書庫にて。
コツコツと2つの足音が廊下に響く。
1人はスレンダーな女性、もう1人は十にも満たない少年。
前を歩く女性が不意に立ち止まり、側にあった扉を開く。
部屋の中は何も見えない。
女性は持っていた手燭の火を、近くにあった燭台に灯す。
燭台の灯火は次々に隣の燭台に燃え移り、部屋を暖かく照らしていった。
やっぱり書庫には自然な火じゃないと。ね?
そう言って少年に微笑みかけるが、何がやっぱりなのかと首を傾げるばかり。
少年が部屋に入ると背の高い木製の棚がずらりと縦に並び、幾つもの列をなしていた。
棚の中には何もない。
これはなに?
全て本棚よ。
本がないのに本棚なの?
ついて来れば分かるわ。
女性がまた先導する。
空の本棚を幾つか通り過ぎると棚の無いスペースが見えた。
そこには揺り椅子と小さな机が1つずつ。
きっと女性はあそこで本を読むのだろう。
更に進むと僅かに古い本の香りがした。
1番奥の本棚の中央の列には十数冊の本が銀色のブックスタンドに挟まれ、並んでいた。
これは寂しがり屋な神様のお話。
これは神様になった英雄のお話。
これは神様を支えると決めた英雄のお話。
これは英雄に喚ばれた人間のお話。
これは人間と戦った人間のお話。
それじゃあ、これは?
これは…未だ誰も知らないお話。
この書庫はいつか埋まるの?
埋まらなければ、いいのにね。
女性はどこか悲しそうだ。
少年を見つめ、再度微笑む。
夜になったら、どれか1つ読んであげましょう。
だから今は、お友達とお外で遊んでらっしゃい?
初投稿。
書き方諸々お試しです。