2つの力
今回は能力の説明回です。是非ご覧ください。
魔物達の大行進の後、シルザ達との修行が始まった。
今までの冒険者ごっことは違う。冒険者になるための修行。
アルト、シルザ、エルレイトは村の外れにある小さな森にいる。木漏れ日が差す森の中、エルレイトの声が響く。
「よっしゃ!じゃあ早速始めるぞ!……と言いたいところだが、アルト、お前は人間に眠る2つの力を知ってるか?」
「2つの力?」
「そ、まず1つ目はシャルムだ!」
エルレイトはそう言うと、そっと目を閉じ、右腕を前に伸ばす。
次の瞬間、エルレイトは光に包まれる。
やがて光が収束すると、エルレイトは白と黒、2つの斧を持っていた。
「うお、いきなり斧が2つ出てきた…手品⁉︎」
「手品じゃない、これがシャルムだ。別名心の力」
「心の力?」
「シャルムは自分の心を反映された武器だ。一人一人心があるようにシャルムも一人一人違うシャルムがある。つまりは自分だけのオリジナル武器ってことさ」
エルレイトの説明をシルザが引き継いだ。
「じゃあ俺にもシャルムあんのかな!」
「もちろんだ!ほら出してみろ!」
「どうやって出すんだ?」
「強く思うだ!俺のシャルム出ろーって」
アルトはシルザの言った通りにしてみる。
(俺のシャルム出ろー!)
すると、アルトの体は先程のエルレイトと同様に光に包まれる。
やがて光が収束する。気が付いたら、アルトは黒色のグローブを持っていた。
そして、それを見て唖然とした。
「え、これが俺のシャルム?」
期待はずれも期待はずれ。アルトは剣や槍や斧などを期待していた。グローブは余りにも地味すぎる。
さらにシルザが落胆しているアルトに追い打ちをかける。
「ギャハハハ、だっせーシャルムだなぁおい!」
「う、うるさい!そう言うシルザはどうなんだよ!」
悔しかった。使わなくても分かる。絶対に弱いシャルムだ。その自分の心の力が弱いという事は、自分の心が弱いのではないかと思い始めた。だからからかってきたシルザに強く反論してしまう。自分の心はダサくない、弱くないと。
「そうかそうか、どうしても俺のシャルムが見たいって言うなら見せてやらんこともなくなくなくなくないけど?」
「いいからさっさと見せろ!」
シルザはシャルムを召喚してみせる。そしてそのシャルムをみてアルトは唖然とする。
「俺のシャルムはこのグローブだ!」
「お前も人のこと言えねぇじゃねぇか!」
「まあまあそこまでだアルト、話を本題に戻そう。シャルムの説明は終わってないし、もう1つの力の話もしていない」
エルレイトに止められてアルトはようやく落ち着く。
「シルザも、子供相手にやり過ぎだ」
「やーガキをからかうのは楽しいな!」
「誰がガキだ!」
「こーら、落ち着けアルト」
エルレイトが再びアルトをなだめる。アルトはもっとシルザに言いたいことはあったが、これ以上続けるとエルレイトに本気で怒られそうだったため、黙ることにした。
それに、本当は嬉しかった。心が踊った。憧れの人が自分と同じシャルム、心の力を扱っているのだ。それは、自分の心は間違ってないと分かった瞬間だった。
心の中でニヤニヤしているアルトだが、エルレイトの説明はまだ続く。
「シャルムの説明の続きだ。シャルムは覚醒する!」
「…どうやって?」
「どうやって…か、それは言えないな」
「えー、なんでだよ⁉︎」
「自分で感じ取ってほしいんだ。世界を、そして自分自身をな。それが自分の目にどう映るか、お前はどんな世界に生きるのか、それを感じ取ってほしい」
「何だよそれ、全く意味わかんねーよ!」
アルトはエルレイトに抗議するが、エルレイトは微笑む。
「まあ、いつかわかる時が来る。絶対にな。今は覚醒するってことを頭の隅っこに入れとけ。そして最後にポイントの説明をしておこう」
