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結構やさぐれてた

 勇気ある者と書いて勇者、か。


 何をもって勇気あるとするのかってーと、これはなかなか難しい。


 あ、あとさ、自称するってのは、やめた方がいいよな。 

 うわ、最悪だ。


 魔力探査で検知した魔物の集団の進行方向は、村を目指している。

 俺と相棒は急いで装備を確認。急行したのだが。


「何かの拍子に連中を刺激したんだろうか」


「だろうなあ。悪気がなかったとしても、迷惑なのに変わりはねえよ」


 街道を必死に爆走する小さいが妙に立派な馬車と護衛らしき六騎の後ろから、《走り蜥蜴》に跨がった《小邪鬼》の群れが追走している。


「魔法で馬車と《小邪鬼》の集団の間を一時的に寸断。馬車を逃がし、連中を叩く」


「あいよ。《氷壁》の重ね掛けな」


「よし」


 二手に別れると同時に魔力を練りあげ、魔法の構築を開始。街道の両端に位置取りを済ませ、馬車の通過を待つ。


 土煙を上げながら馬車が通過しきる寸前に魔法を発動。街道が氷の壁で塞がれた。

 俺と相棒は、壁を回り込んできたり、飛び越えてきたりする《小邪鬼》と《走り蜥蜴》共を各個切り捨てていく。


「数が!多い!なっ!」


「二人っ!てのは!っと!ちょいと!無謀!だったか!な!」


 まだまだ軽口叩く余裕はある。我慢比べだな。


「村を!護って!死ねるならあっ!本望!だ!」


 こらこらこら!何言ってくれちゃってんだよお前!


「彼女に!振られ!て!自棄に!なっ!てんのかあ!?」


「なん!と!でも!言えよ!八年越し!」


「ああ!?」


「八年!越しの!恋が!ひと!晩で!消し飛んだんだぞお!くそ!」


 緊張感の欠けまくった会話しながら、なんだかんだで次々と魔物を屠っていく俺達。


「なっ!さけねえ!なあ!剣筋!」


「なんだ!?」


「剣!筋!乱れてっぞ!」


「っ!?うる!さい!」


「はっ!フマ師匠に!報告!もんだ!」


「んな!?おいリウト!そいつは!勘弁!」


 っ!?背後!?


「伏せろお!アディ!」


「!?」


 俺と相棒が地に伏せた刹那、迸る雷撃が頭上を轟音とともに走り抜けた。


「広域の《雷撃》!?」


 その場を蹂躙した《雷撃》は、確かに魔物を一掃してくれはした。余波で“ちょいと”俺達も痺れて焦げたけどな。それに。


「あー、リウト、そっち頼めるか?」


「もうやってる」


 街道脇の林が何ヵ所か燃えてちゃってるんでねー。魔力控え目な《水球》とか《水流》あたりを使って消火活動せゃならん。

 こういうのは小さい内にきっちりしっかり処理しとかねえと、後が怖いんだ。くそ!こいつは無駄な時間だぞ、勇者様。


「おやおや、随分と小汚ない姿じゃないか。あの程度の魔物にてこずってその様かい?」


「「…」」


 うあー、殴りてえ。半分以上お前のせいだろがよ。


「ふん?助けてもらって礼も無しか?それとも、口も聞けないほど疲れ果てたか。実戦を幾度も乗り越え鍛え抜いていなければ、どんな技も無意味でしかない」


 あん?ひょっとしてそれ、俺にやられたことに対しての嫌みか?


「やめなさい」


 ん?


「こ、これはソアル殿下」


 凛とした涼やかな声が割って入ったと思ったら、勇者様がやたらと狼狽えて、道を譲るように格式ばって膝をついた。

 その後ろから現れたのは、ぞろぞろ御付きの方々を従えた、夜目にも鮮やかな真っ白なドレス姿の極上美女。白金の長髪が月明かりを受けて神秘的に輝いてる。


 てか待て。殿下とな?てこたあ王族の方?

 どうもさっきの馬車がそうだったらしいが、なんでこんなとこにいんの?


