隠れ家における食事情②
男だからなんだよ。
なにが駄目なんだ?
関係ねえって。
「絶対無理だ!とか思ってたのに、意外と慣れちゃうもんなんですねえ」
「自分でも驚き」
砂チョッキ着用による山での狩りや採取。
エメリカさんやコルテも息を乱すのが大分遅くなってきた。
「ほらほら!こんな風に跳んだりしてもへっちゃらですよ~」
「私なんか踊りも可」
背後にいる俺に全く気付かずに浮かれてる二人を見て、ちょっぴりいじめてみたくなっちまったとしても、それは仕方のないことだと思うんだ。
「ほっほう?それは素晴らしい」
あえていやらしい声音で聞こえるように言ってやると、二人の動きがびたりと止まる。
「そうかそうか~。そこまで慣れたってんなら、そろそろ重さをどかんと増やしてやるとするかねえええ?」
ぎ、ぎ、ぎ、てな感じで振り向く二人に、にまーっと笑ってみせてやる。
「や、やっちまったあああ~」
「《角鬼》に聞かれるとは、不覚」
誰が《角鬼》だこら。
「では早速今までの倍の重さの…」
「戦略的撤退~」
「明日への逃避行」
おお?まさか逃げるとは。
どうやらさらなる苦行をお望みのようですなあ、くくくくく。
「うわっきゃ~!」
「エメリカ!?」
ん?
「リウト!リウト!エメリカがいきなり落ちた!」
っ!?
コルテのいる場所にまで行くと、腐り落ちた巨大樹の傍らにエメリカさんが落ちたらしい穴がぽっかりとあいている。
ただ、深さはそれほどでもないようだ。穴の奥に光が射しているのが見てとれる。
ほう、と小さくため息。
「蔦や雑草で穴が隠れてたらしい」
なるほど。こりゃわかりにくい。
「おーい!エメリカさーん!大丈夫かー!」
「ふあーい!すいませーん!大丈夫ですー!」
「怪我はー!」
「ちょっとすりむいたくらいですー!」
よし。大したことなさそうでなによりだ。
「リウト!なにがあった!」
「エメリカは!?」
騒ぎを聞きつけて相棒とマテスさんも来てくれた。
「ああ、この穴に落ちたんだが、大丈夫みたいだ。どうもこのでかい樹の中に転がってっただけみたいでな」
「そうか、よかった」
「なんと人騒がせな」
「無事ならいい」
「んしょ、んしょ」
お。穴からエメリカさんが這い出てきた。
「あまり心配させるな、エメリカ」
「ごめんね、マテス。リウトさんもアディさんもコルテもごめんなさい」
「エメリカさん、まずは傷の治療を」
「あ、ありがとうございますアディさん」
相棒が《清浄》で汚れを取り去り、《治癒》で傷を癒していく。
「あの、みんなで中に入ってみませんか?なんか果物っぽいのがいっぱい生ってるんですよ!」
へえ?
俺と相棒は思わず顔を見合わす。
「そいつが本当なら、貴重な栄養源だ」
「おう。逃す手はない」
二人でいそいそと穴に滑りこむ。
「っと。おおー、完全に空洞になってたんだな」
「それに、思ってた以上に広いぞ」
「リウトさん!アディさん!あれです!あれあれ!」
すぐに後を追ってきたエメリカさんが指差す先。
朽ちた樹皮の日のあたる箇所をびっしりと蔓がおおっていて、確かに果実らしきものがたくさん生っている。
「お、《小美苺》じゃないか」
「だな。エメリカさんお手柄」
「ほえ?」
「私は食べたことがありませんが、リウト殿とアディ殿はご存知なのですね」
「私もない」
後から来たマテスさんとコルテも興味深そうに《小美苺》を眺めている。
「コイツはもいでしまうとおそろしく早く腐っちゃうんだよ」
「だからその場で食うか加工するか、俺みたいな《宝物庫》使いが収穫するかしないと駄目なわけだ」
「なんと」
「ほえー」
「むむ、貴重品」
「師匠の好物でね。「美容と健康にいい」とか言ってたな」
「「「!?」」」
相棒の台詞の終わりを待たず、三人娘が《小美苺》をもいで口に放り込む。止めることすらできない速さで。
「「「!?」」」
「あーあーあー、生で食べちまいやがった」
「慣れると癖になるけど、初心者にはきついよな」
《小美苺》は生で食うとそりゃもう酸っぱいのだ。今の三人娘のように悶絶するほど。
「ぬふううう!?口が!口の中が!」
「うびいいいいい!ずっばあああああ!」
「っ!っ!っ!っ!っ!」
マテスさんはしゃがみこんでぷるぷる震え、エメリカさんはなぜかぴょんぴょん跳びはね、コルテはごろごろ転がっている。
「さて、相棒。もぐの手伝ってくれ。この籠にいっぱいになったら《宝物庫》に放り込む。この量なら、気を付けてもいでも籠みっつ分はいける」
「三人は?」
「死ぬわけじゃないだろ?」
「それもそうだな」
いじきたないが故に罰が下ったんだと反省しとけ。
「ひ、ひどい目にあった」
「舌がひりひりする~」
「まだ口の中が酸っぱい」
隠れ家に戻り、台所へ直行。
早速《小美苺》を加工する。
「リウト殿、なにやら甘い香りがいたしますが、今度はなにを作っているのです?」
おや、ベレッタさん。
「山で運よく《小美苺》を見つけたんで、いまは果実蜜にしてるところ」
「おお、それは珍しい。私も王城の晩餐会でで一度頂いたことがあるだけです」
ほぼ出来上がりの果実蜜をひと匙掬ってベレッタさんに差し出す。
「なら、味見てくれる?王城の料理人にはかなわないだろうけどね」
「え?」
ん?
