哀の少女
(アティモス)「いまから!? ・・・・ えー・・・・」
(ナモロ) 「?? まぁ、アティモスは置いといて、物語をどうぞ!」
ナモロ達はと言うと、重っ苦しい雰囲気で、ゼロとハーピー等には耐えられそうにない状況でして・・・・
特にナモロが、怖い。 自分自身に怒っていると知っていてもとにかく怖い。
誰かが口を開こうものなら、全員此方を凝視する。
もう、気まずい・・・・
「固まってても意味無いからお嬢さん探しに行くね!」
ゼロが雰囲気に耐えられず外に飛び出した。
ナモロがため息をついた時、騒ぎ声が聞こえ始めた。
「あの音はなんだ?」
「どうせ、人間を滅したい獣人達が人を模した人形でも吊るして宴でも開いているんでしょう。」
「なぜ分かる?」
「あいつ等は人間が嫌いだから、忘れないようにしているんじゃない? ・・・・でも」
ナノハナは、微かに漂う煙を嗅ぎながら首をかしげた。
「布や草を燃やすだけなのに、こんなに臭うかしら?」
ナモロが空気を嗅ぐと、確かに布や草の燃えている臭いじゃないが、遠すぎてよく分からない。
心が落ち着かない・・・・
アティモスが、あのことを知ってしまった今から事は始まっている。
ココにも『アレ』を起こさない分岐があるはずだ。
でも、ココの分岐だけ分からない。
なにかが違うんだ・・・・
立ち上がって、家を出るナモロを追いかけたひなげしは見た。
虹色に輝く翼が森を覆っていくことに。 それには、魅力があった。 やさしい光が抱えている冷たい闇に生きるものたちは心惹かれていた。
足を踏み出すひなげしををナモロは止めて、自分だけ先に行ってしまった。
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死なせたくない・・・・
これは何て難しい願い事だろう。
彼女が死んでも、生きていても、彼女の願いは通じない。
木々が鬱蒼と茂る森を歩きながら思った。
自分達は、未来と言う過去で彼女のこの変化を見たことがある。 あの時、彼女は確かに言ったのだ。
彼女は自身が瀕死になっているのにも構わず・・・・
「私は・・・・ 貴方に御礼を述べます・・・・ ありがとう。」
と・・・・ 死にたいのだろうと思っていた。
だが、過去では死にたくないと言っている。
あぁ、もう分からなくなってきた。
ふと周りを見渡すと、夜だからか蛍が川岸に沢山飛んでいた。 ほのかな命の灯火が残光の尾を引いて輝いている。
昔の自分が白い服をきて川原に来たときも、同じように蛍が沢山飛んでいた。 リーナが蛍を捕まえてくれて、手の中で消えたり光ったりするそれを見つめたんだ。 すぐに飛んで行ってしまったんだが・・・・
でも彼女は、とても愛おしそうに手から飛んでいってしまった蛍を見ていた。
現実に意識を戻すと、五体満足の彼女が居た。 森を包む翼の正体。 一番会いたかった人。
足が焼け爛れていて包帯だらけだけども、彼女だと分かる。
蛍が彼女の暗い顔を照らし出していた。
「どうして、俺たちから逃げようとする。」
問わずにはいられなかった。
彼女は答えた。
「不幸になるから・・・・ 実際に私が居たことでアローが暴れてしまったし、仲間との関係はグチャグチャになっていく・・・・」
反論は、でなかった。 むしろ驚いた。 ココが分岐なのだ。 彼女と袂を分かつかの・・・・
ここに、前の自分は居なかった。 未来の彼女を助けることばかりで頭がいっぱいになっていたが、過去の彼女も助けなければいけなかったんだ。
彼女は、ただ自分が居ることで起こる不幸ばかりを言っている。
でも、幸せなこともあったのだ。 みんなとご飯食べたり、笑いながら買い物したり、盗賊の本能のせいで、みんなを驚かせるようなことがあったり。 だから・・・・
「君は不幸なことばかり考え、敏感でありすぎている。 幸せなこともきっとあったはずだから、そんなことは気にせずに戻ってくればいい。 その川を渡れるならこっちに来たらどうだ。 渡れないのならお姫様抱っこと言う手もあるんだが・・・・」
