傷を癒せない不死の体
省略いたします! すいません!
それから、ひなげしが泣きじゃくるようになった。 だが、治療や、料理はしてくれる。
一番最初に動けるようになったのは、アローだった。 皆の中では一番軽傷なほうだ。 だが、家事は出来ない。 が、姉がよく怪我するので、治療はお手の物になっている。
次にアスタルテ、三兄弟・・・・ と回復していって、ナモロが最後に残った。 当たり所が特に悪くて、何故助かったのかも不思議なくらいだ。 生きてるだけ良い。
と、良いこともあるのだが、悪い事もある。
アティモスが、見つからない。 あの怪我で動き回るなんて正気の沙汰ではない・・・・ と言う事もあるが・・・・ マフラーを置いていっているのだ。 あの喉に空いた部分から空気が漏れて、息が出来ない・・・・とでも行った所だろうか。 道理で、防火や防水やらマフラーに色々細工するんだな。
動けるようになった時、皆は心配してくれた。 そして、アティモスの事は話さなかった。 俺が気付いてないとでも思っているのだろう。
日が暮れて、窓から外の景色を見た。 近くに桜の木が道のように生えている。 所々薄いピンク花が見えるが、まだ満開ではなかった。 そういえば、昔、リーナと一緒に桜並木の道を通ったっけ。 洋風の髪や瞳にしては、着物や桜が良く似合っている。 でも、喉元に穴が空いてるせいか、人が引いていったな。 ・・・・ん? 待て、リーナとアティモスがあまりに似すぎている。
物思いにふけっていると、尻尾を踏まれて痛さに固まる。
「いっっっ!?」
「あっ、ごめん、わざとじゃないから許して!」
「コレぐらいで許さないのもどうかと思うが・・・・」
声からして、アスタルテだろう。
「ナモロ、何を見てる?」
「桜の花だよ。」
「ふぅん。 じゃ、私もちょっと見たいから、隣良い?」
「あぁ・・・・ 構わないが、密着し過ぎは遠慮したい・・・・」
「分かってるって!」
二人して、窓から並木道を見ている。
アスタルテの金色の髪が風に揺れるたびに、何故かアティモスを思い浮かばせる。
頭の中で何かが弾ける様にして、記憶が蘇ってきた。
心が安らぐような歌、月明かりの差し込む桜の木の下、薄いピンクの花びらが金色の髪と一緒に風に流れていく。 溶けそうな歌声は、思いや歌詞と共に、大切な何かを伝えようとしている。 光に溶けてしまいそうな血の気の無い手が顔に伸びてくる。
「・・・・ろ ・・・・・ナモロ!」
「!!」
「全く、何をボゥッとしているの!」
「・・・・ ごめん」
「まぁ、体力もあんまり回復していないし、こんな感じになるもわかるけどね。」
「・・・・」
「ちょうど、昼食の時間になるよ。 」
「・・・・ 後で行くよ。」
「分かった。」
重く、静かな空気が広がっていった
突然、ガラスが割れる音がした。 風が通っていって、桜が咲いていって、身体も楽に動かせるようになった。何が起こったのかわからなかった。 一階からは慌てる様子が無い。 気付いていないのだろう。
外で何かあったのかと思い、何も考えず、腰から一丁銃を抜いて、窓から飛び降りる。 何か薄い膜を通っていくと、そこには、機械に持たれ、いまや四肢を切り落とされようとしていたアティモスが居た。
状況は何一つ分からないが、アティモスを助ける事に悪い事は無いだろう。
機械によじ登ると、機械の指を力ずくで剥いでアティモスを抱えながら着地した。
「あてぃもす!」
ひなげしが駈けて来た。
「・・・・ ごめんね。 たすけに行かなくてごめんね。 ひとりにしてごめんね。 ずっと、ずっと、きづいてたのに、ほったらかしにして、ごめんね。」
「ひなげし、アティモスを頼めるか?」
「・・・・ わかった。」
・・・・もっと、もっと速く気付けていれば、もっと強かったら、こんなことにはならなかったんだ。 ていうか、振り返ると、護られてばっかりだ。 情けない・・・・ 歯がゆい・・・・
銃を強く握った。
もっと速く、強くなって、なって・・・・
体が怒りで熱くなるのを感じた。
胸が苦しくなってきた。
彼女を護れたら・・・・
走り出して、腰のもう一つの銃を抜く。
奴が振り下ろすチェーンソーをあっさりかわして、エンジンの蓋の鍵を壊した。
自分が憎い!