「《女神に選ばれし勇者》様ともあろう御方が、その見識を疑いかねぬ暴言。彼らはいち早く私共の危難を察知し駆けつけて下さった恩人。私は不愉快です」


「っ!?御許しください」


 勇者様が一瞬にして顔を歪めた。うは、やべ、俺の顔も別の意味で歪みそうだ。いかんいかん、貴人の、王族の前だ。しかも今は非常時。


「先程の《雷撃》も、彼らを慮ったとは思い難く。事後のことも考えてはおられぬ様子。やはり、噂は、噂でしかない、そのようなこともあるということなのでしょう。此度のように」


 勇者様、ぷるぷる震えてる。やべえ。王族美女最高。こんな時でなけりゃ腹抱えて笑うのに。


 最後にそれこそ汚いものでも目にしたかのような一瞥を勇者様にくれた後、王族美女がこちらに向き直った。

 俺と相棒は静かに膝をつき、頭を垂れる。


「私は、モド王国第二王女、ソアル・モド・フアソン。両名面を上げて、名を。恩人の名を、是非に」


「《曙光の賢姫》に御目にかかれて光栄に存じます、殿下。我が名はアディ。自由騎士にございます」


 おおう。この方がフランシュのお姉さんか。

 まさかこんな形で出会うとはねー。っとやべ、俺も名乗らないと。


「我が名はリウト。同じく自由騎士にございます」


「…アディに…リウト。確か、先期《至雄院》騎士関連課程その全てにおいて上位に名を連ねた、同名の者達がいたと記憶していますが」


「は」


「面映ゆいことにございます」


「そうですか、あなた方が」


 んー。


 普段ならこの奇縁を楽しみたいところだが、今回はそうも言ってられない。

 ちと、まだ気になることがね。


「殿下、どうか発言を御許しください」


 お。さすが相棒。

 魔力探査に未だ戦闘中らしい多数の反応が引っ掛かってる。相棒も当然気が付いてるはずだ。


「許します」


「他の御伴の皆様は如何なされましたか?恐らく殿下の退路確保のため、お働きになられているはず」


 ソアル王女の顔からみるみる血の気が引いていく。

 だわな。王女様の御一行があんな少人数で旅してるわけねえんだから。


「やはり。御前失礼致します。リウト!」


「おお!」


 騎乗する俺達を、王女様が無言で見詰める。

 俺と相棒は、それに軽く頷き返すと、馬を走らせた。


「統率が見事にとれていた!」


「“綺麗な動き”だったもんな!」


 全速の馬上で、叫ぶようにして会話する。


「《王》か!?」


「それっぽい!」


「大分やられたようだが、まだ戦えてる!」


「もう死なせねえ!」


「よし!見えた!行くぞ!」


「おお!さっきは中途でアレだったからな!もうひと暴れだ!」


 視界の先に、倒れている数台の馬車と、円陣を組んで防戦中と思われる護衛の騎士隊。それを取り囲むようにして《走り蜥蜴》と《小邪鬼》。後は多くの死体に死骸。さらに。


「やはり《邪鬼王》が!」


「だな」


 長時間の戦闘で、護衛騎士隊の面々に疲労の色が濃く見える。魔物共はそれがわかっていて、なぶるような感じだ。胸糞悪い。


 馬を飛び降りて逃がし、魔力を練りながら、剣を抜き放ち突貫する。


「加勢する!」


「殿下は御無事だ!」


 魔法をぶちかまして包囲網を乱し、一角の魔物共をぶった斬りまくって護衛騎士隊の退路を開いてやる。


 っ!?おいおいおい!?


「アディ!?あのど阿呆が!」


 真っ直ぐに《邪鬼王》に向かってやがる。

 相棒一人で勝てないわけじゃないが、楽勝とはいかない。万が一があり得る相手だ。

 すぐにでも俺も向かいたいところだが、乱戦になり始めているために距離が開いちまった。


 ああ、もう、邪魔だあ!くそ!


「行ってくれ!」


 んあ?


 なんか、俺を護るように騎士さん達が戦ってくれてる。なんで?