と言った。
彼女が、
「じゃあ渡りきれそうに無いから、お姫様抱っこを所望する。」
と言ったので、川を渡って彼女の肩を掴むと、彼女は俺の手を握って微笑み、意識を手放した。
~帰宅~
誰も居なくなっていると言う悲劇・・・・ みんな探しに行くことは無いじゃないか・・・・
そう思いながら静かに、階段を上がって開きっぱなしのドアの先にあるベッドに寝かせた。
「気絶しすぎだ。 自分の体のことも考えろ。」
そう言って、額を突いてやった。
何だろう、安心して眠気が・・・・
ドアのノックの音で目が覚めた。
まだ真っ暗で、星が輝いている。 寝たのはほんの少しの間だったようだ。
眠い目をこすりながら、階段を下りてドアを開ける。
ドアの向こうには、栗色の耳と髪を持った半獣の少女が居た。
「あ・・・・ あの、ここに、アティモスって言う人はいませんか?」
不安そうに聞いてくるが、見れば花束を持っているじゃないか。 見舞いに来たのか? だが、彼女が怪我したのを知っている方がおかしい。 もしかしたら、実験体仲間か?
「あぁ、居るよ。 所でなんで花束なんか・・・・」
「あの、これは、私達の村で、誤解があって、その・・・・」
「起こらないから言ってみな。」
「あのですね、少し私達の村で誤解があって、彼女が悪者にされて、火刑に処されてしまったんです。 私は、悪者だとも思っていませんでしたし、火を付けようともしませんでした。 でも、悲しい顔させちゃったから・・・・ 村の代表として、私として、受け取ってください。」
差し出された花束は、よく見ると、薬草だった。 ツンとする匂いやスーッとする匂いが入り混じって店の中の香りと一緒になっていた。
それでも、怒りは完全に消えてはくれなかった。
だが、この少女ぐらいは許しても良いだろう。 自分のしてしまったことを後悔して、こうして贈り物までしてくれたんだから。
「お姉ちゃんは、助かりますか?」
暗闇に小さな声が響いた。
「私が、止めていたら、お姉ちゃんは、助かった、はずなのに・・・・」
しゃくり上げて、言葉が切れていく。
「どうか、お姉ちゃんを、助けてください!」
俺は、取りあえず
「分かった。」
と言って、家の中に招き入れた。
温かいミルクを飲む、真っ赤に目を腫らした栗色の少女は、イユーシュカと言う名前らしい。
どうやら、この子が他の分岐の鍵を握ってそうだな。
にしても、仲間が遅い。 仕方なく探しに行こうとすると、イユーシュカはアティモスの居る場所を聞いてきた。 どうやら出かけている間、看病をしてくれるようだ。
じゃあ、彼女にアティモスの看病は任せよう。 薬草を持ってきたことから、ある程度の応急処置ぐらいは知ってるだろうし。
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蛍の舞う川を挟んでナモロと話し合った後、私は目が覚めた。
近くにイユーシュカが居て、少し困惑したが、他の仲間も私を探しに行ったらしい。 誰も居ない。
となると・・・・ 今、最も危険なのは彼らが居る森だ。 イユーシュカが居ないことにユグムが気付いていたら、村長に伝わって大捜索が始まっていることだろう。 そして、彼らが見つかってしまったら、間違いなく、私の様な火刑に処される・・・・
急いで起き上がろうとしたときに、激痛と目眩や吐き気がした。
イユーシュカが、慌てて止めようとした。
「行かせてくれ。」
掠れた声を振り絞るように言うと、イユーシュカの手の力が緩んだ。
立ち上がるのに、苦戦していたら彼女は肩を貸してくれた。
「仕方ないね。 でも、また同じ事を繰り返すお父様に、ギャフンを言わせないとね!」
「・・・・ あぁ、そうだな。」
彼女が持つ松明が周りを照らしている。
大きいブナや杉が並び、動物が獲物を求めて彷徨う。 奥には、小さな蛍の光が残光の尾を引いて飛んでいる。
そうして一番最初に出会ったのが、イユーシュカの友達だった。 反射で隠れてしまったが、これは隠れて良い状況だ。