「ポイント?」
シャルムの覚醒について興味があったアルトだったが、すぐにポイントに興味が湧いた。
「シャルムを心の力とするなら、ポイントは肉体の力。ここからは瞬き厳禁だ。よく俺を見てろよ」
アルトは言われるまま、目を見開いてエルレイトを見る。
一瞬、エルレイトの金髪が風に揺れる。刹那、
「こっちだ」
一瞬だった。エルレイトはアルトの目の前から消え、背後に音も無く現れた。
「な、何で⁉︎どうやったんだ⁉︎」
目の前の男は瞬間移動した。
「お前には瞬間移動したように見えたかもしれないけど、エルレイトは走ってお前の背後に回り込んだだけだ。まっ、これがポイントの力だ」
「すっすげー!ポイントはどうやったら使えるんだ⁉︎」
「ポイントはシャルムと違って武器ではない。己の身体能力だ!ポイントはモンスターを倒せば得られる。そしてモンスターによって得られるポイントも変わってくるってわけだ!」
シルザはそう説明してくれたが、アルトには全く意味が分からない。それを見かねたエルレイトが丁寧に説明してくれた。
「例えば今のような速さを手に入れるためには、ゼアウルフを狩ればいいんだ。ゼアウルフを倒せばスピードポイントが1入る。ポイントが1入れば、己の身体能力に加算されて少しだけ速く動けるようになるんだ」
「じゃあエルレイトはゼアウルフをたくさん倒してたくさんスピードポイントを手に入れたからこんなに速いのか!」
「そういうことだ。ちなみに、俺はこれまでにゼアウルフをざっと100万匹狩った」
「100万⁉︎」
ゼアウルフを100万匹狩ったという事はスピードポイントを100万得たという事だ。逆にそのくらい狩らなければエルレイトのスピードを得る事は出来ない。
途方もない数字にアルトは慄いた。
しかし、それは一瞬だった。
「じゃあ俺はゼアウルフ1000万匹狩ってエルレイトを超えてやるよ!」
「そうか、それは楽しみだ」
エルレイトは本当に優しい。いつもアルトに微笑んでくれる。
この男と違って。
「お前じゃあ1匹も倒せず死ぬだろ!」
「なんだと⁉︎」
シルザは何かとアルトを挑発してくる。
それにいちいち反応するアルトも子供だ。
「お前らいい加減にしろ。話が全く進まん」
そして毎回エルレイトが止める。
これがいつも3人でいる時の会話のパターンだ。
「ポイントは全部で5種類ある。パワーポイント、ディフェンスポイント、スピードポイント、マジックポイント、そしてスキルポイントだ」
「マジックポイント?スキルポイントもわかんねー」
「マジックポイントは多いほどたくさん魔法を打てるようになる。そしてスキルポイントは貯まれば魔法やスキルに自動的に交換されるんだ」
「自動的に交換されるから魔法に交換されずにスキルばっかりに交換される場合もある。そうなった時はマジックポイントは宝の持ち腐れだな!」
「何だよ役に立たないじゃん!」
アルトはマジックポイントは不要だと感じたが、話はそう簡単じゃないらしい。
「スキルポイントが魔法ばかり交換してスキルを全く交換出来ないという場合もあるんだ。もしそうなった時はマジックポイントは重要になってくる!」
エルレイトの説明を聴いてアルトは納得した。
魔法たくさん使う、つまりアイナの様な魔導士にはとても必要な力というわけだ。
「まっ、説明はこのぐらいにして早速修行に取り掛かるか!」
(修行だ!俺も強くなるんだ!)
「よろしくお願いします!」
いよいよ始まる。冒険者へと続く道をアルトは一歩踏み出した。
今回も読んでいただきありがとうございます。
思いのほか、序章が長くなりそうです…序章が終わると、主人公は大人になります。次第に無双してくれると思いますので、是非ともお付き合いください。