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転移3



「姫様のご帰還である、開門せよ!」



 門番であろう兵士が声を上げると、見上げるほど高い丸太が組み合わされた門がヂャラヂャラと鎖の音を立ててゆっくりとこちらに倒れてくる。

 この世界はあまり文明が進歩していないのだろうか、戦国時代や、中世ヨーロッパのような門構えといい、石を組み合わせて作られている英国風でかなりの大きさの城だった。まさか城に人が住むなんて信じられないが、この世界では当たり前のようだった。迷路のような廊下が張り巡らされてあり、とても一人では目的地までたどり着けない自信がある。

 ガラリとしただだっ広い部屋に通され、彼女と二人きりになった。



「申し遅れましたわ、私、エリザベラ・コルネッラアウローザ・ラルデッラ、と申します」


「エ、エリ?」


「はい、エリザとお呼び下さいませ」


「お、俺は永時、月村永時つきむらえいじッス」



 エリザの大きな目が輝く、胸の前で両手を合わせている。



「エージッス様、で、ございますね」


「いや、ッスはいらないの、永時。あと、様なんてつけなくていいッスよ」


「すっ、すみません、でもなぜですか? エージ様は伝説の勇者様ではありませんか」



 眉頭を上げ、敬意を払うのは当たり前だというような顔つきで覗き込むように俺を見上げてくる。

 ――近い近い、目の中に映る自分が見える程の距離まで接近されると、思わず一歩引いた。



「勇者? 俺が?」


「はい、――光の無くなりし時、異世界より舞い降りしその者、この世界に再び光をもたらすであろう――という予言がこの国にはありますの、まさにエージ様はその者ですわ、その証拠に右の首筋には魔方陣《gate》を浮かび上がらせる痣があるはずです」



 ――痣、というフレーズを聞いた後、息を飲み込む。初めてこの世界に来た時に死んでしまっていた男を思い出す。思わず首筋に手を当てる。



「あ、いや......そ、それは多分俺じゃ――」


「あの!」



 言い終わる前にエリザの声が響く、急に真っ赤な顔になったかと思うと、下を向きもじもじと肩を揺らし両手の爪先を弄る。



「あ、あの、あたしね、幼い頃から、自分より強い人のお嫁さんになるって決めて......たのね」



 二重人格ではないのかと思うほどに口調が変わる、甘えたように恥じらう姿が可愛いすぎる。



「伝説の勇者様とだったら、お父様も許してくれると思うの、だからいいよね勇者様、あたし勇者様のお嫁さんになっても」


 グイッと近づき再度俺の目を見て勢いよく言った言葉は意を決して言ったように見えた。



「だからそれは俺じゃ――」



「姫様、ここでしたか!」



 俺の台詞を掻き消すように五人のメイド服を着た女性が早足で近寄ってくる。その声を聞くや否やエリザの甘えたような

 表情は頬の赤みも消え、キリッとした表情に変わる。



「おお、お前らか、久しいな」



 メイド達は俺の姿を見て一礼するとエリザを囲むように輪になる。



「姫様! ......まっ、たこんな格好で」


「ん? ダメか?」


「ダメです、早くお風呂へ向かい下さい」



 彼女達の中でも一番年配の女性がエリザの羽織るジャケットのボタンを閉める。



「んーっ、よいよい、大丈夫だ」



 嫌がる子供のように体を揺らしメイドの手を振り払おうとしている。



「そんな不潔ですと、殿方に嫌われますよ姫様」



 茶髪のメイドに言われると、エリザの顔は一気に赫らむ。



「おや、姫様、どうかなさいましたか?」



 意地悪そうに茶髪メイドに言われる。



「そ、そうなのか、男は不潔がキライなのか? ゆ、勇者様もか?」



 エリザはそのメイドに顔を近づけて小声で言ったつもりなのだろうが、完全に聴こえた。



「はぁい、そりゃあぁ、そうにございます」



 メイド達を跳ね除けるように胸を張り部屋を後にするエリザ。



「エージ様、また後でお会いしましょう」


「あ、ああ」


「では、勇者様はこちらにお通しするよう、言われておりますので」



 あの意地悪な笑顔でエリザを軽く操ったメイドが、俺を案内してくれるようだ。

 黒いフリルと白いエプロン、少し茶色がかった巻き髪にヘッドドレスという教科書通りのメイドだった。



「勇者様はもう姫様と?」



 前を歩くメイドは後ろ姿のまま、内容とは異なる単調な口調に驚いた。



「えっ、姫様と? っと、言いますと......?」


「もう、分かってるくせに......」



 その言い方にドキッとさせられる、彼女いない歴イコール年齢の俺には駆け引きのような話し合いの免疫がない。

 しかしその言葉の意味は分かっている。



「いや、何も」


「そう、ですか」



 大きなドアを開ける、中に通されると、さっきとは違った感じの部屋だった。窓からは明るい光が差し、大きなソファーに大きな鏡、横には衣装が山ほど掛かってあった。



「奥のドアを開けるとシャワーがあります、そこで汗をお流し下さい、その間に衣装を用意させていただきます」


「あ、ありがとう」



 ソファーの前で辺りを見回す、メイドは衣装を選んでいる。

 窓から見える景色はどこまでも続く緑だった。あの魔王とか言っていた奴が居た世界は何処だったのだろうと思い返す。

 バサバサと何着かの服をソファーに投げ置いたメイドと目が合う。



「ん? 早くシャワー浴びたら?」


「え? あ、でも」


「......覗かないわよ!」


「あ、はいっ!」



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