疑いをかけられた少女
(アティモス)「遅い・・・・」
(ナモロ)「俺の出番少ないし・・・・」
(narikori05)「すいません・・・・」
大人は信じてくれない・・・・ 私で探しに行くんだ!
早朝、家を飛び出し、おとぎ話に出てくる半人半獣を嫌わない人を探しに行った。
そして見つけた。
「やっぱり居た! 私は間違ってない! あの人、熊さんとも仲良くしてたもん!」
家に帰って少女は頬を膨らませて怒り出す。
「そいつは悪い奴なんだ。 私達半獣が認められるのは同じ半獣だけなんだ。 大体、そいつが俺たちを殺すための囮かも知れないんだ。」
「違う・・・・ 」
「今から長老にその人のことを伝えてくる。 ここの掟は、進入したものを殺す事だ。」
「待って・・・・ !」
声が届かず、その夜には槍や弓を持って男たちが探しに行くのを、少女は黙ってみる事しかできなかった。
そして何故か夜が明ける。
男たちが角に縄を引っ掛けて、鹿を連れてきた。
「・・・・ お父様、何で鹿?」
「それがな・・・・」
ずるずると引きずった後には、リスやら熊やら猿やら森の動物がわんさか出て来た。
「こうなった事は村では初めてだ。」
一番最後の所には、指に噛付いたリスと、担架に乗せられたエルフとオレンジの猫。
「こんな状態で処刑したって、正当とは言えないだろ。 むしろ話題のネタにされちまう。 しばし、私たちの家で引き取る事になった。」
少女は目を輝かせた。
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起きた所は、木と布で作られているテントのようなものだ。
「起きた! お父様、起きたよ!」
少女が大声で言う。
「あっ、突然叫んですいません。 私、イユーシュカって言うんです。」
「・・・・ イユーシュカ?」
「そうです! イユーシュカです!」
「私は・・・・ アティモス・・・・」
「アティモス・・・・ いい名前ですね。」
「他にはいないか・・・・ ?」
「誰もいませんよ。 ここは半獣の村ですから。」
一人・・・・
一人、生き残ってしまった。
皆を、残してきてしまった。
身体を縮めて、悲しさを押さえ込もうとした。
心が散り散りになりそうだった。
男の半獣が入ってきた。
「やっとか。 イユーシュカ。 向こうで友達と遊んでいてくれ。」
「はい! 分かりました。」
イユーシュカが外に出た後、父が来た。
「私は、イユーシュカの父 ユグムという。 何故ここに着たのか訳を話してほしい。」
「・・・・ 特に理由は無い。 研究者に追われ、命からがら逃げてきた・・・・ といった所か・・・・」
「なるほど。 で、仲間は?」
「今・・・・ のんきに私の帰りを待っているか、散り散りになって探してるか・・・・」
「この森に入らないよう知っている奴は?」
「いないと思うが、半獣三人だから、知ってると思う・・・・」
「わかった。 ありがとう。」
そういうと、ユグムは出て行った。
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一週間が過ぎ・・・・
「村長。」
「何だね、ユグム。」
「あの女が起きました。」
「それで・・・・ 何かあったか?」
「毒殺を試みようとしても、食べ物や飲み物に一切手をつけようとしません。」
「・・・・ それ以外には?」
「外で奇襲を仕掛けようとしても、私の娘、イユーシュカと一緒ではないと外に出ないので、奇襲が難しく、さらに、気が張り詰めているので、すぐに見つかってしまうのです。」
「・・・・ その女・・・・ やはり、スパイだったのだな。 即刻に・・・・」
死刑の準備を・・・・
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「アティモス、何で何にも食べないの? 弱っちゃうよ。」
食べないと首を振る。
「お外は? 綺麗な蓮華が咲いてるよ。」
行かないと首を振る。
「お歌は? お歌、今日は歌わないの?」
歌わないと首を振る。
「何かしないの?」
「・・・・ 何もしたくない。」
何も興味のなさそうなアティモスを背に、イユーシュカはテントを出た。
アティモスが残していた食べ物も、水も、命を繋ぐ大切な物だとお母様に教わった。
何で、アティモスは、命を繋ぐ大切な物を手放そうとするのだろう。
今日は、あの綺麗な声で歌う歌聴かせてもらえなかったし、一緒にいたお友達の話も聞かせてくれなかった。
夜は、小さな鼠の様に震えている。
そうすればいいんだろうと、ボーっと歩いているうちに、お父様の身体に当たった。
お父様は、なぜか喜んでいた。
「お父様、いいことがあったの?」