そしてもう少し森に居たいと駄々をこねるイユーシュカを、イユーシュカの友達は連れて行ってしまった。
さて、一人になってしまったが、ここはイユーシュカの友達の後を付いて行くのがいいだろう。
あと、身動きが取り辛いから時間を少しいじって・・・・ 一応、最大の三十分までにしとくか。
イユーシュカ達は気付いてないようだ。
森の奥にある、さっきのよりやけに明るい光は松明のものだろう。 そして、たぶん、あそこが村だ。
イユーシュカ達が村に入ったのを見て、私も木の上から村を見下ろした。
案の定、仲間たちは捕まっていた。 ただ、後ろ手に縛られギャンギャン言っている仲間の中に、ユイン、ナノハナやナモロ、終、そしてハーピー三兄弟は居なかった。
ただ、ここは少しイユーシュカに任せることにした。 私が出て事を引っ掻き回す前に、イユーシュカが丸く納めてくれれば、私が傷を増やして怒られることも無いだろうし・・・・
でも、そんなに上手く事が進むはずは無く、反抗した我が子の反抗心を押しつぶさんばかりに声を張り上げるユグム。 ここまでは予想通り。
ここで、異常事態が起きる。 ユグムが、我が子を火刑に処そうとしているのだ。
私の堪忍袋の緒が切れた。
時間の力を使ったため相手には、一瞬に感じ取れたんだろう。 ユグム達が驚いている。
「お前は、喋れないほど弱っていたのだろう、幽霊になってまで何故ここにいる?」
「・・・・」
目の前で何かが喚いている。 五月蝿い・・・・
だが、あの中にはユグムも居る。 殺したらイユーシュカが悲しむだろう。
必死で我慢する私の後ろで勢いよく炎が燃える音がした。
後ろを振り返ると、縛られた仲間たちが炎の中に入れられるところだった。
また、同じことが繰り返されようとしている。 何度も、何度も彼らは死んで、死んで・・・・
「やめろ・・・・」
「なんだ、まだ何か言うぞこの幽霊。 ほら、仲間が死んでいくのを見ろよ。 面白いだろう!」
「・・・・ 君達が、そんな奴だとは思わなかった。」
あの子に光の柱が立った。 光の柱が絶えた時は、あの子の様子は変わっていた。
傷だらけの顔に、涙の印を。 握りこまれた手に、バラの細工の付いたレイピアを。 ボロボロの服の上に、星空の様なマントを。 襟には、美しいクリスタルを。 それが、『哀の少女』。
イユーシュカ、は絵本で何度も読み返した差別を知らぬ少女の物語の思い出した。
そして、思った。
あの子のようだ。
レイピアを構えると、大の大人達が騒ぎ出す。
だが、お前らを殺したらイユーシュカが泣くだろうからな。
レイピアで仲間たちの縄を切っていく。 そのとき奴らは何もしなかったが、最後にイユーシュカの縄を切り終わった直後、一人の若者が此方にやってきた。 普通の足取りで。
何をしに来たのか、分からなかった。
だが、何の抵抗もしていないことに、その若者は気付いたのだろう。
そして、その若者は私を炎の中へ突き飛ばした。
あの子が炎の中に消えたとき、どっと歓声が上がる。
「残念だったな。」
そして、あの子が炎の中から戻ってきた。 月夜に輝く虹色の翼をもって。
「確かに物理攻撃は無理だが、精神攻撃なら・・・・」
あの子が持っていたレイピアが、少しずつ変わってバイオリンの弓になる。 月明かりがバイオリンを作っていく。 あの子は泣きながら、バイオリンを弾いた。
その後の記憶は無くなってしまった。
私が弓で弦を擦ると、甲高い音が響き渡った。 このバイオリンは何だと突っ込むことは置いといて・・・・
騒ぎ声が収まって、彼らは立ち尽くす。 何も言うことなく、案山子のように立っている。
さて・・・・ この人数、どうやって運ぼう。
変身した直後、効果が切れてまた彼らが騒ぎ出すとか・・・・ ありそうで怖い。
時間止めて運ぶか? いっそのこと。 でも止めた結果のあの、症状だからあまり使いたくないんだがな・・・・
でっかい籠にでも入れるか? でも、籠はないし・・・・ あっ!