「今の我々では、傷つき、疲れすぎていて《邪鬼王》の相手は荷が重い!」


 隊長さんかな?他より立派な鎧で髭の渋い騎士さんが、にやりと微笑みつつ《小邪鬼》を斧槍で貫く。


「君達の戦働き!全快の我々で同等かそれ以上と見た!騎士としては忸怩たる思いがあるが、奴は君達に任せるのが得策だろう!」


 いいね。こういう人だから、この状況でこれだけ持ちこたえてたのかもしれない。


「無事に戻れたら、是非とも一杯奢らせてくれ!」


「この先の村の宿屋、酒はいまいちだけど料理は絶品らしいですよ?そこ出身のヤツから聞いたんで、間違いないかと」


「ぬはは!そいつは楽しみだ!よおーし皆!奮起せよ!生きて帰るぞおお!」


 全員が雄叫びをあげ、騎士隊の動きに活力が戻った。

 彼らに助けられながら、《邪鬼王》と斬り結ぶ相棒の元へ。


「っらあ!」


 《邪鬼王》の騎乗していたでかい《走り蜥蜴》の後脚をぶった斬り転がす。もんどりうって倒れる《走り蜥蜴》から飛び退き、《邪鬼王》が体勢を立て直そうとするその隙に、アディと合流成功。

 よっしゃ。自惚れるつもりはないが、これでかなり余裕になるだろ。


「らしくないぞアディ。お前やっぱり失恋のせいでちょっとおかしくなってんのな」


「またその話か?」


 油断なく構えながら、馬鹿な話を振る。


「あれか?俺は半々くらいだと思ってたけど、実はクロエさん七割、残り三割でその他、な感じ?」


「………クロエ九割」


「…うわあ」


 雄叫びをあげて、大剣を振りかぶった《邪鬼王》が突っ込んで来やがった。

 剣が振り下ろされる直前に左右に別れて前へ。下段で足首に斬りつけ、後方へ抜ける。


「そりゃなんつーか。捨て鉢になる気もわからんでも、や、わかんねーわやっぱ」


「俺にとっては、世界一大切な女性だったんだよ!」


 斬られた痛みに逆上した《邪鬼王》が、滅多やたらに大剣を振り回しているところに、構築を終わらせた圧縮炸裂式《火球》を打ち放つ。狙いは肩の辺り。俺は左、相棒は右。


「なに外してんだ間抜け!狙いも圧縮も甘いぞ。駄目だこりゃ、フマ師匠に手紙送るわ、俺」


「待てリウト!それは、それだけは待ってくれ!」


「じゃあ次な。次成功したら見逃してやろう」


 俺と相棒の接敵時の不意討ちで魔物共の戦力の何割かを削れたし、《邪鬼王》の相手を俺達が引き受けることで、指揮に乱れが生じたのが功を奏したのか、護衛騎士隊の方は持ち直したようだ。今は殲滅戦に移行してるっぽい。


「さすがにすぐにとは言わねえけど、なんとか立ち直ってくれ。今のお前、なんかめんどくせえし」


「酷いな!」


 《邪鬼王》は左腕をだらりと下げたまま、血走った目を俺達に固定し、右手一本で大剣を構えている。足首の傷もあり、動きも遅い。

 相棒は一応気を抜かず、じりじりと間合いを狭めて必殺の一撃を狙っていた。


「生涯をかけてクロエを愛すると誓ってたんだよ!そう簡単に…」


 っ!?くそ!?


「魔法だあ!全員伏せろお!」


「またか!?」


 再びの轟音とともに、迸る雷撃。

 《邪鬼王》の上半身が消えて無くなった。


 あの野郎。


「はーはっはっはあ!安心したまえ護衛騎士隊の諸君!強大なる《邪鬼王》は《女神に選ばれし勇者》リボックが討ち取ったあ!」


 馬を反転させ、高笑いしながら去っていく勇者様。


「「「「「「「「…」」」」」」」」


 俺達はそれを、呆然と見送るしかなかった。

 愛、愛ねえ?


 この言葉、重すぎて使うのに躊躇しちまう俺は、そっち方面向いてないかもなあ。


 次回「三人娘の悩み①」


 愛、か。


※2016年5月4日公開予定

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