狂気を通して知る心
遅くなりすいません!
まだ修正中なので、内容がたがたです。
ナイフが壁に突き刺さる。
顔には見たことも無い赤い紋章があって、傷が開いて服が赤く染み出していた。
皆が二階にばたばたと上がってくる。
ナノハナがためらわずに言った。
「あ~ぁ。 寝ている間に悪霊に取り付かれたな・・・・」
「それって何だ?」
「生前に罪を犯したものの魂・・・・ いわゆる、天国にも地獄にもいけなかった者。 幽霊さ。」
「つまり悪霊に取り付かれた?」
「まぁ、そんな所かな。 体が弱っている時・・・・ 悪霊と何らかの心のつながりがあった場合、取り付かれちゃうんだよ。」
「あはは・・・・」(たぶんその原因知ってる・・・・)
呻きながらアティモスがナイフを投げてくる。
「ちょっと待って、お嬢さんの投げ方丸パクリだよ!? と言う事は能力も・・・・ コレは勝機無いかも・・・・」
ナモロが何か違和感を感じたその瞬間、いくつものナイフが襲い掛かってくる。 幸い、皆、皮を掠っただけで済んでいる。
「散開!」
アスタルテの指示で蜘蛛の子を散らすようにばらばらになった。
すると、アティモスが聞こえない声を出す。
アローが庭に一歩踏み出たとたん、電撃が走ったように痺れて、足が動かなくなり、そこに座り込んだ。
「皆! ここには結界が薬局を覆うように囲まれてる! 結界に触れると触れた部分が麻痺するぞ!」
「この薬局がエリアって訳ね。」
「ナノハナ! 荒れるけどいいか?」
「あぁ・・・・ もうどうにでもなれ! あと、ナモロでもアローでもアレキでもいいから地下にある緑の水晶玉持ってきて!」
「何でその話に?」
「悪霊の守り球よ! ぶつけるだけでいいわ! ただ、番人は血肉を代わりにして渡してくれるんだろうと思うからね!」
「チョイ待った! さっき、血肉って言ったよね? 今獲物を狩る暇ないんだけど?」
「それはいいのよ! 生きていて人型じゃないと駄目だから!」
(人肉食らうパターンだこれ)
「代わりどうのこうの以前に、その入り口って何所よ?」
「薬品棚の右から三つ目の奴の上から十番目左から六番目を引けばいいの! 割られたら死ぬからね!」
「どっちにせよ命がけかよ!」
「薬品ぶちまけないようにしてよね!」
「アレキ、駄目だ!」
ゼロの大声と共に、龍の吠え声が響く。
「あぁもう、あっちこっちで暴走が・・・・ って、アティモスが追ってこないわね。」
何とか薄く意識を繋ぎとめたアティモスは、とりあえず、自分自身の動きを止め、時間をを作る。
片足が麻痺したとしても、足の一番速いアローが棚を引くと、音がして一つの部屋が出て来た。
木の椅子に、緑の球を持った粘土で出来た白い狐がいる。
「血肉と引き換えに・・・・」
腕を伸ばすと、狐が動いて大きく口を開ける。
すると狐が動かなくなる。
後ろを振りかえると、見慣れた人影があった。
「お姉ちゃん。」
金属が合わさって、音を立てている。
「何で震えてるの?」
ナイフを今、投げようとしている腕が震えている。
アローのが急に笑い始める。
「なんで攻撃できない? 僕は・・・・ ロボット・・・・」
アティモスも笑った。
「ロボット? こんな精密なロボットがいたら苦にはならないさ。 その子は正真正銘エルフの子だよ。 何で攻撃できないのかって? そりゃ・・・・」
狐の前に歩み寄る。
「『姉ちゃん』 だもんな・・・・」
狐がアティモスの腕を引きちぎった。
「んで、これを・・・・ って・・・・」
片腕でアティモスは緑の球を持ち上げて、裏を見せる。 時間が刻まれていた。
アローが唖然とアティモスを見詰めている。
「爆弾とすりかえられたね。 いったい誰がすりかえたのやら。」
「お姉ちゃん? お姉ちゃん? 誰? お姉ちゃんって誰?」
またアローが笑い始めた。
アティモスが苦笑い浮かべる。
「あぁ・・・・ 取り付かれたな・・・・ というか、取り付かれてたな。」
