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冒険者って本当は冒険しないんですね(笑)  作者: 丸山ヤスコ
序章 プロローグ
4/97

最強の礎

【小さな村、近郊の森】


いよいよ実戦をする為にアルトとシルザは森の茂みに隠れている。始めてモンスターと戦う。アルトを心臓の鼓動が大きくなっていくのを感じ、胸に手を当てる。


(頼むぜ、相棒)


心に、シャルムにそう告げる。心の力(シャルム)を信じる。それが強くなるなために必要だとシルザが言っていた。


するとそこに群れから外れた1匹のゼアウルフが近づいて来た。灰色の毛に真っ赤な瞳を持つその狼は一匹で近くをウロウロしている。


「まずはスピードポイントを稼ぐ。あそこに1匹でいるゼアウルフを狙うぞ!」


「よっしゃ!戦ってくる!」


「バーカいきなり飛び出すな!」


「グヘッ!」


シルザ飛び出そうとしたアルトの服の襟を掴んで制止した。


「いきなり何すんだよ!」


「冒険者でもないただのクソガキが正面から戦って勝てるか!」


「だからガキって言うな!」


「これはお前をからかってんじゃない。お前はまだ子供だ。これは事実なんだ!冒険者はガキが簡単になれるものじゃないんだ!ここからは命をかけろ!もっと慎重になれ!もっと考えろ!じゃないと死ぬぞ!」


シルザの迫力にアルトは怯む。初めてシルザに怒られた。普段チャラチャラしているくせに怒ったら怖い。


しかしこれはシルザの冒険者としての矜持なのだろう。誇りなのだろう。冒険者とモンスターは目を合わせたら殺しあうということをシルザは知っている。だから何の考えもなしに突っ込んだアルトを叱ったのだ。


シルザはアルトに強さだけではない、冒険者として大切なものを教えてくれた。


それがアルトにとっては嬉しかった。


「何ニヤニヤしてんだお前?相当キモいぞ」


「キモいはただの悪口だろ!」


「お前はキモい、これは事実なんだ」


「クッソ!俺が馬鹿だったよ!」


やはりシルザはシルザだった。


(一瞬でもアンタを尊敬した俺が馬鹿だったよ!)


「まぁお前をいじめるのはこのくらいにして、アイツを倒すぞ!」


「結局どうやればいいんだ?」


「まずは俺が致命傷を与える。そこをお前がトドメをさせ」


「それで俺にポイント入るの?」


「ポイントはトドメを刺した奴に与えられる。こんな風な戦い方を繰り返していればいずれお前だけでも倒せるようになる!」


「なるほど、よーし、ではお膳立てして来い!」


「ハイハイ言われなくてもな!」


シルザはそう言って茂みから飛び出す。


その瞬間に風が吹き抜けた。速すぎてアルトの目では追いかけられない。飛び出すというより消えるという感覚の方が近かった。


「殺さないようにってのが大変だな」


「ガウ?」


ゼアウルフが何かを察知した…時にはもう遅かった。


「ガウァッ!」


シルザがおもいっきりゼアウルフの顔面を蹴る。


ゼアウルフはそのまま背後の木に直撃し、失神した。


「よーし、死んでねぇな。アルト!トドメをさせ!」


「よっしゃ!」


アルトは茂みから勢いよく飛び出してゼアウルフの前でナイフを構える。


「死ねぇ!」


アルトがナイフをゼアウルフの胴体に突き刺すと、ゼアウルフは黒煙となって霧散した。


「これでまずはお前にスピードポイントが1入ったはずだ!」


「俺速くなったのかな?」


アルトは少しだけ走ってみたが、足が速くなったという自覚はなかった。


「まだたったの1ポイントだからな、ほんの僅か速くなっただけだから変化には気付かないだろうな」


「でもこれを何回も繰り返せばいつかシルザやエルレイトみたいに速くなれるんだよな⁉︎」


「ま、そうだな!」


(何十年かかるか知らんけど)


この次の日も、そのまた次の日も、2人はモンスターを狩りまくった。


そしてこれらの日々は、のちに最強の頂に手を伸ばすこの少年の礎となった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「あー傷が癒されていくー」


アルトは今自分の家でニーンという冒険者に傷を癒してもらっている。


ニーン・アセイス、シルザ達のクランの回復役を担っている。エルレイトの妻でもある。橙色の短髪が少しアルトの顔に当たる。少しこそばゆいがいい匂いがした。


「貴方はいつも怪我ばかりね。瀕死のモンスターだって死にたくないんだから。最期の抵抗だってするわよ」


「き、気をつけます」


くだらない事を考えていたアルトに微笑む。

アルトは自分でも顔が赤くなっているのが分かった。


「ニーンさん!もうこのくらいで大丈夫だよ!外でシルザ達が待っているからもう行くね!」


アルトは恥ずかしさをニーンに感じ取られないように、早くこの場所から出たかった。


しかし、


「どこへ行く?」


ニーンの冷たい声がアルトの動きを止める。


「貴方の怪我は治ってないわ。それにここは貴方の家。もうちょっとゆっくりしていきなさい」


「は、はい」


(こ、怖ぇ)