なんで匙と俺を交互に見てんだこの人は。
「で、でででは失礼して」
なぜどもる。
「…」
「どう?」
「け、結構なお味で」
「そっか。ならよかった。この果実蜜使って焼き菓子も作るつもりだから、よかったら食べてって」
「い、頂きます」
へにゃりと手近の椅子に腰かける。
なんか調子の狂う態度だけど、ま、気にしないでおこう。
「そういえばベレッタ隊長はこの間の“《地芋》を美味しく食べてみる会”には不参加でしたね。今度は大丈夫そうじゃないですか」
相棒の台詞にくわっと目を見開き、だむっと卓に拳を打ちつけるベレッタさん。おお、なんか元に戻った。
「無念です。聞けば食べたこともない数々の芋料理が味わえたとか」
そこまで悔しがるほどのことでもないと思うけどなー。
「なんで参加しなかった?」
「「「「「…」」」」」
コルテさんや、よりにもよってお前さんが聞くか、それを。
「コ、ル、テ、ど、のおおおおお!?」
「ふみゅぐ」
身の危険を感じたコルテが逃げ出すより速く、《身体強化》まで使ってベレッタさんがコルテのほっぺたをつまんで持ち上げる。
「ひひゃひ」
「誰のせいでえ、誰のせいでえ」
すげえな。あんなにのびるんだ、アイツのほっぺ。
誰も止めねえし。ま、さすがにちょっと痛い目みた方がいいのかもしれんが。
「あ、あのような辱しめを受けてえ、鬱ぎこんでいなければあ、私は、私も、リウト殿のお料理をおおおおお!」
「ひひゃひゃひゃふひゃ」
「まあまあベレッタさん。そんなに食べたいならまた材料が手に入ったら作りますから」
《地芋》くらい街に売ってんだろ。
「え!?ま、誠ですか?わ、私のために?」
「うん。なんならあの時の料理全部」
「…」
ベレッタさんがコルテをぼとりと落とす。
「そ、そうですか。ふ、んふふ」
なんかくねくねにまにましてまたおかしくなっちまった。
「むう。官憲による暴力に遺憾の意を表す」
「いい薬だ、ちょっとは懲りて以後慎め」
「そうですよー?」
「むむう。味方がいない」
そりゃそうだ。
「うは。暴力的な甘い香りだな!もうすぐ焼き上がりか?リウト」
「だな。俺も久しぶりだ。上手く焼けててくれるといいが」
焼き窯の中から鉄皿を取り出す。
「よし。上々だ」
「おおお!?」
「この匂いだけでも美味しいです~」
「ふおお」
「この馥郁たる香り、なんと素晴らしい」
「さて、冷めても美味いが、ここはやっぱり焼き立てを食べたいよな」
ふんふん頷きまくってるみんなの前に鉄皿ごと置いちまう。
「んではっと」
「「「「「「「「「「…」」」」」」」」」」
ひとつつまみ上げて口に放り込もうとした瞬間、異様な視線を多数感知。
「うわあ!?なんだ!?」
「リ、リウト殿!?」
「なんか囲まれてるー!?」
「あの香りに釣られた?」
「でしょうね。まさに魔性の香りです」
俺達の使ってる台所を何重にも女性の騎士さん従卒さん侍女さん達が囲んでいる。
数名男性騎士も混ざってるが、女の人よりそいつらの方が目に異様な光を湛えてて怖い。てかスミスさん、あんたもか!
「「「「「「「「「「…」」」」」」」」」」
「た、食べづらい」
「ぬう」
「ううううう」
「なんという圧力」
「くうう」
あーあ。
こりゃ俺の失態だ。
仕方ねえよなあ。
「あー、みんなも、食べる?」
「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」
うわあ。
すんげえ勢いで首振ってる。みんなそんなに甘味に飢えてたのか。
「リウト、手伝うよ」
ありがとう、相棒。
さて、では取りかかるか。
俺はつまんだ焼き菓子を口に放り込み真っ先に味わう。これくらいの役得は許してくれ。
うん。美味い。
食うためにゃ、食い物を手に入れなきゃならん。
当然のことだ。
次回「隠れ家の食事情③」
湧いて出てくるもんじゃねえぞ?飯ってのはさ。
※公開日未定
※投稿再開は活動報告にて告知致します。