「死ぬって何? 生きるって何? 仲間って何? 世界って何? 」
「何々って・・・・ まぁ、知らない部分もあるが、教えてやれるところもある。」
「何? 何? 何?」
「何が多い。」
黄色い魔方陣を紫色の魔方陣が起動する。
「それじゃ、今から生と死を知っている限り教えてあげるよ。」
「えっ?」
目の前にナイフが沢山現れて、身体を刺していった。
「仲間だから攻撃できないと思ったら、それは誤解だよ。」
アローの悲鳴と共に、結界が弱まった。
「アロー!?」
ナモロが見ると、アローは何も無いのにのたうちまわっていて、アティモスが緑の球を投げて慌てふためいていた。
ナモロを見つけたとたんに、緑の球を投げて、
「外に投げ捨てろ!」
と叫んだ。
だめだ・・・・ 今、アティモスは取り付かれて・・・・
血の臭いを感じてアティモスを良く見ると、腕が無くなっていた。
「・・・・っ!! アティモス、その・・・・」
「腕はいいから速く外にほうり捨てを! 球をよく見ろ! タイムリミットがのってるだろ!」
ナモロは言われるまでも無く、球を結界の外に放り投げて、アティモスのところに行った。
「一段落アレキのとこに行かなきゃな。」
「アティモス無理しすぎだ。 少し休め!」
「大丈夫だ。 まだいける。 あと、私じゃないといけないだろ?」
「・・・・」
アティモスがアレキの行った所に行く。
「ありゃまぁ・・・・ 手がつけられないね・・・・ 近寄った時点で、抉られてバットエンドかも。」
「まじで言うな・・・・」
「仲間涙目。」
「それな。」
二人は、暴れている人型のアレキが暴れて、大穴空けてるのを見て苦笑いしていた。
そう言いながらもアティモスはすっと、アレキに近づく。
アレキにそっと近づいて抱きしめた。
アレキが反撃しようと、引き剥がそうと爪を立て、肩に噛み付く。
「どうどう。 暴れすぎだ。 暴れるなら、戦う時してくれ。 これでも怪我人なんだ。 全く、みんな暴れだす・・・・ あぁ、暴れてないやつもいったけ。 でももうこりごりなんだ。仲間を傷つけるのは。 お願いだ。 なぁ・・・・」
助けてよ・・・・
アレキの腕の力が抜けるのが分かった。
「・・・・ 全く。 甘噛みも痛いとはやっかいなもんだな。」
「・・・・ ごめんなさい・・・・ 許して・・・・ 捨てないで・・・・」
「捨てるわけ無いだろ。 お前は猫か何かか。」
息遣いが荒いな・・・・ もうそろそろ休んだ方が・・・・ いや、まだか。 アローと・・・・
視界が揺れて耳鳴りが響く。 そして気分が悪くなってきたと気付いた時、後ろから銃口を頭に突きつけられる感覚がした。
お前もかよ・・・・
銃声が響く。 確実に当たる筈の弾丸が弾かれる。
耳元のうなり声。 接していたアレキの腕や顔の皮膚が硬くなって変化していく。
「・・・・ アレキ、そんなことしたらゼロにしかられるぞ!」
ナモロが駆け出そうとした。
「僕を助けてくれた人を操って、まだ狂わせる気?」
腕が大きくなってナモロの胸倉を掴み地面に叩き付けた。
「ナモロは何所? 何所に隠した? 何所にやった?」
「・・・・っ 知らない!」
「うそを付け!」
「はいはい・・・・」
二人の背筋が凍りついた。
「こんな二人には少しお灸でもすえるため、ナイフで貼り付けにでもすればいいかな?」
影で光を反射しない暗く細い瞳に、狂気じみた笑み。 怖い・・・・ しかも、あまり笑わないアティモスだから余計に怖い・・・・
びびった悪霊はどこかに飛んで逃げていったらしい・・・・
「よし、コレで三人。 で、残りは?」あっ、コレで終わりか。 さて、じゃぁ、アローの処理しに行くか。」
「処理って何? 今から埋葬するのでもないからそんな物騒な言い方するな!」
「いや・・・・ あれだけ凶暴化してちゃ、手もつけられないけど・・・・」
「アレキ・・・・ 見てた?」
「うん。 腕噛み千切られるのも。」
