02 てぇへんだ!異世界だ!!
「*...***...!****!!」
「ん....、あと5分...」
「******!!」
なんと言っているのかよく聞こえないが、低いハスキーな声で寝起きの頭に話しかけられた。
何を言っているのだろう。まだ学校登校の時間まであった気がするが...。
そんなことを思いあと5分と言って寝返りを打つ。
すると、寝返りを打っても自分の下には柔らかいベッドは無かった。あれ、私床で寝ちゃったのかな。
...うん?
あれ...布団じゃない...?
何回か床を触ってみてもやはり床は床だ。そして何かが手に触れた。
引っ張ってみると、干し草のようなものが出てきた。どうやらこれは藁のようだ。
当たり前だが、私よ部屋には藁なんて置いてなかったはずだ。
まだ覚めきっていない頭を振り絞って現状把握に務める。
私、何してたんだっけ...
OK、順を追って考えよう。
まず、学校から帰って来た所は覚えてる。そして、にぃとゲームして...部屋に荷物置いて来いって言われて...あ、そうそう呼び鈴が鳴ったんだっけ。
で、郵便受けからチラシとか取って...契約書.........契約書?
「そうだ!あの契約書が光ってたんだ!その後にいきなり落ちて...ってここどこ!?」
落ちている時にどこからか声が聞こえ、そのすぐ後に意識が無くなったことを思い出す。
勇者...とか言ってた気がしたがまだ頭が混乱してよく思い出せない。
「!?」
ーガタガタッ
独り言を言っていると、近くから何かが息を呑む音が聞こえた。暗くてよく見えないので、思わずそちらに向かって声を発してしまう。
「誰...!?」
「****?」
しかし、目を細めても見えない。大体の大きさが分かるくらいだった。
今自分が座っているからか、とても大きな影に見えた。
すると、その何かはギシッギシッと音を鳴らしながら遠ざかったのがわかった。
ーパチッ
何歩かそれは歩くと、止まり、その代わりに部屋には明かりがついた。
電気をつけに行ってたのだとわかる。
いきなり明るくなったことによって目がチカチカする。
また足音が聞こえてきたので目を細めながらもう一度それを見る。
ボンヤリとだが見えてきた。
そしてそれを見た瞬間目を見張ってしまった。
「はっ!?」
思わず素っ頓狂な声が漏れる。
目の前にいたのはトカゲのようなドラゴンのような生物だった。それも姿形は人に近い。
「なんだ...夢か...」
どこからどこまでが夢だったのか自分でも分からないが、ここまでファンタジー過ぎると夢とした方が楽な気がした。
そしてもう一度眠りにつこうと目を閉じる。
「*****!」
ーガシッ
突如、目の前の人型ドラゴンに肩を掴まれた。その痛みから夢ではないと強制的に現実に引き戻された。
「夢じゃ...ない...だと!?」
なかなか面白い冗談じゃないか。
一体、ここがどこで、なぜ私がここにいるのか皆目見当もつかない。
うん、とりあえず落ち着こう...。
もし、万が一、億が一だが、仮にここが本当に夢の中ではないとすると、まずはこの状況を冷静に客観視する必要がある。
まずこの目の前の人型ドラゴンは何だ?
今のところ、攻撃はして来ていない。
ただ、先程からものすごい勢いで凝視されているのだ。目を見開き過ぎて取れそうだなぁなどと考えながら、その視線の先を見る。
どうやらこの人型ドラゴンは私の髪を見ているようだ。
確かにこの人型ドラゴンには髪は無い。
ひょっとして髪の毛が羨ましいのか?そりゃないものねだりってやつだ。諦めろ。そんなに見てたって私の髪はやらんぞ。
「****?」
「え、なんて?」
いきなり訳の分からない言語で話しかけられ、驚いてしまいタメ口で聞き返してしまった。
しかし、こちらの言葉の意味が伝わっていないのか少し難しい顔をした後に人型ドラゴンはもう一度話しかけてきた。
「******?」
やはり何を言っているのかさっぱりだ。
日本語...ではないから英語...?
