1話 主人公って何だ。
『ちょっとー!みなとー!遅刻するんですけどー!』
全く。朝からうるさいやつだ。
こいつは、俺の幼馴染、姫野 凛花だ。あ、お前ら今、なんだ、やっぱり主人公だなぁ。とか思っただろ。断じてそんなことは無い。確かに、学校でもそこそこ有名な美人なんだけど。そんな奴が俺を好きなわけねぇだろ!!第一、そんな美人に彼氏がいないわけねぇだろ。全く、どいつもこいつも。主人公が誰でもハーレム築けると思うなよ!?そんなのは、ごく一部のイケメ...おっと、話が逸れた。
とりあえず、凛花とは、そんな関係ではない。
『わあってるよー!今行くから待ってろー!』
俺はそんな返事を軽く返し、学校の支度を済ませ、凛花の待っている玄関に急いで向かった。
『あー、今日も学校かぁー。めんどくせえなぁ。』
『もー。また、みなとそんな事ばっかり言ってー。こんな美人が迎えに来てあげてるんだから、もっと感謝しなさいよねー!』
こいつは、自分で自分を美女と言ってしまうような残念な奴だ。
『大体、お前彼氏に何か言われねえのかよー?俺と登校しちゃってよー...』
『んー、それなら別に心配ないよー!みなと私がいないと、遅刻ばっかりだから!彼氏に許可貰ってるもんー!』
こいつー、余計な事しやがって...
『はぁ、なら別にいいんだけどよ...』
いつか彼氏に怒られないといいがな。
『あ!ねぇねぇみなと!今日だよね!転校生が来るの!』
『あー、確かそーだったな。』
美人って噂があったっけなぁ。
『へぇー、美人なのかなぁー。ねぇ、みなと!その子の事好きになっちゃだめだよ!私がいるんだから!』
何言ってんだよ、こいつ...
『なる訳ねぇだろ!大体お前彼氏いるだろーが。そーいう発言やめろ。誤解を招く。』
『えへへーっ!』
凛花は、確かに可愛いく、こういう性格だ。モテないわけがない。面倒見も良く、誰からも慕われるような、いわゆる、人気者だ。
そんな奴が、俺みたいな平凡な奴と毎朝登校かー。いつか誰かに後ろから撃たれそうだ。防弾チョッキ買っておくか。
『みなとー!遅刻するー!走ってー!』
え?なんで俺の手を握ってるの!?
『学校まで、ダーッシュ!』
『ま、まて!凛花!!は、速いって!!』
帰宅部男子舐めんなよ!!走るのくそ遅えっつの!!そんな俺の気持ちを凛花が知るはずもなく、陸上部持ち前の、足の速さで、俺を引きずって学校まで登校した。
『よぉ、湊人ー!今日も凛花ちゃんも仲良く登校かー?』
こいつは、俺のクラスメート、鈴木 玲音なかなかイケメンで、周りからの信頼も厚い。俺とは正反対だな。
『あぁ、散々だったよ。帰宅部なのに、走らさせるし。死ぬかと思ったわ。』
『えぇー!みなと、私と登校するの、楽しくないの!?』
おい凛花、その顔するのはやめろ。ふいに抱きしめたくなるから。いや、絶対しないけどね!?なんせ、チキンですし。平凡ですし。
『楽しくない訳じゃねぇよー?ただ、走るのはやめて欲しいかな。』
凛花は頰を膨らませながら、だったらみなとが早く起きて!と、痛いところを突かれてしまった。
『でもよー、湊人。お前、凛花ちゃんが湊人の家に迎えに行くようになってから、遅刻減ったよなー。』
『でしょでしょー!私えらぁーい!これからも、迎えに行くね!』
そう言いながら凛花は、笑顔でこちらへと視線を向ける。
やめろ、凛花。割とマジで可愛いから。今にも好きになりそうだから。抱きしめていい?ねぇ、いいよね?まあ、しませんけどね。チキンだし。
『はーい、お前らー、席につけー。』
『もうこんな時間か。後でな、湊人、凛花ちゃん!』
俺と、凛花は返事を軽く済ませ、各々の席へと着席した。
『えー、もう知っている奴もいるだろうが、今日はこのクラスに転校生が来ている。今からその子の紹介をするから、暖かく迎えてあげるように。』
クラスが少しざわざわし始める。まあ、当然か。転校生が来るのだ、そりゃ気になるよな。
『それじゃ、こちらに来なさい。』
教室の扉が、ガラガラと開く。
その瞬間教室は静寂に包まれた。
そこには、言葉では表せないほどの美人な、女性が立っていた。顔立ち、スタイル、何を取っても完璧な女性がそこにはいたのだ。クラスがさらにどよめきだす。そりゃそーか。あんなに可愛い子なんて、テレビでしか見たこと無いからな。
『じゃあ、自己紹介を。』
クラス中が彼女を見つめる。
『はい、私の名前は涼森 霊奈です。よろしくお願いします。』
その瞬間、教室が拍手、歓声で包まれた。
もう大声で告白してるやつもいやがる。まあ、気持ちも分からんでもないな。
『はい、静かにー。えぇ、じゃあ、席は...』
教室が再び静まり返る。
ここで俺は考えた。もしかして、ここで、俺の隣に霊奈が来て、俺のラブコメが再スタートする、とかあるんじゃねぇのか!?おいおい、ワンチャンあるぞこれ!!さあ、来い来い!!俺の隣へ!主人公補正っ!!ここで霊奈を俺の隣へっ!!!頼む神様...っ!
担任が次の言葉を発した。
俺は手と手を合わせ祈り続ける。
『じゃあ、霊奈さんの席は...』
頼む。俺の人生がここで決まるかもしれな...
『玲音の隣に座ってくれ。』
俺は頭が真っ白になり。ただ、この言葉を放った。
『は、はぁぁぁああああああっ!?!?』