「あぁ。 今日は宴になるかもしれないな。」
「宴! イユーシュカも楽しみ!」
宴はおいしい果実やお肉が並んでいるって噂のことで、お父様はいっつも目隠しを付けてから連れて行く。
でも、確かそれってとても鉄の匂いがして、それから・・・・
でも、イユーシュカの思い出は楽しさのせいで思い出される前に消えてしまった。
ここで気づいていれば、未来も変わってあんなことにはならない筈なのだが。
「今、準備をしてるから、休んでいていいって村長に言われたんだ。」
「良かったね! お父様!」
楽しみが一つ増えて、飛ぶように時間が過ぎた。
今日は宴だ。 彼女も一緒に連れて行こう。
木の葉で作った鞄に、革の洋服。
鞄の中には、ハンカチと小さなお守りが二つ入っていて、一つには小さく名前が書いてある。
「アティモス!」
と、気合十分で捲り上げられたテントの中には、誰もいなかった。
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「速く行け!」
鞭が鳴った。
無理やり起こされたと思ったら、暗い森に連れて行かれた。
倒れた後、服が破れたあとに、そこが赤くなった。
片手しか使えない今、バランス感覚も取りずらい。
「遅いぞ! とろとろしてると夜が明けて、宴に間に合わない!」
やっとの事で立ち上がり、足を一歩一歩進めていった。
暗い森の先・・・・ そこは、火刑の場だった。
柵の向こうで、半獣たちが声を荒げながら、私が殺されるのを待っている。
静かに板に足をかけようとしたら・・・・
幼い、聞いたことのある声が響いた。
その声は大勢の声に掻き消され、聞こえなかった。
けれど、何を言っているのかは分かった。
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「殺さないで!」
か弱い声は、届かない。
彼女がよろよろした足取りで、痛々しい身体で、一本の木の柱に括り付けられるのを見るしかなかった。
炎が付けられる。
だが、何かモタモタしている。
いまだ・・・・
か細い彼女の祈りは、静かに、でも確かに、届いた。
「こないで・・・・」
誰も来ない。
誰も止めようとしない。
もう、誰も来ない。
誰も憎むことなく、憎まれる事なく死ねる。
かすれていく声、感覚すら無くなった身体。
「・・・・ 殺さないで・・・・ お願い、殺さないで!」
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叫ぶイユーシュカの声が聞こえた。
・・・・このままじゃ、駄目だ。
私は、死ななきゃいけない。
でも・・・・ ここじゃない。
ここでは、私は生きていなきゃいけない。
誰もかも、私を信じなくなるその日まで・・・・
「生きて、俺に会うんだろ! 死体になって戻ってきたら、埋めてやんないからな!」
懐かしい声、恩人の声。
そうだった。 まだ約束を果たしてなかった。
まず逃げなければ!
足が無事なら! と下を見るのだが、足は、どうやら焼けて使い物にならないという事態になっていた。
赤い火が焼いてしまった。
赤、緑、白、色々な色が目の前で点滅し始める
「けっ計画中止!」
声が響く。
そして、火が近づいても縛れなかったので放棄しようと、後ろの獣人が木の棒を押す。
アティモスを括り付けようとしていた木の棒は、倒れる。
炎に近づく感じのしたアティモスが翼を広げた。
風圧で、炎からのがれた時アティモスは翼の存在を初めて確認した。
透明で、光が当たって、輝く翼だった。
色がない。
個性がない・・・・
私にお似合いの翼だ。
「・・・・そうだね。 君にとっても似合っている。 無色で、形もなくて、何も変えることのできない、意味の無いもの。 ただ、君の体についているだけ。 でも、君は、なぜその翼を付けたままにしておくのだい?」
どこからかかかる声に、少し笑いながら言った。
「これが私だからだ。 何もないが、その分何かに変われるんだ。」
すると、声は言った。
「そう、それが君なんだ。 何もない空っぽのくせに、自分は何かに変われるなんて思っちゃって・・・・
馬鹿馬鹿しいね。」
声に、囁くようにこう答えた。
「馬鹿馬鹿しくとも、なんだろうと、私は君に抗って見せよう。 何もできないはずの存在でも、君のシナリオに、合わせる気はないよ。」
「君は本当に馬鹿だ。」
緩んだ縄から手を抜いて、安心できる人のもとへ、行こうとした。
だが、『声』の声にばかり耳を澄ませていたばかりに、みんなが口々に叫ぶ声に気付かなかった。
耳鳴りのせいで全然聞こえない。
なぜ皆が目の前で、弓を構えているのかも分からない。
そんなに私はいらないものだったのか?