髪や尻尾からオレンジ色が抜けて、白くなった。
機械から、ライフルを持った人が出て来る。
走り出す自分、動かず狙撃しようと動かない奴。
軽々と飛び上がって、奴の頭上を跳び越して奴を狙い、撃つ。
「・・・・ こういうこともちゃんと計算してからライフルは使うものだ。」
奴が、息絶えたのを見届けて、アティモスに向かって走った。
揺すられる感覚から、アティモスは薄く眼を開く。
桜吹雪の中、並木道で月明かりがナモロに暗い影を落とす。 青白い炎が空中に浮きながら敵の残骸を照らしている。
記憶が景色と重なる。 返り血に身を包んで、敵を撃っていく・・・・ モグアイに似ている。 その時は・・・・力が及ばなかった。 押さない私はただの足手まといになって、余計に怪我させて、冷たくなっていくのを見守るしかなかった。 今は、せめて彼を守りたい。 貴方に似ている彼を。
「ひなげし! アティモスの様子どうだ!」
「えっと、えっと・・・・」
「・・・・ 起きてるぞ・・・・」
「「ファ!?」」
「・・・・ ファ? 何を言ってるんだ? 仲間にファなんて奴居たか?」
「えっと、いないよ。 なかまにはいないよ。」
「アティモス、大丈夫か? 休むか?」
「この状態で、大丈夫とかまだいけるなんて言えた方が、可笑しいと思うぞ。 ナモロ、慌てすぎだ。 少し落ち着け。」
「落ち着ける事もおかしいぞ! 人が死にそうになってるのに落ち着けってどうゆうこっだよ!」
「なもろ、どういうこっだよってなに?」
「どういうことだよが噛んじゃって突っかかったんだよ。」
ナモロの顔が髪の毛に隠れて見えなくなる。
「そろそろ・・・・ 私はここから離れようか。」
後ろでは、終が薬草採りに外に出た所だ。
アティモスは、何時盗ったのか分からない手帳を腰にまわしてつけているバックに押し込んだ。
「アティモス? 離れるってどうやって離れるんだ? そんな怪我してまともに動けるわけ無いだろ。」
「・・・・ 確かにな。 けど・・・・」
「けども、なにも無い!」
ナモロが顔を上げて怒った顔を明らかにした。 その姿をアティモスは見詰めた。
記憶の中の砂嵐に男の子が見えた。 橙色の髪が時々白銀の輝きを見せる。
月明かりに白髪が出す輝きと、あの子の輝きが似ている。
でも、何かが違う・・・・ 何かが違う。 あの時は・・・・ もう・・・・
死んでいたんだ・・・・
それを、蘇らせたんだ。 どうやったか分からないけど、私にしか出来ない方法で。
何かを代償にした・・・・ 何を・・・・
自分の命を・・・・ そして、私は死んだんだ。 あの子の変わりに。
あの子の泣き顔を最後に、息絶えた筈なんだ。 けど、死なかったんだ。 死ぬ寸前の状態が続いていたんだ。
死にたくても死ねない。 けれど、傷が勝手に治るわけではない。 起きたら、あの子とアローが居たんだ。
声が出なかった。 喉には黒い穴があった。
魔法でどうにかしたが、流石にコレを世間に見せびらかすわけにはいけない。 それでマフラーときたわけか。 まぁ、あの時冬だったし、そこにいたって仕方ないだろうな。
・・・・ 見つけた。 繋がった。 皆が言ってたな。 気付いたら死んでしまうとか何とか・・・・
上がってきた血に噎せた。
多分これだ・・・・ でも私は・・・・
「大丈夫だ。 私は、死ねない。 大丈夫。 生きている。 皆が・・・・」
これ以上言えなかった。 眼の前が真っ暗になって、身体に力が入らなくなり、最後には意識を失った。
ナモロ達は、言葉を発した後、瞳が虚ろになるのを見て、アティモスの命の危険を感じ、ナノハナのところに駆け込んだ。
その後は、忙しがった。 治療といっても、銃による傷もあるから弾の摘出とやらでドタバタしていた。
治療やら何やら全部終わって、一息ついたときは夜だった。
ナノハナがふと言った。
