僕の可愛い婚約者・前編
◇
僕が王立学園に入って、二年目の六月の中頃。王立学園に大ニュースが広まった。
一般教養をたった二ヶ月足らずで修了した令嬢が現れたと。しかも全ての課題、試験にて満点を修めたと。マナーや作法を見る課題では、教官の想定以上の優れた行動をとり、満点以上を叩き出したと。
すっごい女の子がいるんだなあ、と僕は他人事のように思っていたけど。
知る限りでは最短で、その上完璧に一般教養を修了したとてつもなく優秀な令嬢は、王立学園の皆から尊敬を込めて、ミスパーフェクトと呼ばれ、崇められているみたいで。
そんなミスパーフェクトは僕の目の前でぷりぷり怒っていました。
そう、ミスパーフェクトは僕の一歳年下の婚約者、臣民公爵筆頭で五大公爵筆頭であるコーンローズ公爵令嬢、エリザベス・エルガー嬢その人であった。
しっかし、何を怒っているんだか。お祝いがてら、学園内のサロンを貸し切って紅茶やお菓子を用意したと言うのに、僕が「一般教養修了おめでとう」と言った途端に、リズはぷりぷり怒り始め、彼女の機嫌はよくならない。
「まったく、何を怒っているんだい? 可愛いお顔が台無しだよ?」
このようにご機嫌をとってみても、リズはつれないまま。
「殿下の歯の浮くようなお世辞になんて騙されません。それに、不本意なのです」
僕が何かをやらかした結果、リズが怒ったわけではないので、怒っているリズのことも微笑ましく思えるけれども。どうして怒っているのかが不思議である。
「何が不本意なのかな? しっかり勉強してきたことが報われたのだから、存分に喜べばいいじゃない」
その言葉に、リズのぷりぷりはちょっと弱まる。膨らんでいたほっぺたがちょっとしぼんだ。
「正当な評価を受けたのなら、誇れば良いじゃないか」
「そうなのですけれども」
リズのほっぺたはさらにしぼむ。今度はしょんぼりし始めやがった。
「試験の結果は嬉しいのです。嬉しいのですけれども、一般教養を修了し終わるつもりはなかったのです」
リズは、はぁ、と溜め息を落とし、「どうしてこんなことに」と呟く。
まあまあ、落ち込まないでと励まそうとして、僕は口を開くが。
「リズ」
「殿下、人の目もありますのよ」
リズは愛称を呼ぶ僕をたしなめる。貸し切ったとはいえ、サロンには数人の侍女が控えている。僕自身は別にこれぐらい良いと思うんだけど、リズはこういうところが頑なであったりする。でもまあ、そういう面も可愛く思えたりするのは婚約者だからか。
「むぅ、エリザベス嬢」と呼びなおし、僕は言葉を続けようとしたが、「あれ? なんていうつもりだったんだっけ」と言葉を忘れてしまった。
すると、リズはきょとんと目を丸くして僕を見る。僕に言葉を促すように見つめてくる。けれども、僕の口から言葉は出ない。たまらず首を傾げて見せると、リズはとうとう顔に笑みを浮かべてくれた。
「もう、おかしな殿下。殿下自らが忘れてしまったら、私にももうわかりませんわ」
「だって、エリザベス嬢が話を止めたでしょ? だから僕の考えがエリザベス嬢へぽいっと移っちゃったのかと思って」
「殿下の無作法を、私の所為にしないでください」
「もう、つれないことばかり言っちゃって」
リズの言葉は堅いが、その表情は柔らかい。先程よりもいささか心持ちはほどけたようである。ちょっとだけ冷めてしまった紅茶と、甘いお菓子を口につけながら、リズの心をもっと暖めることにしよう。