涙が零れ落ちて、声にならない悲鳴が漏れた。
私は何もしてないのに、種族が違うだけなのに、なんで、なんで・・・・
「なんで?」
微かに声が漏れた時、矢が肩を貫き、その衝撃で背中から地面に倒れた。。
「やった・・・・ やったぞ! 化け物に一発当ててやったぞ!」
歓声が上がる。
上半身を起こして肩の矢を抜くと、黒い矢じりが光っていた。
人を憎む心を表すかのように、黒々としていた。
「長老、このまま行きましょう! 皆、喜んでいます。」
「あぁ、このまま・・・・」
その時、イユーシュカが人ごみを掻き分けて私の前に立ちふさがる。
「イユーシュカ、どきなさい。 皆の邪魔になることはやらないようにと、死んだ母から教わらなかったのか?」
「イユーシュカ・・・・ お母さんからね、命を勝手に殺しちゃいけないって教えてもらったよ。 長老、イユーシュカは、女の子の友達ができて嬉しかったんだよ。 初めての同じ事が分かり合える友達。 だからね、殺さないで・・・・」
「イユーシュカ! こやつは我々を狩るスパイかも知れないんだぞ!」
「じゃぁ、なんでイユーシュカのこと捕まえようとしなかったの? イユーシュカと二人っきりの時、殺せば一人、私という半獣が消えるはずだよ。 でも殺そうとはしなかったんだよ。 何もしなかったんだよ! だから・・・・」
「煩い! 矢を放て! イユーシュカは我々に逆らい、スパイに手を貸す裏切り者じゃ! 射ても構わん!」
私は、イユーシュカの腕を引っ張って、覆いかぶさるように抱きかかえた。
考えはしなかった。 からだが勝手に動いたんだ。
長老が命令して放たれた矢は当然、的となる私達の所に届く。
背中にいくつもの衝撃が来た。
前から沢山の怪我を負っていた私は、イユーシュカの生存を確認してほっとして、気を失った。
アティモスの体重が急に軽くなったのを感じて、イユーシュカはそ上半身をを起こして、ゆっくり緩んだアティモスの手を置き、アティモスの頭を膝の上にそっと乗せた。
イユーシュカはアティモスの背中に刺さるいくつもの矢を見ながら、向こうで笑うお父様に言った
「お父様、思い出したよ。 『宴』って、こいういうのだったよね。 いっつも目隠しして行ってたけどね、小さい頃に一回何かに当たって、目隠しがずれたことがあるんだよ。 確か、見覚えのある人だった気がするけど、気のせいだよね? お母様じゃないよね?」
「イユーシュカ、それは・・・・ ちゃんと理由が・・・・」
「否定しないの? あれはお母様だったのね。 そうだったのね? また、私の大切な人を殺すの?」
「あの・・・・ 殺さないでくれます?」
アティモスが言う。
『しゃべった~!?』(イユーシュカ以外の方)
「なんで生きてるの!?」
まぁ、全員退きますね。 (イユーシュカ除く)
アティモスは立ち上がって言った。
「それは秘密事項だ。 先に行っときますけど、こうなる術とかどうのこうの聞かれてもこたえられない。 なりたいんだったら、都市部のほうにでも行ったらどうだ。 喜んで教えてくれると思う。 まぁ、イユーシュカは行かないだろうが・・・・」
長老らしき男が出てくる。
「なぜ何も言わなかった。」
「話す体力もなかったから。」
男はため息をつく。
「そんなことで騙されると思うか? お前は現にこうして話しているじゃないか。」
「そうだな。 だって霊体だからな。 お前らは向こうでしゃべって何も見てなかったと思うが、使い物にならなくなった体は、獣たちに連れてってもらい絶対安静中。 あっ、絶対見つからないことも言わなきゃな。」
「そのはったりも通用しないぞ。 握手してみるか?」
男は、手首を引っ掴もうとして手が空を切った。
「言った通りだろ。 村長さん。」
アティモスがイユーシュカに近寄ると、叫ぶようにユグムが、
「娘を殺さないでくれ!」
と叫んだ。
気にせず、足を進めて行って座り、頭を撫でようとして、払われた。
それは、恐れであり、無意識なものであることをアティモスは知っていた。
何か言おうとした彼女に大丈夫といった。 でも、悲しさが溢れて涙が零れた。
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立ち上がって、近くの森にあの子は泣きながら、静かにそっと、皆の前から、私の前から、一つの悲しみを残して消えて行った。
次回は、できるだけ早く仕上げたいと思います!