シルザ達の中で、1番怖いのはニーンであると確信した瞬間だった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


【数日後】


ここはアルトの家の前、そこでアルトとシルザ、アイナは今後の修行方針について話し合っていた。


アルトとシルザの修行が始まって1ヵ月過ぎた。


アルトは毎日数千匹のモンスターをトドメだけ刺してきた。全く戦っていないにも関わらず、身体能力だけが向上している。


「そろそろお前だけで戦えるかもな」


「ホントか⁉︎」


シルザの言葉にアルトはついつい飛び跳ねてしまった。

もうシルザの補助なしで戦えると認めてもらえたということだ。

憧れの人に認めてもらえたということほどアルトにとって嬉しいことはない。


「シルザの言う通りね、ここからは本格的な冒険者ごっこをしましょ!」


「冒険者ごっこは嫌だよ!俺は冒険者になりたいんだよ!」


アルトはアイナに抗議するが、軽くあしらわれる。


「ハイハイ、話は最後まで聞きなさい。貴方にはクエストを受けてもらうわ!」


「クエスト?」


「冒険者ってのはね、よく一般市民や他の冒険者仲間から色んな頼み事をされるのよ。それがクエスト!冒険者になったら避けては通れないものね」


「それを俺も受けれるの?」


「言ったでしょ?これは本格的な冒険者ごっこ!私達がクエストをアンタに依頼するの!」


「どんなクエストくれるの?」


「まずは依頼人を紹介するわ!」


アイナはそう言って家の奥に戻る。


しばらくしてアイナがまた外に出てくる。その後ろには1人の老人、もとい、老人に変装したエルレイトが出てきた。


(何やってんだ?この人)


「おー、お主がクエストを引き受けてくれた冒険者かー、実はわしの畑をキラーエイプが荒らしておってのー、討伐してもらえんかのー」


エルレイトは棒読みで与えられた台本を読む。


(芝居やるならもっと真面目にやってくれ)


アルトはそう思いながらも、その芝居に乗ってあげることにした。


「いいぜじいさん、俺が倒して来てやるよ!」


「あ、あと難易度上げるためにナイフは没収するから、本来シャルム以外の武器使うなんて邪道だから」


いきなり素のエルレイトが出て来た。


それにアルトは驚いたが、すぐに立て直す。


「じゃあどうやって戦えばいいんだよ!」


「あるだろう、お前だけの武器が」


横からシルザが声をかける。シルザは胸をトントンとしている。


それでアルトは理解した。


(俺だけの武器、心の力!)


アルトは笑顔で右手をかざし、シャルムを召喚する。


「じゃあ行ってくる!」


「クエスト完了の報告はギルドでお願いしまーす!」


アイナは駆けていくアルトに向かって叫ぶ。


「速くなったなぁアイツも。まぁ自分では気づいてないだろうけど」


エルレイトは独り言をつぶやく。


「そろそろ教えてくれない?不真面目の代名詞とも言えるアンタがあの子を真面目に育てる理由。妻に隠し事なんていけないわよ?」


「不真面目の代名詞は失礼だなぁ、それに隠してた訳じゃないけどな。これを見てくれ」


シルザはそう言って先月の新聞を広げてアイナとエルレイトに見せる。


「『ルシファーの封印石が何者かに破壊された』だと?」


「ルシファーって、災厄と呼ばれる悪魔でしょ?本当にいるの?」


「いる。間違いなくな。多分俺達はいつかそいつと戦わなくちゃいけないだろう。そして多分生きては帰れない。そうなった時にアルトが俺達の娘達の面倒を見てくれたらいいなぁって思うんだ」


シルザにも家族はいる。妻がいて、娘がいる。それはエルレイトも同じだ。ただ、冒険者という職業上、家族で同じ時間を過ごせない。まだ記憶では相当幼い娘の顔を思い浮かべる。そして娘とアルトが一緒に遊んでいる姿を想像すると、案外様になっていた。


(まあ、本当の理由は別にあるけどこれはアルトに直接言ってやるか)


「全く、もしもの話じゃない!アンタらしくもない。でも、このままいけばアルトは…」


「ああ、間違いなく俺達を超える。俺達への憧れがアイツを強くしている」


「ったく、アイツに負ける日が来るかもしれないってのはシャレになんねぇぞ」


シルザはそう言いながらも笑ってる。


楽しみで仕方ない。そんな顔をしていた。

今回も読んでいただきありがとうございます。次回もよろしくお願いします。

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