病室にて -ルービックキューブ-
「何してんの?それ」
「ルービックキューブや。見たら分かるやん」
本条はカラフルな六面体を弄り回していた。
「こういうのってルールがあるねん。だからそれさえ知ってれば余裕で出来るんや。」
本条は険しい表情で呟く
「へぇー」
本条は無心になってやっている、僕は黙ってそれを見ていた。
「全然出来てへんやないか」
「いや、ちゃうやんか。まだ途中やんか」
「いや、"余裕"で出来るって言ってたのに、もう5分以上経って一面も揃ってないやん」
「いやいや、それはお前勘違いしてるわ。揃うときはバシッと一辺に全部揃うから。」
「なんで、一辺に全部揃うねん。物理的にむりやろ」
本条は首を傾げている
「いやーおかしいなぁ。ちゃんと言われた通りにやってんのになぁ」
「というか、なんでそもそもルービックキューブをやってるの?」
「あーこれか」
本条がちらっと僕を見た。
「これは滝本がお前が病室で暇しとるやろうからって言うて、俺に持たせてくれたんや」
「へ?」
「それでお前に渡そうと思って持ってきたんやけど、いきなり渡されてもやり方分からへんやろうと思って」
「今、お前にやり方を見せてるとこや」
本条がカチカチとルービックキューブをカチカチと回す音だけが病室に鳴り響く
「本条、これ言ったら悪いんやけどな」
「おう。なんや」
「俺ルービックキューブ出来るで」
「ん?」
本条が僕の方を見て、目を見開いている。
「いや、おれ全面揃えるの余裕で出来るで」
「...」
カシャン
本条がルービックキューブを床に落とした。
「俺は、お前に今まで泳がされてたってことか...」
「いや、お前が勝手に泳いでただけや」
本条がルービックキューブを拾い上げて、僕に手渡した。
「無駄な時間やったな」
「まったくや」
僕は手の中のルービックキューブの修繕作業にかかり始めた。
病室にて -ルービックキューブ- -終-