「アティモス、何で生きていたんでしょうか・・・・」
その言葉にナモロが噛み付く。
「・・・・ 生きてほしくないとでも?」
「違う。 出血の量、怪我の状態、時間の経過・・・・ どれをとっても医学的に死んでる筈なの。」
「じゃあ、アティモスはもう・・・・」
「いや、生きているんですよ。」
そして、誰かが言ってしまった。
「化け物・・・・」
ひなげしが、机をつよく叩いた。
「『化け物』? なんで・・・・ あれだけ、皆の事心配してたのに・・・・ あんなに怪我しても我慢してたのに・・・・ 皆のために命を危険にさらして、あんな状態になっても・・・・ 自分の事は全て後回しにしてでも皆の事だけを考えていたのに・・・・ 自分しかいないからってがんばってたのに・・・・」
ひなげしの記憶の中で、寂しかったり、逃げたかったり、死にたくない自分を押さえ込んでいたアティモスの姿が思い浮かんだ。 赤の他人だった私も・・・・ 護ってもらっていた・・・・
けど・・・・
「例え、アティモスが護っていたとしても、私は、そんな奴仲間に認めたくない・・・・」
ひなげしは外に出で行った。
「この話は後にしよう・・・・ ひなげしがあんなにすらすら話せたのには驚いたが、俺は正直ひなげしに賛成だ。 だが、仮に化け物であったとしても命を助けてもらったに変わりは無い。 せめて礼くらいして行ったらどうだ。」
ナモロが二階に上がると、人型陣は黙って顔を見合わせた。
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ナモロが荷物の整理でもしてやろうかと、アティモスの小さなバックを探っていると、手帳見たくページ数の少ない本見つけた。
個人の荷物を無理やり読むわけにはいかないが、どうしても気になる・・・・・
どうやら、時の力を持った実験体の事が書いてあるらしい。
ゆっくりページを捲っていると、あるページについた。
ここまでの出来事がそこのページからそのままそっくり書かれていた。 今の状況でさえも。
ナモロはさらに先が見たくなってきた。
中間の部分は一気に飛ばして、最後の場面を見た。
それは・・・・ ハッピーエンドではなかった。
「彼女は死ねない。 けど、死ぬ方法が一つある。 それは味方に殺される事。 仲間を救い続けた彼女にとって、辛い結末の筈だったのだが、何故か最後の顔は笑顔だった・・・・ だっけ。」
アティモスの声が聞こえてすぐさま後ろを振り向く。
アティモスが、身体を起こして、軽く手を振った。
「30分だけの魔法がこんなに便利とはね・・・・ さてと、本の内容だけど・・・・ 遠かれ近かれ、こうなるだろう。 でも今はこんな私でも生きてほしいと思う奴が居る。 そういう奴に、今、このことを伝えたらどうなるか分からない。 だから、この話は二人の秘密にしておきたいんだ。 良いか?」
ナモロは瞬時に状況を理解し、約束を交わした。
「今は・・・・ だがな。」
「分かった。」
アティモスが、窓から入ってきた桜の花びらを手の平に乗せて、
「もしかしたら、こうやって話し合うのも、一緒に桜を見れるのも最後かもしれないんだな・・・・ ナモロ、ちょっとさ、そこまで行かないか?」
「・・・・ 皆にばれないようにな。」
皆は寝ていて、静かだった。 外に出ると、草むらから光が飛び交っていた。 蛍ではない。 星のように互いをかき消しあっているようにも見える。
森の中を少し歩くと、泉があった。 そこが透き通って、魚たちの鱗が月光で虹色に輝いている。
二人はそこに腰を下ろした。
「綺麗だな。」
「あぁ。 そうだな。 所で、アティモスそっちだと見えないぞ。」
「・・・・ こうさせといてくれ・・・・・ 見られたくない。」
「・・・・」
