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ユピタルヌス戦記  作者: いのしげ
103/135

アレッポ高原にて⑪


 「全く…無茶苦茶ですがな~!」

 着任早々、ギリム技官が嘆いた。

 「“ヤマトのサナダサン”や、“青い猫型ロボット”かなんかとワタシを勘違いしてやしませんか~?」

 ギリムの比喩表現は時々何言ってるのか分からない。ので、無視して話を進める。

 「とにかく今言ったように、少年兵キャンプベースをすぐに見つけられる装置と、自爆兵を何とかする装置を今すぐ作ってくれ! 期限は明日までにだ!」

 そんなのは無茶だと、コッチだって自覚はしている。だが……こっちだって後が無いし、それに、ギリム技官は何かしてくれそうな雰囲気があるのだ。

 「そんなん…もうドローン作るしかないですか~! でもドローン技術ならまだしもUCAV(無人攻撃機)くらいのパワー、そして容量、制御装置……全てが足りませんよ!」

 大袈裟な仕草で頭を掻きむしり、諸手をジタバタして訴えるギリムが何かのダンスを踊っているかの様で、何だか見ていて面白くなってきた。だがノラは敢えて仏頂面をして、ここは何も言わずに推移を見守る事にする。

 「はひゃ~、この部隊はノンビリ研究する時間があるって聞いてたから来たのにぃぃぃ!」

 泣きそうになってオリジナルの踊りを加速するギリム。その時、後ろに立っていたスィベル少尉がギリムの首根っこを掴んで踊りを力ずくでねじ伏せた。そして耳元で囁く。

 「ギリム、君が昔言っていた例の装置だったら、このユピタルヌスの世界でも十分使えるんじゃないのかな?」 

 「で、でも……実験してみない事には……推力としては脆弱だし……」

 そんなギリムを揺さぶる様に励ますスィベル。そしてこちらをチラリと見ながら話を続けていく。

 「ギリム。何でも新技術は”トライアンドエラー”だろ? それに失敗したってノラ隊長が更迭されるだけなんだから、何でも思いっきり試してみなよ」

 なんだか、不穏な発言を聞いた気もするが…聞かなかったことにした。

 「何か用意する物があるのなら、スグに手配する。事態は一刻をも競うのだ…手を貸してくれ!」

 キラリ…!

 マッド・サイエンティストの火が目に宿ったのがハッキリ分かった。ざわざわ…と背筋の毛が逆立つのを感じる。とんでもない化け物の覚醒だぜ。

 「ヒヒヒ! じゃあアルゴンを用意して下さい。ユピタルのテラフォーミング装置で副産物として今も作られている筈ですから、簡単にスグ、入手できますです!」

 「分かった。それとこの艦の一室を提供する」

 「じゃあ明日までに…やってやるですう!」

 …高笑いする悪魔を尻目に、部屋を後にするノラ。ギリム技官の手綱はスィベル少尉に任せておけば問題なさそうだな。さあ次はメメット中尉とドブロク軍曹への説明か。ため息付きすぎて腹が減って来る。

 

 「また財政出動させるんですか!? イズミル市で暴動が起きますよ!」

 メメットが小さい目をひん剥いて、青筋を立てて怒っている。まあ怒るよなあ……納得はする。

 「メメット中尉、これは投資なんだ。今はキツくても、絶対・・に還って来るんだ」

 「隊長…ワタシャねえ、絶対・・って言う奴の言葉を信じとりゃあせんのですわ!」

 うう…手ごわい。何か納得出来る反撃素材が無いか、頭の中のタンスを出したり引っ込めたりしていると、メメット中尉がニタリと笑った。

 「隊長…じゃあ隊長の給料を数年分前借りするって事にすれば、一応帳簿を合わせる事は可能です」

 えぇ~…またか!

