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冒険者って本当は冒険しないんですね(笑)  作者: 丸山ヤスコ
序章 プロローグ
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ガキの意地

【小さな村、近郊の森】


「アイツがキラーエイプだな。よーし!」


薄暗い森の中、風による木々のざわめきをかんじた。

模擬クエストを受けたアルトは森の茂みにじっと隠れ、キラーエイプが近づいて来るのを待っていた。


全身を茶色の毛で覆っており、身長は160cmくらいで子供のアルトよりは大きい。


まだ気付かれていない。


いつもよりも心臓の鼓動が大きくて速い。


(緊張してんのかな、俺)


アルトは自分のシャルムであるグローブをはめ、指の感触を確かめるように一本一本動かす。


(信じてるぜ)


自分を信じる。心を信じる。


覚悟を決め、茂みを飛び出す。

脚に力を入れて一気にキラーエイプに近づく。


「死ねぇ!」


アルトの右手がキラーエイプを捉える。


「ウホォォッ!」


アルトに殴られたキラーエイプは後方に吹っ飛ばされた。


「すげえ、やっぱ力がついてる!拳だけで吹っ飛ばすことが出来るなんて思ってなかったぜ!」


初めて自覚した。自分が強くなっているということに。


憧れに確実に近づいているということに。


しかし、キラーエイプを一撃で倒すほどの力は持っていなかった。


「ヴホォォォォオ!」


立ち上がったキラーエイプは怒りの雄叫びを上げる。


「これは一旦距離を置くしかないな」


キラーエイプは怒っていて、周りが見えていないはずだ。

だから一旦距離を置いて相手の視界から消えた瞬間を叩こうと思った。


しかし、


(あれ?)


「あれ?なんで?なんで⁉︎動けよ!」


脚がブルブル震えて思うように動かすことができない。瞳孔が揺れ焦点が合わない。素早く距離をとらないといけないというのは頭では分かっている。しかし身体が動かない。


恐怖。モンスターの雄叫びはそれを感じさせるのには充分な迫力だ。


アルトは無意識にそれを感じていた。自分は無意識でも、体が、心が覚えていた。


アルトはあの時の事を思い出す。


1人で調子に乗って森の奥に入ったこと。その時に出くわしたゴブリンの群れに命を取られそうになったこと。その時もモンスターの雄叫びを聞いていたこと。


シルザ達に惨めに助けられたこと。


「ヴホォォォォ!」


いつの間にか目の前まで迫られていた。


「ガハッ」


気づいたときには、キラーエイプに殴られて後方まで吹っ飛ばされていた。


起き上がることが出来ない。


「ウホホオォォ!」


キラーエイプは勝利の雄叫びを上げる。


そしてもう満足したのか、アルトに背中を向けてその場を離れていく。


悔しくてたまらない。


強くなったはずなのに。結局1人では何も出来ない。


要はガキなのだ。無鉄砲で何もできない、意地だけは立派にはれるただのクソガキ。


弱い、悔しい、弱い。


でも、それでも、アルトは憧憬を燃やす。


アイツに勝ちたい。冒険者になりたい。


ニーンさんみたいな優しい冒険者になりたい。


アイナさんみたいな恐れ知らずの冒険者になりたい。


エルレイトみたいな速い冒険者になりたい。


シルザみたいなカッコイイ男になりたい!


みんなの横に立って冒険がしたい!


意地しか張れないなら、最期まで張り倒してやる。


「ちょっと待てやこの猿野郎‼︎」


キラーエイプは立ち止まり、ゆっくりとアルトの方を振り向く。


「まだ終わってねぇぞぉ!」


アルトは雄叫びを上げる。


「ヴホォォォォ!」


キラーエイプも負けじと雄叫びを上げながらアルトに接近し、思いっきりアルトの顔を殴る。


アルトは倒れまいとなんとか踏ん張る。


「なんだぁ?このヘナチョコパンチは。パンチの仕方、教えてやるよ!」


今度はアルトがキラーエイプの腹部を殴る。


「ウホォっ!」


大分効いてはいるものの、キラーエイプも踏ん張る。


「ヴホォォォォ!」


「ブヘッ」


そしてまたキラーエイプはアルトの顔面にパンチを入れる。


それでもアルトは倒れない。倒れてはいけない。


「ウオオォォ!」


「ウボッ!」


アルトもやり返す。腹部にパンチを入れたがキラーエイプは倒れない。


意地の張り合い。殴られたら殴り返す。


それが何回も何回も繰り返され、次第にアルトの顔は腫れていく。


冒険者でもない、ただの子供がモンスターと殴り合うのは恐らくアルト以外いないだろう。


意地しか張れないのに、意地の張り合いに負ける訳にはいかない。


「負けてたまるかぁ!」


キラーエイプのパンチを左手で受け止める。


そしてそのまま手を離さない。


「歯ぁくいしばれ…」


「ヴホォォォォ!」


右手一閃。


キラーエイプの腹部を捉え、遥か後方にぶっ飛ばした。


「やったよ、シルザ…」


「ああ、見てたよ。ってなんだ、立ったまま気絶してやがる」


木の上からシルザが出てきた。気絶して反応のないアルトに独り言を言う。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「とりあえず、クエスト完了だな」


シルザはこの戦いをずっと見ていた。


アルトが危なくなったら登場する予定だったがその必要は無かった。


シルザはアルトをおぶって村に帰る。


「かっこよかったぜ?アルト、まさかモンスターに正面から殴り合うとは思わなかったけどな。でも残念だな。俺らはもう少しで街に帰らなきゃいけない。もうちょっとお前の戦いぶりを見ていたかったな」


シルザ達は冒険者だ。たまたま通りかかった村に何日もいられない。やる事が沢山ある。そろそろ時間だ。もうアルトには自分達は必要ない。そう感じた。お別れの時は確実に近づいていた。


でもアルトならいつか。


「いつか、一緒に冒険できるって信じてるぜ」

今回も読んでいただきありがとうございます。次回もよろしくお願いします。

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