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隠れ家における食事情①

 うっかり無駄にしちまうこととかあったなあ。


 もったいないからって無理に食べて腹壊したり。

『こらコルテ!人の胸で遊ぶなと言ってるだろう!』


『んもおお!コルテえ!』


『またあの子よ!』


『なんで私は素通りするんでっすか!?』


『コルテ殿!そのような破廉恥なま、いやあああああん!』


「「…」」


 壁一枚向こうで繰り広げられているであろう阿鼻叫喚。


 しかし最後の悲鳴。あれ、まさかベレッタさんか?


「コルテさんも懲りないなあ」


「この後捕まってぼっこぼこにされんのにな」


 風呂でのこの騒ぎも、もはや恒例になりつつあるか。

 結論なきおっぱい談義を始めた男性騎士さん達に苦笑いしながら、俺と相棒は風呂から上がる。


 俺達が水分補給しながら雑談してるところに、ややあって三人娘もやって来た。


「「…」」


「あれはやりすぎだ」


「調子にのるからそうなるんですよ~」


「ふ。未知の探求に犠牲はつきもの」


 なにやら渋く決めてるが、たんこぶだらけのその様で言ってても全然かっこよくねえからな?なんかいつもよりひどいし。


「なにやらかしたんだ、コルテさん」


「摘まんでみた」


「はあ?」


「ベレッタ隊長の秘宝を」


「「…」」


 うん。これ以上は聞くまい。


「あ。いたいた。リウト殿!リウト殿!」


 ん?


 駆け寄ってくるのはデリンさん。その後ろからホイットさんも。


「珍しい組み合わせじゃないか」


「例の魔方陣の加工の件でっすよ」


 ああ。


「あれは私も素晴らしい工夫だと思うのですが、殿下に申し上げてもその必要性についてそれほど御理解頂けていないようなのです」


 はは。そりゃ、《曙光の賢姫》も万能じゃないだろうしなあ。


「仕方ないだろ。あの気持ち悪さや苦しさや情けなさは実際経験しねえと」


「確かに」


「然り」


「たぶん殿下はそんなに汗かくほど動き回ったりしないですもんね 」


「戦闘訓練くらいは受けてる?」


「どうなんでっすかね?」


「殿下は荒ごとを好まれませんので、最近はあまり」


 ふむ。


「それで、さっきマテス殿達が見慣れない胸帯とか着けてたんで、聞いてみたでっすよ。そしたら防具やらなんやら新しいものいろいろと受け取ったって言うじゃないでっすか」


 三人娘専用装備第四弾、てことで。


 確かに二日前、防具他もろもろ必要そうなものを一式取り揃えて渡している。


「それを詳しく拝見させていただけないかと思いまして。新たな説得材料を探すためにも」


 なるほどねえ。


「見せてもいいけど、全く同じものを求められても応える気はないぞ?そこだけわかってくれたら別に」


 仲間のための装備品てことで、素材から魔方陣からこだわりまくって作った特製品だからな。


「ん~。よくわかんないでっすけど、わかったことにしとくでっす」


「そこまで仰るとなると、拝見するのが楽しみですね」


「なあ、その前に飯にしないか?もう腹ぺこなんだよ」


 相棒が腹をさすりながら情けない声で言った。三人娘もふんふん頷いてる。


「だな。さあて、今日はなんにするか。二人もどう?一緒に」


「もちろんごちそうになるでっす!」


「よろこんで」





「リウト殿、アディ殿、なにやら騒ぎになっているようですが」


 んん?