 少佐になってやっと今までの借金を返済し、少しは懐が温かくなったのも束の間、今度は数年の借金持ちか。うかうか死ぬ事すら出来やしない。

 「隊長、そんな絶望した顔しないでくださいよ。隊長の仰る通り、クンドゥズ州の野菜が安定供給出来るようになれば、隊長の借金もチャラになって副収益でウハウハですよ?」

 ううう…メメットの言動の裏には、ハイリスク・ハイリターンならイズミル市が請け負うのではなく、個人で責任を負え、と言っているのに等しい。

 全く以て言い返す事が出来ず、力無く頷きながら借金を申請する羽目になってしまった。いずれ軌道に乗れば、市の金持ち達が便乗して大きなウネリになると信じて。 

 そして、妙に寒さを感じながらドクタ・ナカモラの診療所を訪れ、ドブロクとメメットを紹介した。受け入れ態勢はバッチリの様だ。

 

 25日。

 

 昨日とうって変わって、日が差し込む暖かい陽気となった。

 ギリム技官が作成したUCAVを見て、安堵する。突貫工事で作ったからなのか、貧弱だったからだ。昨日までの雪模様だったら、飛ぶ前に壊れていたかもしれない。


 「貧弱? 言ってくれるじゃないですかぁぁ」

 大仰にギリム技官が溜息を付いた。

 「コレは大気の薄いユピタル用に作った、高々度UCAVなのですよ。いいですか、この軽い機体は木製モノコックボディです。何故木だって? それは木が一番レーダーに引っかかりにくいからですよ!」

 無茶な要望の結果、一番費用対効果があるのが木と布で作ったこのドローンとは…先行きが不安だ。

 「あ。今、『不安だ』という顔しましたね? 見た目と違って、コイツはスゴイ高性能なんですよ! 見て下さい、イオン推進エンジンなんですよ!? 大気が薄いユピタルならではですよ。これによって『飛行石』を使用する事が無いので、全体の軽量化に成功してるんですよ」

 なんだかよくは分からないが、兎に角、省エネに徹した機体だという事を言いたいらしい。

 「それによって高性能望遠カメラを搭載する事が可能となって、正確な位置把握も可能になりました。ただ欲を言えば、人工衛星を飛ばしてGPSを設置したいところですが……」

 「ああもう。分かった。わあッかりました。じゃあそれを早速飛ばそう!」

 「あ。コレは補助が必要でして……」

 聞けば離陸能力が無いらしい。仕方ないのでボモンティの後ろに括りつけて、或る程度スピードが出たら切り離すことになった。…凧じゃねえか。


 <隊長、G-8地区です。敵のキャンプの付近と思われます!>

 晴れ渡った蒼天の中を先行するエフェスから連絡が入ったので、無言で片手を振る。するとタコ糸が切れてお手製UCAVが実に静かに飛び上がっていった。

 尾軸から青白い糸が見えた。きっとあれがイオン推進エンジンなのだろう。じっくりスピードを上げて我々を追い越すと、段々見えなくなって点となってしまった。一抹の不安が残る。

 「映像来ました!」

 コントローラを操縦していたギリム技官が興奮気味に叫ぶ。いやいや、ここまでは出来て当たり前なんだってば。

 「ヘイ隊長、早速敵基地発見しました。方角10時、距離1.5リーグ(約2.5㌔)」

 むぅ…ちょっと例のドローンを見直したぞ。

 「搭載している多弾頭催涙弾で一気に無力化出来ます!」

 「ん? ちょっと待て。催涙弾って……」

 ここユピタルヌスではBC兵器(※バイオ=生物兵器と、ケミカル=化学兵器の事。毒ガス等も含まれる)の使用を疎ましく、そして卑劣と思う風潮がある。勿論そんな技術を保持しているどころか、生産できる者が少ないのが大前提なのだが、どうしても「卑怯者」というレッテルを張られてしまうのが怖いのだ。ノラも大なり小なり、そういう気持ちはある。現に今までBC兵器に対峙する事は無かった。

 「ハァ~…何言ってるんすか、隊長。バカなんすか?」

 溜息交じりでそれを喝破するギリム技官。

 「もしかして催涙弾は卑怯だと思ってます? じゃあ、どうやって少年兵を救う予定だったんすか? 強行突破すか? ソレで何人犠牲者出るんすか?」

 「う…それは……」

 「そもそも一番卑怯なのは、戦場に少年を使うヤツ等じゃないんすか? 目的と問題を履き違えちゃいけませんぜ?」

 ギリムの言う通りだ。ココは誰一人犠牲者を出さない事こそが一番の解決方法なのだ。そのくせ、地雷なんかはそこら中に埋まっているという矛盾。因みに蛇足だが、戦闘車両やトラックだと地雷の犠牲が多々あるので、ボモンティの様な飛行タイプの兵員輸送艇の方が有りがたいというのもある。

