オウミ商国⑩
「私達、観光でエウロパ植民地来たアル。ガイドするヨロシ。チップはずむアルよ?」
高飛車なサングラスの女の方が片言で、ドブロクに話しかけてきた。…それにしたって感じが悪い。大ユピタルの事をわざわざ“エウロパ植民地”と言うあたり、間違いなく地球人だろう。
「ボク、この国の中心地に連れて行ってくれるかな~?」
背の高い方の女はユピタル語を流暢に話すが、それはそれで何か別に癇に障る。当然、ドブロクの反応も塩対応になるのは無理のない話である。
「…オメ達、他の人にお願いするがエエだ。オラ、今日ここに来たばかりで、町の事は詳しく知らねえだよ」
「チッ…ガイド料金吊り上げる腹積もりアルね?」
おりょりょりょ…高慢ちきのサングラス女があからさまに舌打ちしてきて、訳の分からん因縁吹っかけて来たわ。それにしゃべり癖が変過ぎるのがチョット面白くて、それにも腹が立つ。
「ハァ…!?」
すると背の高い方がズイッと割り込んできて、少し前かがみで微笑んできた。ワンピースの胸元越しに胸の谷間が見える。
「ボクボク~、じゃあお姉さんたちが泊まれるホテル教えてくれないかな?」
コイツ……事もあろうに色目遣いしてきやがった。
「ボクじゃねえ、オラ女だぞ! それに今年15になるだ!」
「アラ!」と意外そうな驚きの声を挙げて背の高い女が引っ込むと、グラサン女がまた前に出てきた。漫才師の様な間髪入れぬ掛け合いに、ドブロクのペースはタジタジだ。
「何でも良いアル、ガキンチョに違いないアルよ。それに我々は荷物一杯アルアルよ」
「…荷物?」
今しも軌道エレベーターから降りてきた物に向かって、グラサン女が後ろを振り向きもせずに親指で指さした。
それは大型トラック一杯分というか、大型トラックそのものだった。ただの観光客とは違う。
コレは流石に、何か変だ。取り敢えずノラ隊長の所へ行ってどうするか決めてもらった方が良い。
そう考えたドブロクは、ケッタクソ悪いので顎で付いて来いとジェスチャーして商工会議所へと歩き出した。頷き合ったワンピース二人組はニヤリと笑って後を付いてくる。
道中、ボソボソとテラリアン語で何やら話しているが、何を言ってるのかはよくは分からないだ。でもきっと悪口に違いないだ。それにしても観光客と言えばそうではなさそうだし、武器商人と言えば隙の多さや脇の甘さが気になる。
『それにしても、ユピタル人の瞳はグリーンだっていうのは本当なのねえ』
『ええ隊長。私もソレで感動してます。すれ違う人すれ違う人、みんな瞳が碧色なんですねえ。キレイです』
ホワン隊長とホアメイは、何だかんだで旅行気分が抜け切れていなかっただけなのだが。
白亜のパレスのテラスで何故か黄昏ているノラ・シアンを発見したので、ドブロク軍曹はブンブン手を振った。
「あ、ノラ隊長。ヘンな連中が来たのでとりあえずコチラに連れてきましただ~!」
慌てて体裁を取り繕うも、ドブロクが言うほど変には見えない。
キレイな白いワンピースの二人組……まあ、後ろから付いてくるデカくてゴツイトラックが気になる所だけれども。そもそもこのユピタルでデカいトラック自体滅多に見ない。飛行艇で運んだ方が安上がりだからだ。
「ん。…まあ変と言われたら変だけど…普通に普通のセレブじゃない?」
口に手を当てて、コソコソ話をするドブロク。
「…アイツ等、テラニアンですだよ。それに……」
ドブロクが何か言いかけた所を、その二人組の背の高い方が朗らかに声を掛けてきた。
「ハァイ、オニーサン。貴方がココの代表者?」
「ま、まぁ…一応(使節団の)代表っちゃあ代表かな?」
正確に言えばアイシェ少佐が代表かもしれないが…一杯食わされたのだ。このくらいやり返してもバチは当たらないだろう。それにアイシェが何考えているのか知らんが、こんな、相手も分からず安易に話を進めるヤツ等とは付き合いは無いだろう。参謀本部ならば機密が守れなくなるリスクは負わない筈だ。
そんな事考えてるとはつゆ知らず、どやさ顔してサングラスを掛けた方がトラックを後ろも見ずに指さした。
「良かったアル。じゃあ話は早い、コチラに新兵器持ってきたアルよ」
トラックのキャビンウィングが展開し、中の物が顕わになってノラは思わず呻く。
「こ、コレは……」
「LOSAT…慣性エネルギー誘導弾アル。運用は極めて簡易、でも艦艇ですら落とせる代物アル!」
そう宣言し、スペックマニュアルと取り扱い説明書をポンと渡してきた。
砲弾と対戦車ミサイルの良い所を掛け合わせたような代物…秒速約2000mの超高速で超硬質物質を飛翔、その慣性エネルギーだけで装甲を貫通、大破至らしめる兵器。
コレがあれば、対地の戦闘車両どころじゃなく空中戦艦なんかもイチコロになってしまうだろう。アララトは分からないが、ナザーウ・ボンジューだったら2~3発喰らうと航行不能になる事間違いない。それに小型飛行艇のボモンティ等だったら一発で爆発四散して消し飛ぶだろう。
恐ろしい武器だ……だが逆にここで抑えて、他国へ行き渡らせずに独占出来れば、圧倒的優位に立てる。
でも本当にそれでいいのだろうか?
技術の流出はいつだって起きる。本当に独占できるのだろうか?
それにコレは禁断の「パンドラの箱」ではないのか?
開けるべきか、封印したままにするのか……ノラの脳内で凄まじく逡巡する。
すみません。わたくし、今週から来週にかけて引っ越しをします。それの諸々の手続き等で少しお休みを頂きたいのです。
取り敢えず一週間。26日には続きを投稿出来たらと思います。ちゃんと頭の中には構想は出来てます。よくある「作者急病につきお休みさせて頂きます」とは違います。「何て中途半端な所で立ち止まるんだ!」という気持ち、よく分かります。一つだけ言わせて下さい……全部コロナが悪いんや!