イケメンになった俺(上)
けたたましい目覚まし時計の音を聞いて俺は目を覚ました。
今日からくだらない平日が始まるのだ。いや、休日も特にいいことは無いが、わざわざ学校まで自分の醜態を晒しに行くよりは数百倍マシだ。
……そういえば、昨日はなんだか変な夢を見たな。悪魔……だったか。何でも俺の願いを叶えてくれる、って。
夢の中じゃあんな欲張りなことを言ったが、せめて何か一つくらい取り柄が欲しいものだ。これでは、唯一射的ならできるという某小学生よりも酷いじゃないか。
俺は重い腰を上げて洗面所へ向かった。
「……は?」
鏡に映る俺は俺じゃなかった。誰がどう見てもイケメンと言うだろう容姿の人間がいる。
俺が驚けばそいつも驚いた。俺が頬をつねればそいつも頬をつねった。俺が鏡にデコピンをすれば、そいつも俺の指にデコピンをしてきた。
──これは、俺だ。
「よぉ…ビックリしたか?」
突如、低い声が聞こえた。慌てて振り向いてみれば、そこにはイタズラ好きな子供のような、しかしどこか不気味さを感じる笑みを浮かべた、黒い肌の人間がいる。
よく見れば、そいつは頭に小さな角のようなものを生やしているし、尻尾のようなものも生えているし、三日月模様を浮かべた口元には牙が見える。……それに、俺はこいつを見たことがある。──夢の中のあいつだ。
「それは紛れもなくお前だ。お前、昨日の自分の言葉を忘れたのか?」
くつくつと笑いながらその“悪魔”は俺に話してくる。未だに信じられず、ぽかんと口を開けていれば、悪魔は続けた。
「おいおい……せっかく俺様がイケメンにしてやったのに、そんな顔をしてたら台無しだろうがよぉ……。まあ、どうでもいいけどな。とにかくお前はこれからイケメンとして生きてくんだよ。あ、運動能力と知能もちゃんと上がってるぜ」
──こうして俺はめでたくイケメンになったのだ。
5分ほど悪魔の横で色々やってみたが、確かに運動能力と知能は上がっていた。俺は最高の人生を手に入れたのだ。
「舞い上がってるとこわりぃが……」
悪魔が取っつきにくそうな様子で小さな声を漏らす。その表情は悪魔らしくなく引きつっている。俺に対してドン引きしているような表情だが…。なんだこの悪魔、俺の出来すぎぶりにビビってんのか。はっはっは。
「俺だって悪魔だ。ただでそれをやってるとは思わねぇよなぁ?」
「ですよねー」
寿命剥奪か、もしくはもっと他の何かなのか。俺はビクビクしながらその悪魔の話を聞くこととなった。