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冒険者って本当は冒険しないんですね(笑)  作者: 丸山ヤスコ
序章 プロローグ
7/97

別れ

「どこからでもかかって来ていいぜ!」


「じゃあ遠慮なく!」


アルトはシャルムを素早く装備し、シルザに向かっていく。


「本当速くなったなぁ」


(でも、動きが一直線だぜ?)


アルトがいくら速くなったと言っても、まだ目で追えるレベルだ。

そのような相手にパンチを入れる事などシルザにとっては朝飯前だ。


「一発KOだ」


シルザはアルトにパンチを入れる。


互いに拳の戦いであるため、大人でリーチの長いシルザが有利だ。


それはアルトも充分分かっていた。


「それはどうかな?」


シルザのパンチが飛んでくる。

その時をアルトは待っていた。


一直線に走っていたアルトは、シルザのパンチをかわすように急停止する。


「何⁉︎」


シルザのパンチは空を切る。


その隙をアルトは逃さなかった。


「おらぁ!」


大きく空いたシルザの胴体に潜り込み、パンチを入れ込む。


「うおっ」


アルトのパンチにシルザが仰け反る。アルトはパンチを打った後、すかさず距離を取る。


「ククク、中々良いパンチを打つようになったな!」


「まぁな、だいぶ力も上がったしな!」


「そうだな、もう少し本気を出してもいいみてぇだな」


「え?」


一瞬だった。シルザは突然目の前に現れた。本気のスピードを出してきたのだ。


そしてアルトにデコピンをお見舞いした。


「痛え!その速さは卑怯だろ!もうちょい手加減しろよ!」


「どうしたアルト?もう終わりか?」


シルザはニヤニヤしながらアルトを見下ろす。


「こんなので終わってたまるかよ!」


アルトはすかさず立ち上がり一直線にシルザに向かう。


「人間はモンスターとは違う。同じ手は効かねぇよ!」


シルザはアルトがまた急停止すると思って、しっかりとアルトの動きを見る。


しかしそれが間違いだった。


「これが俺の最大のスピードだと言った覚えはない!」


アルトは逆に、更に加速して一気にシルザに殴りかかる。


シルザはアルトの動きを見過ぎだため、反応に遅れてしまったが何とか回避する。


それでもアルトは攻撃の手を緩めない。小さい体で機動力を生かした戦い方でシルザを確実に翻弄させる。


「へー、アルトもかなりやるじゃない。シルザも内心びっくりしてるでしょうね。結構本気で避けてるもの。でも…」


(くそッ、こんなに攻めてるのに全部受け止められている)


アルトは必死に攻めるも、全てシルザにガードされている。


シルザは最初はびっくりしていた。あの小さい子がここまで強くなっていたということに驚きを隠せない。


しかし、経験の差が出てきた。シルザはアルトの動きに慣れ、逆にアルトは疲れが見えてきた。


「どうした?さっきの勢いがないぞ?」


(もっと速く、もっと強くパンチを打て。相手の動きをよく見ろ。お前はもっと感覚を研ぎ澄ませるはずだ)


(もっと、もっとだ!シルザよりも速く動け!もっと強くパンチ打たなきゃシルザには効かない!)


「ウオォォオオ!」


アルトは雄叫びを上げる。


するとアルトの瞳が黒色から赤色へと変わっていった。


「スキルが発現した…」


ニーンが呟く。アルトに纏う空気が一変したのをすぐに感じ取ったのだ。


「ほんっとうに面白いガキだ!アルト!全力で来い!」


シルザが叫ぶ。


「ウアアアアアアァ!」


アルトが吠える。


目にも止まらぬ速さでシルザに接近する。アルトのパンチは全て風を切り裂く斬撃に変わり、素早さ、力だけならシルザといい勝負をしている。


「なんだそのスキル、俺は持ってねぇぞ!」


シルザは楽しそうにやり返す。アルトの成長が嬉しくてたまらない。


ああ、楽しい、嬉しい。誇らしい。


(でも、俺たちはもう帰らなきゃいけない)