あいつらのテントをひっくり返して持って行ってやろう。
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・・・・気が付いたら、ナノハナの薬局に来ていた。
絶対、アティモスのせいだ。
爆発音が森のほうから聞こえた。
「お前全員・・・・ 殺してやる!」
村から出てきたのか、傷だらけの若い半獣の彼らが槍を構えて此方に突進してくる。
が、彼らは彼女の怒りがどこに存在するのかを全く知らなかったようだ。
レイピアが彼らの肩をを貫いた。
レイピアを辿ると時間で瞬間移動した、無表情のアティモスが居る。
彼女がレイピアを引き抜くと、若い半獣の肩から鮮血が噴き出た。
喚き声と叫び声が交差する中、血を浴びた少女はそれを拭うこともせず、血の噴水を浴びている。
マントの下に着たTシャツが赤色を含んで、黒くなる。
「大丈夫・・・・ 死にはしない・・・・」
彼女の頬に涙が伝い、血を流した。
「だが・・・・ 仲間を傷つける奴は許さない・・・・!」
彼女の刺すような視線に周りで援護していた奴らの背筋凍っていく姿が容易に想像できる。
レイピアを収めると、
「帰ろう。」
と言いながら、俺の手を引いた。
その手は強く、縋り付く様に握り締められていた。
「全く、無茶をするなと言ったばかりだろう?」
「あはは・・・・」
「笑うな。」
「・・・・」
病室でベットに寝ながら、ナモロに説教される。
外は小雨で、桜の葉が雨に打たれて揺れる。
「脇腹の傷は治ったが、そんな足じゃ外に出せない。 今日一日、絶対安静な!」
「えー。」
「文句言える身体か?」
「・・・・すいません。」
30分が過ぎた後、悲惨な姿に皆が気絶しかけたので、ナモロにしかられていたのだが・・・・
脇腹の深い傷は治ってるのに、額や腕、脚などの浅い傷は治ってない。 それどころか、身に覚えの無い背中に浅く長い切り傷ができている。 これが、あの不思議な能力の代償とかじゃなかったら良いのだが。
雨脚が強くなってきた。 雑音の様な雨音に耳を傾けながらふと眼を開けると左の方の眼に刺すような痛みが奔った。 左眼には暗闇が広がっていて、手は頬を伝った黒い液体を受け止めていた。
ドアをノックする音。 そこからドアを開けてきたナモロに私は聞いた。
「なぁ・・・・ 私の左眼はどうなってるんだ?」
私の眼は瞳がオレンジ色、白目が黒く変色していた。
『哀の少女・・・・エルフか人間。 翼を持ち、星屑を鏤めたマントを着ていた。 青いバラの付いたレイピアを武器とし、レイピアをバイオリンの弓代わりにすることもある。 エルフの場合、片目が悲しみを花言葉にするマリーゴールドの色をした瞳をしている。 白目が黒くなったり、その眼から黒い涙が流れた時、少女は何かに絶望している。』
(アティモス)「次回、戦闘シーン無いらしい。」
(全員)『よっしゃぁぁぁ!』
(narikori05)(うん。 これで良かったんだ。)