「「見られてた~!」」
とりあえず、棚の所に行くと、凶暴化して手に負えないアローを発見。
その跡に生臭い匂いが届く。
不意にアティモスが手を叩く。
「はい、皆後ろ向いて。」
「は?」
アティモスが無理やり肩を掴んで後ろを向かせる。
「痛い痛い痛い!」
「いいから向いた向いた。 これは、何かが乗り移ったわけじゃない。」
「じゃあなんだ?」
「精神の・・・・ 自我の崩壊だよ・・・・」
肩を掴んでいる手に力が、熱が、震えが伝わってきた。
「ははっ・・・・ これは手に負えないな。」
手が離れた。
呻き声が聞こえた。 言葉にも似た呻き声がナモロの耳に届いた。
「・・・・ 知ってるよ。 お前が私の事を、『化け物』 って言った事くらい。 辛い事くらい・・・・」
足音が響く。 一人だけの足音。
そういえば皆はいったい何所に行ってしまったのだろうか。
「アロー・・・・ 化け物に殺されるのは嫌か?」
呻り声と共に、少し遠ざかる足音。
「そうか・・・・ 流石に嫌か。 じゃあもう、この手しかないな。 『お姉ちゃん』として、これだけは使いたくなかったんだけど・・・・」
金属ががすり合わさるような音と、勢い良く近づく足音。
嫌な予感がして振り返る。
口元と手を真っ赤に染めたアローがアティモスに襲い掛かろうとしていた。
アティモスはナイフを握り締めて、アローの首の皮を切り裂いた。
怯んだようだったが、アローはアティモスの腹部に噛付き、その拍子に二人は倒れた。
アレキのような龍族と違い、歯は尖っていないが、アレキの場合、自我がまだあった為、甘噛みぐらいで済んものの、歯は尖っていなくとも、強い力で噛付いているため、服に血が滲み始めていた。
「どうどう・・・・ お前は何か? チンパンジーか何かか? ってこれ二度目だな。」
アローの頭を軽く叩きながら言った。
「ナモロ、見るなっていったろ・・・・ アレキはちゃんと守っているぞ。」
そこの奥では、仲間が無残な姿になっていた。
一人だけの静かな足音。
生臭いにおい。
付いてきたはずの仲間・・・・
あぁそうか・・・・
「そういえば、エルフは長生きするって知ってるか?」
「・・・・」
「知ってるか・・・・ じゃあ、私が今何を考えているか分かるか?」
「・・・・」
「分かるよな・・・・ 私の処理、よろしく頼むぞ。 アローはもう落ち着いてると思う・・・・ たぶん。」
黄色の魔方陣が展開して皆の傷が癒えて、塞がって、消えていく。 けれど、アティモスの身体は一行に治る気配すらなかった。
聞いたことがある。
エルフは長生きで沢山の知恵を蓄える事ができる。
だから、後衛や、治療師、秘書、医者などになることが多く、エルフ=癒しの職業 という噂もあながち間違っていないのだ。
後、エルフだけが持つ、ある秘密も聞いた。
死んでしまった者の命を生き返らせる方法・・・・
通常の人の寿命の何倍も生きるエルフは、寿命を人一人分削る禁忌の魔法であってもためらい無く使うことが出来る。
けれど、寿命と言うのは尽きるものだ。
この術式は寿命を削る者の怪我が深ければ深いほど多くの寿命を消費する。
「って言うか、いつも慕ってる人が死んでるかもしれないって言うのに、堂々と立っていられるな。 アレキ。」
「・・・・ 死んでないけど? って言うか、気付いてない? アローの時も処理って言ってた。 アティモスが仲間を傷付ける筈がないから、処理って言うのは後片付けの事。 『死んでる』私の処理と言ってないから、生きている確率が高い・・・・ と言ったほうがいいのかな?」
凄すぎて言葉も出ない・・・・・ ナモロである・・・・
「ハイハ~イ ゼロもやる!」
「ひなげしもてつだう!」
一人、一人ずつ背負って、寝床に持っていく。
治療が終わり、皆と一応離れた部屋においておいた。
流石に起きた途端、仲間がこんなことになっていることを知ったらショックを受けるだろうから・・・・