 

 …汚名なんて喜んで被ろう。そもそもこんなん、戦争と言えない。認めたくない。

 「やれ。ギリム少尉。人命が第一だ!」

 「あいさー!」

 ひ弱なUCAVから催涙弾が何十発と打ち込まれる。

 阿鼻叫喚と、意味の無い銃撃が聞こえたが、やがて少年兵ベースキャンプから涙に咽ぶ声だけが聞こえ始めた。

 「総員、ガスマスク着用。子供は全員収容し、抵抗する大人は殺せ! 抵抗の無い者は拘束せよ」

 冷徹に、迅速に。

 3機の飛行艇が虎の子のジェットエンジンを飛ばして急発進したので、振り落とされないようにそこら辺に必死でしがみ付く。

 イズミル隊が強行着陸すると、無抵抗の者を一網打尽にして転がした。ものの10分も経たずに全ての者を収容出来る様にしたのは日頃の賜物か。今までの煮え湯を飲まされた経験がウソの様だ。

 <6時方向より敵兵接近……自爆兵です!>

 不意にハリデ伍長から通信が入った。敵さんがベースキャンプ奪還の為に自爆兵を放ったのだろう。

 <隊長、出来るだけ分隊を近づけて下さい。デコイ=チャフ弾を投擲します!>

 「はぇ?」 

 ギリム技官の問いに情けない声を出してしまうノラ。

 <理論上、チャフ弾をばら撒けば、自爆装置への遠隔操作を一時的に攪乱出来ます。その間に爆弾を外します!>

 実際にギリムをじっくりと見つめる。隣にいたオン諸共、二人が力強く頷く。

 一か八か、のるかそるか……!


 「よし、オレも行くぞ! デカ、護衛しろ!」

 「チキショーメ!」

 次の瞬間、ドローンから放たれたチャフ弾が、煌びやかに満天の星の弾幕を張った。

 そのキラキラした星空の中を全力で駆け抜ける。

 一人の自爆兵をいとも簡単に転がすと羽交い絞めにし、解体するギリム技官を待つことにする。

 「落ち着け、今爆弾を剥がすから暴れるな!」 

 誰も彼も命懸けだ。ギリムは一番近くにいるから、失敗すれば死を免れる事は無いだろう。 

 周辺の警護、並びに自爆兵が死ぬ気満々だった場合の要因のオンだって死が最も近い。しかし妹の汚名を晴らすため、彼女だって命懸けなのだ。

 デカも、ノラも。命を賭けたのだ。ギリムの科学に。 

 「解除成功! 起爆装置は幼稚な作りですぞ!」

 笑って爆弾の巻き付いたジャケットを取り払って笑うギリム。それを黙ってオンがブン投げた。

 途端にその方角から起こる爆発音。

 「…結構ギリギリじゃねえか!」

 デカが口に入った砂利を吐き出しながら呻いた。

 「行くぞ、チャフ弾が効いているうちに自爆兵の爆弾を取り外すんだ!」 

 そう言って駆け出すノラ。

 「た、隊長。聞いてください! はぁはぁ……じ、実はそれに対しての対策もあるのです!」

 後から追いかけて来たギリムが、体力なさそうな蒼い顔して息も絶え絶えに喘ぎつつ、ニヤリと笑った。

 「こんな事もあろうかと、『指向性フレイ効果発生装置』もUCAVに搭載してんスよ!」

 

 ん…なんだそりゃ??


うう~、すいません! 本当は前後に分ける予定じゃなかったんですけど、資料失くしたり、なんだりしてたら時間無くなってしまいました……

ある程度行ったら、前後編に別れているのは纏めますね。

いやはや…コレはコッチの采配ミスです。本当に申し訳ないです。

そんなショゲてるいのしげさんに、応援のコメント…してくれてもええんやで? そうすると書くペースが上がったりするかも…しれないんやで? 

べ、別に寂しがり屋だとか、そんなんじゃないんだからねッ!

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