こんなに楽しい時間は久しぶりだ。


もう少し楽しみたいのに。この時が永遠に続けばいいのに。


アルトが一旦距離を置く。


これが最後になると、何となく分かった。


「行くぜ!シルザァ!」


「ありがとう。アルト」


ずっと憧れてくれて、ありがとう。


アルトは高速でシルザに突っ込む。


駆け引きなど一切ない。シンプルな力でシルザに勝負を挑む。


しかし、


「お前が俺に勝てるかバーカ!」


シルザはアルトの動きを最後まで見切り、トドメのデコピンを入れる。


デコピンを食らったアルトはそのまま意識を失って倒れた。


「お疲れ様。これからどうする?」


「あー俺もちょっと疲れた。帰ったら俺も傷治してくれ」


「貴方傷なんてないでしょ」


「心の傷、かな」


「そんなもの、唾つけとけば勝手に治るでしょ」


「なんか俺の扱い酷くね⁉︎」


シルザはアルトを背負って歩き出す。


「さぁて、帰る準備だな!」


「貴方以外身仕度は終わってるわ」


「……みんなすげぇな」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


【アルトの家】


アルト達は村に帰ってきた。また気絶して、運び込まれた事が悔しくてたまらなかった。


「くそッ、シルザに負けたのなんか腹立つ〜!」


「ガキに簡単にやられてたまるかよ!」


既にニーンに治療をしてもらい、今では全快だ。


「それにしても最後のスキル凄かったわ!」


「フッフッフ、さすがニーンさん!お目が高い。あれは力の解放(フルチャージ)っていうスキルだ!」


力の解放(フルチャージ)、アルトが初めて覚えたスキルで、自分の身体能力を一時的に爆上げさせる能力だ。そして何故か目が紅くなる。


「あれは正直言って強かった。負けると思ったぜー」


そう言っているシルザだが、かなり余裕ぶっていて負ける気などない様子だ。そしてシルザは下を向く。


「そろそろだな」


「ええ」


「行くか。アルト、元気でな」


エルレイトが別れの挨拶をする。


しかし、


「あ、村の出口まで送っていくよ!」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


怖くなった。みんなと別れるのが。いつか別れなければならないことは当然分かっていた。それでも、いざその時が来ると、悲しくなる。


そしてあっという間に村の出口まで着いてしまった。


これ以上は一緒に行けない。終わったのだ。みんなと紡ぐ物語が。


「ここでお別れだな、アルト」


俺は深呼吸をする。


「みなさん!今日までありがとうございました!みなさんのおかげ俺は変わりました。強くなりました。でも、もっとみんなと一緒に居たかった。俺の成長をもっと見て欲しがっだ!ゔっ、ゔっ」


俺は涙を堪え切れなくなった。


そこに頭に何かが乗る感触があった。

シルザの手だ。


「なぁに泣いてんだ!何も一生の別れって訳じゃない!お前が10年後冒険者になればいつでも会える!たったの10年だ!そうだろ?」


「たったの10年って、俺まだ7年しか生きたことないから分かんないよ!」


「ったくしゃあねぇな、泣き虫のガキにはこれをやろう!」


シルザは自分がつけていた腰布を取り外し、俺に手渡す。


その腰布には白銀色を基調としており、真ん中には大鷲が羽ばたく姿が描かれている。


「これは俺たちのクラン、白銀の大鷲のメンバーである証明なんだ。これをお前にやるよ。これでお前は白銀の大鷲の一員だ!」


「ゔん」


「10年後、冒険者の街、レンドラでお前を待つ。楽しみにしてるぜ?」


「ゔん!」


シルザはそう言って、仲間達をを引き連れて村を後にした。

大きすぎるその背中、追いつけるかも分からない憧れが見えなくなるまで俺は手を振り続けた。





〜10年後〜


アルト・ステルト、17歳。


冒険者を多く抱えている巨大都市、レンドラ。


アルトは村でひたすら鍛えていざ冒険者になろうとこの町へやってきた。全ての冒険者はこの町に登録され、クエストなどを受けることができるのだ。


シルザ達と再会する為、一緒に冒険する為に10年間ひたすら努力してきた。


だが、


「俺の10年間は、一体何だったんだ?」


そこでアルトは現実を突きつけられ絶望することとなった。

読んでいただきありがとうございます。これにて序章は終了で、アルトは大人になります。ここまでお付き合いくださりありがとうございます。そしてここからが物語本編のようなものかもしれません……次回もよろしくお願いします。

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