3学期最後の日
チャイムが校内に鳴り響く。
「筆記用具を置いてください」
ペンを置くカタカタという音が教室内に響く中、担当の教師が言った。
いつもは授業の始まりや終わりを知らせるチャイムだが、今回は少し意味合いが違う。
今日は学年末試験の最終日。そう、このチャイムはテスト終了の合図であり、また春休み開始の合図なのだ。
俺と紗矢香の学校は、2月末の期末試験で三学期が事実上の終了となる。
つまり、明日から4月の頭まで、約1ヶ月強の春休みだ。休みだ。
テストの答案が回収され、担当教師が確認してから教室を出る。入れ替わるように、もう見慣れた担任教師が入ってきてはSHRを始める。
春休みの過ごし方だのなんだのを話しているが、俺の耳には一切入ってきていない。この春休みは今までの春休みとは違う。
俺はイケメンになったので、友達も多い。俺の方は既に昨日にテストが終わっているのだが、遊ぶ約束もバンバンした。
きっとこの紗矢香の身体でも、色々遊ぶのだろう。ああ、イケメンと美少女の長期休暇ってどんなものになるのだろうか。
俺はそんなことを考えてはずっと妄想していた。担任教師の言葉など耳に入らない。
そう、何も耳に入らない。
「…き…。おい望月っ…!」
「は、はいっ!?」
俺はびっくりしたあまり、少し裏返った声で、かしこまった返事をしてしまった。すごく恥ずかしい。やばい。
チラッと横目でそこにいるはずの友達の唯を見てみれば、こちらに背を向けて震えていた。
笑っている。その様子を見ては、俺はもっと恥ずかしくなって、頬が少し熱くなった。ああ、きっと俺、今顔を赤くしているな。
溜息をつきたい思いで目の前の、元凶の男の子へと目を向ければ、そいつは微妙に口元が歪んでいた。こいつめ。それで隠しているつもりか。
いや、というか、むしろこの変に隠してますよ感を出されてる方が辛い。真剣にバカにされてる感じがする。それならいっそ盛大に笑ってくれ。もはやその方が救われるのに……。
「な、なに…かな…?」
俺はとりあえず、殴ってやりたい表情を浮かべている相手へ向けて聞いてみた。
相手はそれを聞いて、そういえば、とでも言いたげな表情を浮かべた。
こいつめ。いつか絶対何か奢らせてやる。
「あのさ。ちょっと残っといてくんない?俺、先生との用事が終わったらすぐ戻るからさ」
「いいよ。残っとくね。このあと暇だし」
俺はそう言って相手の背中を見送った。その直後に重大……というほど重くもないが、ミスを発見した。
何の用か、どのくらいかかるのか、を聞き忘れた。
いや、まあ別に待ってればいいのだが、目安は欲しいじゃない?少なくとも俺は欲しい。いつになるか分からないものを待つのはあまり好きじゃない。
まあ、誰かと話してればいいか。
「唯も残るー?」
「いやー大丈夫大丈夫!頑張ってね!」
「えっ…ひぁっ!?」
断ってから一拍おいて、唯はバシーンと俺の背中を叩いてニヤニヤしながら出ていった。いつもはそんなことはしない唯の行動にまたも裏返った声を出してしまった。
あいつめ。いつか絶対何か奢らせてやる。
……というか、珍しく唯に断られて少し動揺している。別に友達が唯だけという訳ではないので、他の子にも声をかけたがことごとく断られた。まるで避けられてるかのように、見事に断られた。
なんなんだろう。と、違和感を抱くが、俺は特に気にしないことにした。うん。気にしたら負けだ。
静かになった教室の中で、俺はすることもなく、ただぼーっとスマホでTwitterのタイムラインを眺め始めた。