するとアティモスは顔全体に服が当たるのを感じた。 懐かしい、子供の頃にあった優しい匂いだった。
「アティモス、どれだけ我慢してるのか知らないが、今ぐらい・・・・ もう機会がなくてもせめて今ぐらい、泣いていいんだ。」
「・・・・ 心配にはらないか? 戦いで思い出して怪我しないか?」
「どれだけ心配性なんだ・・・・ 大丈夫だよ。」
服が引っ張られる感覚がして、アティモスが泣いているのが分かった。
声も無く、ただ泣いていた。
その背中は、長い間の苦しみや痛み、我慢や、酷い死に方しか人生を終わらせ、皆を守る方法が無い悲しみが染み出してた。
「死にたくない・・・・」
掠れた声で沿うアティモスが言ったとき、ただ背中をさすっている事しかできない無力さにナモロは呆れ果てていた。
泣き止んだ頃、時間が経って、瞳が虚ろになって身体は糸が切れた操り人形のように力を失った。
「聞いてたんだろ、ひなげし。」
「・・・・ うん」
「コレは・・・・ な。」
「うん、ないしょだね。」
ナモロは苦笑しながら言った。
「・・・・ こんなに仲間思いで、がんばってるのに、今まで気付いてない俺は何をやってたんだか・・・・」
「・・・・ かえろ、みんなまってる。」
「そうだな。 帰ろうか。」
「一つ言うよ。 アティモス。 君は過去の事を思い出したが『未来』を思い出せていない。 君にはまだ、思い出すものがあるはずだ。」
夢の中という場所ででアティモスに良く似た少女が一人迷路にいた。
仲間が広い道で喋っている。
追いかける。 追いつきたいと願う。
けれど、その手を握る前に血溜まりのなかに倒れる仲間が悲しみをたたえた顔をしていた。
後ろの誰かが嗤う。
「やっぱり、お前のせいだ。 お前のせいで皆死んだんだ。 お前がいなければ皆助かる。」
落ちていた銃を拾って後ろの人に向かって
「本当に、本当助かるの?」
後ろの奴は、微笑みながら言った。
「そうだよ。 全員助かる。 皆皆、お前がいなければ生き残れる。」
少女はそれを聞くと、ためらい無く頭に銃口をつけ引き金を引こうとする・・・・
その時、少女はもう片方の手を誰かが握るのを感じた。
オレンジ色の髪と瞳の半妖が
「死なないでくれ・・・・」
と満身創痍の身体ながらも訴えてくる。
温かな手が触れている。
生きたいという気持ちが湧き上がってきた。
死にたくない。 もっと生きていたい。 仲間と一緒に、願わくばずっと・・・・
少女は、半妖少しずつ体温を失っていく手を強く握って額に付け泣きじゃくった。
後ろの誰かが眼を細める。
その少女は、アティモスで、本当の時に戻ったアティモスの身体だったけど、バクを持った画面のようにアティモスの体が所々、エルフじゃないものに変わっている。
手に取った銃を奴の額に付きつけ、
「私は化け物だ。 人工的に作られ、エルフでもなく、半妖でも無い。 死んでいるはずなのに生きている。 喉に風穴が開いたとしても。」
喉に開いた穴を指でなぞる。
「それに関わった者は全て不幸になる。 元凶が死なない限り。 私だけじゃない。」
引き金を引くと同時に、こう言った。
「影の存在である、貴方も死ななきゃいけないんだよ。」
銃声が響き、『私』が倒れる。
「大丈夫。 私もすぐ向かうよ。」
もう一つの銃声が、響いた。
命が流れていくのが分かった。
「あぁ・・・・ これが死ぬっていう物なんだ。」
まだやりたくてもやれないことが沢山浮かぶ。 でも、皆がいないと駄目なんだ。 いないと・・・・ 駄目なんだ・・・・
「じゃあ、僕が変わりにそれをやってあげるよ。 ぼくもさ、色々未練があるんだよ・・・・」
いやな予感出して、力を振絞って起きる。
「変わりに、仲間を殺してあげる・・・・ !!」
夜が明けて、ナモロが看病に来た・・・・
アティモスが起きて、そのあと・・・・
アティモスが襲い掛かってきた。