今度は私から英語で話しかけてみる。
「は、はうあーゆー?」
言っておくが、私は英語の成績は五段階評価で5だ。
だからこれは私が英語が喋れない訳ではなく緊張しているからだ。きっとそうだ。
「****?」
しかし英語で話しかけてみても返答は英語ではなく知らない言語だった。
何語を話しているのだろうか。イタリア...フランス...ドイツ...。
というかそもそも日本じゃない可能性が高い。
このまま意思疎通出来なくても困るので身振り手振りのフィーリングでコミュニケーションを取ることにした。
すると人型ドラゴンが何かを思いついたように懐に手を差し入れた。
思わず銃か!?と構える。
「*****!」
ースッ
すると出てきたのは銃ではなく小瓶に入ったピンク色の液体であった。
ーグイッ
これを飲むジェスチャーをして渡してきた。え、これ飲めってか?
知らない人...ましてやドラゴンに貰った液体など怖くて飲もうと思わない。
毒だったら困るじゃん?
「ワタシ、コレ、ノマナイ。ノー。OK?」
とりあえずカタコトで飲まないという意思表示をし、人型ドラゴンに液体を返す。
「*****!」
当たり前だが、日本語も英語も通じない相手にカタコトが通じるわけもなく何かを言われ押し付けられてしまった。
そしてジェスチャーでもう一度飲めと言われ、このままでは埒が明かないのでその液体を一気に飲み干す。
「飲めばいいんでしょ!毒だったらほんと恨むから!」
ーゴクッゴクッ
「...!!!」
「あ、甘い!なにこれすっげぇ甘い!!!」
その液体は口に入れた瞬間に分かるほど甘かった。甘いどころの話じゃない。舌がビリビリするほど甘ったるく喉を通らない。それでも涙目になりながら液体を嚥下していく。
そんな私を見て人型ドラゴンが口を開いた。また何語かわからない言葉で話さかけてくるつもりなのだろう。
「おい、大丈夫か?」
「うぇっはぁい!?」
しかし最初に聞いた知らない言語ではなく、私の知っている日本語で話しかけられ変な声が出てしまった。
いや、喋れたんなら最初から喋れや!!
それにしてもあの変な液体は何だったのだろうか。毒…ではないのか...? いや、もしかしたら遅効性なのかもしれない。
警戒しつつ先ほどのんだ液体の瓶のラベルになにか書いてあるか目を向ける。
そんな私に人型ドラゴンは気づいたようで、声をかけてきた。
「あぁ、これか?これは魔力を液体にして言語を変換して聞こえるようにしてくれるんだ。使う時ないと思ってたんだけどあったな。」
「へぇー、魔力ねぇ...魔力...え、魔力!?」
人型ドラゴンの言葉に耳を疑う。
魔力って言ったか。え、頭大丈夫か?
「何驚いてんだ?魔力ぐらいどこでもあるだろ」
あったっけぇー...?
そんな当たり前だろ何言ってんだこいつみたいな顔で聞かれると自信なくなってきた。もしかしたら、日本には普及してないだけでアメリカとかにはあるのかもしれない。
...いやいやいや!流石に無いでしょ!!
そんなんあったら世界規模の大ニュースだよ!
ということはここはやはり日本でもましてや地球でもないようだ。
そしてあの『異世界契約書』というやつ。そこから考えると、ここは異世界...私はどうやら異世界に来てしまったようだ。
「うっそだろ...」
未だに信じられないが、目の前の人型ドラゴンといい分からなかった言語がこの魔力によって分かるようになったのなら信じるしかないだろう。転生してないことからこれは異世界転移ってやつだろうか。
そしてふと思い出す。
あれ...そういえば...にぃは...?
にぃも『異世界契約書』を書いていたはずだ。そして落ちていたときも一緒だったはずだ。
そういえば、あの時にぃに手が届かなくて...離れ離れになったのか?
「えぇ、兄妹別々の所に転移かい!!」
普通...がどうか分からんがなぜ2人別々の所スタートなんだ!
しばらく頭を抱えていると人型ドラゴンがおずおずと声をかけてきた。
「お、おい!」
「はい?」
「お前どこから来た?」
どこからって...なんて言えばいいんだ?
「んーとですね、遠い日本という国です 」
間違ってはいないはずだ。ただしとても遠いがな!
「ニホン...聞いたことないな...」
そりゃそうだと頷く。
今度は私の番だ。
この世界で生きるためにはまずはもっとこの世界のことを知らなくてはならない。
「こちらからもいいですか?」
「なんだ?」
「この世界の事、教えてください。」