美少女の試練
「おっす、お待たせ」
「あっ、遅いよーっ」
俺たち2人以外に誰も居なくなった教室の中に、男女の会話が響く。
20分ほど前、最後の科目のテストが終わって、事実上の春休みを迎えたのだが、その時に今目の前にいる男の子に少し待っていてくれと言われたのだ。
そして俺の周りの友達はまるで避けているかのように見事に皆帰っていった。
そして、この2人だけが教室にいる、なんて少し奇妙な状況が出来上がったのだ。
「……それで?話って何なの?」
「早速だなオイ……」
「別にいいでしょーっ。気になるんだから」
そんな他愛のない会話を交わす。しかし未だに自分が女の子らしく話している姿は、なんというか、変な感じがする。
別に意識しているわけではなく、紗矢香の姿でいる時はスッとこの口調や態度が無意識に出てくるのだ。
逆に悠雅の姿でいる時はこの口調や態度が出てくることはない。ここまで無意識に切り替えができるとなると、たまにふと間違えそうで怖い気持ちもあったりする。
……いや、そんな話は今はどうでもいい。それよりも今目の前にいる男の子だ。
彼は進藤 圭吾という名前で、勉強もスポーツもできるイケメンなのだ。彼を好きな女子は多い、と聞く。
まあぶっちゃけ少女漫画に出てくるマジイケイケ~な男の子って感じである。別に今や羨ましくはないが。
「お前さ、彼氏とかいるわけ?」
「……え? ちょ、ちょっと急にどうしたの?」
「だからさ。いるかって聞いてんの」
唐突な話のフリにびっくりして、俺は相手の方に勢いよく振り向いてしまった。
なんというか、分かる。ついこないだまで恋愛沙汰に全く関わることのない鈍感な俺でも分かる。
この流れはどうすべきか。居ないものは居ないのだ。居ると言っても後々どう考えても面倒なことになるだろうし、かといって居ないといえばきっとこいつは……。
とにかく、俺は必死で言葉を探った。後でめんどくさくならなく、かつここを穏やかに切り抜けれるセリフ。
しかし、経験皆無な俺にはそんなものは浮かんでこない。やがて俺はついに言われてしまったのだ。
「あのさ。……その、俺と付き合ってくんない?」
頭の中がぐるぐる回る感じがする。なんて答える?
いや、断る一択なのは間違いない。俺は元々男だ。そして彼女もいる。それなのにここで彼氏を作るなんて笑い話にもならない。
しかしこんなの断り方なんて知らない。そもそもが告白されたのは男女通して二回目だ。男からは初めてだ。なんて断る?
俺はチラッと相手の顔を見た。真剣な眼差しでこっちを見ている。ああ、やべぇ。俺なんかが断るなんて罪悪感がすごい。たとえ美少女の今でも罪悪感はすごい。
何分経ったろう。とにかく時間が長く感じる。
とにかく何かを言わないと……。
「……ひ、一晩考えさせてっ……」
ようやく俺の口をついて出てきた言葉はそれだった。こんなに間を空けて言ったということで察してはくれないものだろうか。
そんな淡い期待を抱くが、怖くて相手の顔が見れない。さすがにこの対応は傷付くのでは。でも気付いてくれたら断らなくても諦めてくれるのでは……。
「お、おう。じゃあ……また明日な」
これ以上話せないと思ったのか、そこで話は切れた。
俺はこの後家に帰って、ご飯を食べて、お風呂に入って、布団に入った。
LINEの通知が何度か来ていたが、俺は見る気にはならなかった。そもそも今日あの後何をしたかすらイマイチ覚えていない。
明日は男になる。その次が紗矢香としての明日だ。それまでに断り文句を考えないと……。