ナモロは、いつもより冷たくて、血の気の無い手を握った。
無理をさせていた・・・・
『死にたくない・・・・』
分かっていた・・・・
分かっていたから助けられなかった自分が・・・・
憎くて、憎くて仕方ないんだ。
自分の力不足に、護れなかった事に、ただただ悲しんでいた・・・・
部屋の壁に一人、黄色い髪の龍族がいた。
自分の服を握り締めて、唇を噛み締めて。
そこから立ち去った。
ー三日目ー
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夜寝たかのように、朝、背を伸ばして起きるアスタルテ。
アスタルテはぼやけた頭の中で自分が死んでいた事を再確認した。
ついでに、死んだ場所にも行った。 夥しい量の血が確かに死を告げていた。
そこから距離を置きたい口実に、今日の料理はなんだろうと、台所に欠伸をしながら向かった。
「・・・・ やっぱりうまくいかない・・・・」
「どうしよう・・・・ みんなおきちゃうよ!」
「急かさないでよ・・・・ アティモスみたいに上手く出来ないんだし・・・・・」
「あぁ! 焦げてる焦げてる!」
アスタルテが、戸をあけて、
「ん? アティモスが作ってないのか?」
と聞く。
「うん・・・・ あn」
「ちょっと最近働きすぎだから、今日はアティモスに休暇をとってもらったよ。」
「あぁ・・・・ 確かにアティモス働きすぎてたからね。」
「今、寝不足だからぐっすり眠ってるよ。」
「まぁ、仕方ないよね。」
アスタルテが台所を出て行くと、二人はホッと息を付く。
アスタルテは、二階に戻っていた。
アレキは正直すぎるゆえ、真実をつい言ってしまう。
何かを隠している。
まだ私が見ていない所は、私の隣の部屋。
戸に手をかけた時、皆の看病をし終わったゼロが、アスタルテが起きた所から出て来たところだった。
「おい、待て、そこはっ!」
風が吹き抜けて、窓のカーテンが揺れる。
アティモスと、ナモロが居た。
寝ている二人は命を繋いでいたが、アティモスの息のほうが浅く、腕も片方無くなっていて、命は今すぐにでも消えてしまいそうだった。
「・・・・ ゼロ、これはどうなっているの?」
「分かんない・・・・ ゼロは、上空をひなげし乗せて飛んでたから・・・・ ナモロとアレキと、アローしか知らないと思う。」
青ざめた顔には、悲しみが少しだがにじんでいるような気がした。
いきなり窓ガラスが割れる音と、床に降り立つ音が聞こえた。
振り返る前に、首筋を手刀で打たれてしまって、意識が無くなった。
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揺れる視界、雑音の入り混じる音、軋む体。
最悪の状態で、アティモスは黒の英雄の研究者という敵を認識した。
所が、不意をつかれ持ち上げられる。
うなり声を出しながら暴れまわるが、意識が薄れて消えていった。
起きたら、馬車に揺られ、森のどこか・・・・
気絶してるとばかり思い込んでいる奴らの目を潜り、森の中逃げ込んだ。
息を切らして、藪や枝に引っ掛かれ、やっと見つけた開けたところに倒れこんだ。
ここなら・・・・ 見つかるまい。 ここなら、知られるまい。
藪から、音がして、オレンジ色の毛並みの猫が歩いてきた。
そして、懐いていたかのように、すり寄ってきた。
その猫も傷を負って弱々しかった。
「・・・・ 似たもの同士か・・・・ ナモロみたいに懐っこいな。」
この猫ならまだ治癒魔法ぐらいで延命するだろう。
治癒力を高めるため、魔方陣を大きくする。
緑の魔方陣が巨大に広がり、淡い光を放った。
死にひかれる寸前の動物たちが救いを求めよって来る。
「皆おいで・・・・ 少し休みたいんだ。」
草むらで、耳と尾の生えた少女がこちらを見ていた。
その、不思議すぎる一部始終を眼に焼き付けていた。
「・・・・ 長老に知らせなきゃ。 やっぱり居たんだ!」