魔法をぶっ放せ! よっつのうちのに
◇
ゲームの世界に来たらやってみたいこと、そんなランキングがあったとしたら、上位に入るであろう行動。
魔法をぶっ放す、それも大火力魔法をぶっ放すこと。
何の因果か僕がこのゲームの世界に紛れ込んで、そう、学園の入学式の最中に転移してから、一年と四ヶ月が過ぎた。今まで学園の講師とか実家の家庭教師に見られながら魔法の練習をすることはあっても、手のひらサイズの炎を灯したり、ビーカーに水を集めたり、暑い日に涼風を起こしたりするだけであった。
やっとである。やっとこの日がやってきた。
思う存分、魔法を使えるこの日がやってきた。
目の前に広がる背の高い青草を焼き尽くすと言う課題。やってやろうじゃないか。
ただ、あまりに大規模な魔法を使って、大火災を起こしてしまうのもよくない。魔法をぶっ放して良いけれども、その目的は野焼きである。炎を制御しないと、自分の身にも危険が迫るかもしれない。
まあ、実際どれほどの規模の魔法が使えるか怖かったので、すぐそばの青草を燃やしてみることから始めたのだ。サッカーボールとかバスケットボールぐらいの炎を思い浮かべて、手のひらに魔法力を込める。もう慣れたもので、ぼうっ、と音を立てて火炎の球が出来上がり、手のひらの上に、めらめらと浮かんでいる。
そして、ほいっ、と近くの背の高い青草の根元に火炎の球を投げ当ててみる。
火炎の球が地面に打ち付けられると、ぼうっ、と音を立てて火柱が上がった。だが、火柱は草に燃え移ることもなく、ただ地面と草の表面を焦がしただけで消えてしまった。胸の高さにも届くかという青草は、風にゆらゆら揺れたまま。
なんというか、魔法の炎といえども、炎は炎。水分を含んだ生草を焼き尽くすには、ただ火をつければ良いものではなかったみたいだ。失敗失敗である。
ふと視線を感じ、僕の監督役の先生を見る。明るくにこやかに話す主導役の先生である。僕の失敗を見て、微笑みながら、うんうん、とうなずいている。なんだか、先生の優しさが心に痛く感じる。うーん、行き当たりばったりで魔法を使うのではなく、ちゃんと考えてみよう。
燃やす相手は青草。水分を含んだ生草である。そのままでは火がつかない。燃やすには水分を飛ばさなければならない。炎を燃やし続けて温度を上げる必要がある。
そう、生み出した火炎の魔法をぶつけて燃やすのではなく、魔法力を燃料にして離れた場所に火炎を生み出し続ければいい。魔法力による火炎放射器みたいなものである。
自分自身が炎にまかれないように、離れた場所へ魔法力を溜める。地面を伝って移すように魔法力を溜める。そして、一気に燃え上がる炎を想像する。
ぼうっ、っと音を立てて、青草の二倍から三倍の高さの火柱が燃え上がった。火柱はすぐに消えたりもしない。よし、うまくいったようだ。
しばらく魔法の炎を維持していると、ばちばちっ、と草が焼けてはぜる音が聞こえてくる。白い煙も上がり始める。炎も周りの草に燃え移っているようだ。青草も高温にさらされて水分が飛び、火がつくようになったのであろう。そろそろ、次の魔法にうつる頃か。
このまま魔法力を燃料にし続けていても、野焼きを終えることはできるであろう。今日の魔法学実習は、魔物狩りと銘打ってあるものの、魔物は先生たちがやっつけてくれる手筈である。おそらく、今日の実習の目的のひとつは、大量の魔法力を使い続けること。だから延々と野焼きをし続けるのであろう。
だけど、ちょっと非効率的じゃないか、とも思うわけだ。そして、もっと大規模に燃やしてみたい、とも思う。
とういうわけで、魔法の火柱も維持しつつ、空気を動かす魔法を思い浮かべる。
火柱を中心にして、四方から空気を送り込むように、自身の魔法力を大気に溶け込ませる。ひゅう、っと風が動き始める。青草も、ざあざあ、と音を立てる。火柱を中心に、風を巻き込むように。火柱の中心からは、暖められた空気で上昇気流が生み出るように。小さい渦を、だんだん大きくするように。そう、風の渦、竜巻を思い浮かべて魔法を使う。
新鮮な空気が送られるおかげで、炎も音を立てるほどに大きくなる。そして、風の渦に煽られるようにして、炎も渦巻いて燃え上がるようになる。草のはぜる音も激しくなる。光り輝く炎の竜巻。僕は火災旋風を擬似的に作り出した。
炎の竜巻の高さは、優に一〇メートルを越えている。熱気が頬に伝わってくる。空気をうまく動かさないと、焼かれそうでもある。だが、空気をうまく動かせれば、この炎の竜巻も扱えそうでもある。意識は炎の魔法に二割、風の魔法に八割。野原に炎の竜巻を滑らせた。
野焼きの結果は大成功。炎の竜巻が通った後は、青草も真っ黒に焦げていた。ちょっと調子に乗って魔法力を加えすぎたら、三〇メートルを越すような炎の竜巻になってしまったりもしたけれども。流石に先生から、「殿下、危険すぎです」とたしなめられちゃった。




