでもない内容に決まっているんだ。
「おはよう、ノラ・シアン中佐。平民ですらここまでのスピード出世は居ないぞ。ましてや卑賎民上がりでは史上初だ」
部屋に入るなり、嫌味で迎える扇子男ことフィデル・マスーラ参謀。
「は。光栄です」
もうコイツの嫌味は慣れている。黙って受け流し、敬礼で天井を睨んだ。
「さて、近日中に総反攻が決まった。全軍を投入して我々は今度こそ聖都を奪還する」
来た!
オウミに行く前から薄々噂になりつつあったが、参謀総長が言うのだから間違いない。
サンダリエ将軍の無念を晴らせる時が来た…そのためにはどんな無茶でも承知しよう、そう誓った。
その時が来たのだ。
「地図を見よ」
巨大なテーブルにはみ出さんばかりの地図を、扇子で指し示すフィデル。聖都のある半島の精密な地図だ。勿論前線である要塞、大パラチンスクも描かれている。
その大パラチンスクを司令部(G.H.Q)として、南下する事100リーグ(約180㌔)に前線を構築している。
その反対側にアトゥンの火共も塹壕や対空火線を重配備し、塹壕戦の呈を擁しているのが現状である。戦闘車両やユニットでは突破できず、かといって空中艦隊で空から強襲しようにも、対空砲や疎塞気球で撃ち落とせされるのが関の山という感じで、膠着状態なのだ。
皮肉にもパンジール・ウルケーを一躍有名にした疎塞気球の使用方法が、世界中に伝播して今度は我々を阻んでいるのである。全く笑うしかない。
人間は戦争の方法だけは必死で勉強するんだろうな。死にたくないから…か。
「バルジ作戦の反省故か、向こうも防衛を厚くしていてな…中々攻めあぐねているのだよ」
言いながらフィデルがジーっとこっちの顔を窺っている。
「深夜、高高度での上空侵入…そして、パラシュート降下して後方の攪乱を行えば、あるいは……?」
「フ。どうやら同じ結論に達した様だな」
満足そうに頷く参謀総長。いや待て…ていう事は……
「いや…もっと専門の空挺部隊とかに任せた方が良いですよ! 我々では足纏いになりますし、危険です!」
「だったら一月やろう。専門の空挺部隊になるんだ。それに……」
そうして扇子越しにニヤッと笑った。
「言い出しっぺだしな」
ヤラレタ…こういうことか。せめてもの確約は取り付けたい。
「我々が先発としても、後続部隊はドンドン投入するんでしょうか。幾らなんでも少数だけで破壊工作が出来るとか甘い事考えてないでしょうね?」
「ああ、もちろんだ。君達は侵入後、聖都にいる同志パルチザンと連絡を取って、大規模な抵抗運動を煽動してもらう。そして後続部隊と合流後、混乱しているスキを狙い、対空火線を一掃するのだ。君達の働きがその後の戦いの趨勢を決すると言っても過言ではない」
確かに過言ではない。しかしとびきり危険でもある。正直言って失敗の臭いしかしない。
…だが、それでも!
「参加した兵士へ山盛りに勲章を貰えることを条件に、拝命します!」
前にマジド曹長が言っていた。
星の数を上げるよりも勲章の数で年金額が違うのだと。ならば上官としてその配慮は欠かせないだろう。
扇子を畳んで正面から目を見据え、黙って頷くフィデル・マスーラ。この目は信じても良いのかもしれない。
「よし。これより、オペレーション“カルメン”を始動する!!」
頷き返したノラを見て、扇子を広げたフィデルが叫んだ。
お待たせしました。引っ越しも済んで、新しい就職先も決まりました。少し心に余裕が出来ましたので、お話の再開です。
ただちょっと、新しいPCにしたので、ややタイピングに戸惑っております。一応精査しているつもりですが、ただでさえ多い誤字脱字が増えるかもしれません。それでも良ければご笑納くださいませ。