 食堂の台所で、二人の従卒の娘さんが、他の従卒さん達に囲まれてなんか責められてるみたいだ。


 すすす、と近寄ったホイットさんが宥め、事情を聞いている。


「台所に転がされてるのは《地芋》の袋みたいでっすね」


 《地芋》は元の世界で重宝してたじゃがいもと変わらない芋だ。

 この世界でも普通に食用で栽培されてるが、その地位はあまり高くない。


 あらかた事情を聞き取ったホイットさんが戻ってきた。


「どうやら、保存してた《地芋》の袋を、あの二人が誤って日に当ててしまっていたようですね」


 あちゃあ。そりゃまずい。


「早々に処分せねばなりませんが、ふかした芋など好まない者も多く、どうしたものかとあの騒ぎになったようです」


 ふむ。


「なあリウト、お前の芋料理ならいけるんじゃないか?」


「かもしれん。言い出したからには手伝えよ?」


「そりゃ当然」


「なら、今晩は芋三昧だな」


 ちょいとひと肌ぬぐとしますかねー。 





「《薄揚げ芋》追加お願いしまーす!」


「《棒揚げ芋》も追加でー!」


「冷やしエール切れましたー!」


「《ふかし芋の乳脂のせ》と《芋だんご》お願いしまーす!」


「《つぶし芋》大皿空になっちゃいましたー!」


 ふうははー!台所はまさに戦場だー!


「な、何故我々まで調理を」


「もう手が痛いです~」


「おなかすいた」


「捲き込まれたでっす~」


「まあまあ、よい経験になるではありませんか」


「そうそう!それに人手足りてないんだから仕方ないでしょ!」


「ほれほれえ!黙って手を動かせえ!」


「あううううう」


「もうだめえ~」


「おなかすいた」


「きついでっす~」


 皮むき班、芋ゆで班、芋つぶし班、塩ふり班、などなど、下拵えや盛り付けなど、単純な作業は従卒さん達で編成された各班にお任せで。

 三人娘とデリンさんはそこに混ぜて手伝いを頼んだ。


「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!」


「…」


 相棒とホイットさんは、ちょっと難しい細い棒状や極薄に芋を切り刻む係。

 気合い入れながら猛然と切りまくる相棒と、淡々としながら凄まじい速さで刻むホイットさんとの対比が面白い。


「っと、薄揚げ、塩お願い。棒揚げも少ししたらいくぞ」


「はい!」


 俺は揚げ担当。加減の見極めがあるからな。 


 従卒の少女達と応援の侍女さんが食堂を走り回って給仕してくれている。


 この忙しさからすると、ホイットさん命名“《地芋》を美味しく食べてみる会”はなかなか盛況らしい。


 手の込んだものや時間がかかりすぎるものは選択肢から除き、品数は絞りこんだ。

 食感の違いや香草や酒の力を借りたとしても、味の根本は同じだからな。真新しさで進んでた食欲も、そろそろ落ち着いてきちまう頃だろう。


「芋なくなりました!」


 お。


 なら、最後まで押しきれそうかな。


 給仕の子達に料理はそろそろおしまいであると告げてもらうと、騎士さん達が徐々に食堂から引いていく。


「《地芋》はふかして食べるばかりで、私も少し苦手でしたが、いろいろと美味しく食べられるものなのですね」


「そうなんだがな。今日出したもんだと《つぶし芋》と《芋だんご》くらいしか真似できないんじゃないか?単純な調理法でも、大量に油を使う《揚げ芋》は難しいだろうし、《乳脂》は保存がな」


「なるほど」


 過去の《神託の渡り人》が持ち込んでるだろうに、大して広まっていないのは、おそらくそういう理由からだろうと思う。


「さてと、ホイットさんも手伝ってくれるか?」


「まだなにか?」


「なにって、俺達の飯がまだでしょ」


「あ、そうでした」


 食堂の卓にぐでりと突っ伏している従卒さん達や、三人娘とデリンさん。


「わざと下拵えした材料を残しておいたのはそのためですか」


「そういうこと。頑張ってくれたし、ご褒美があったっていいかなってね」


 少しだけ手をかけて、“《地芋》を美味しく食べてみようの会”密やかなる第二弾だ。





「美味極まる」


「おいひふひまふー」


 マテスさんもエメリカさんも、泣きながら食わなくてもいいのに。


「ふおおおおお」


「うんまあ~いでっす!」


 コルテとデリンさんはもう少し落ち着いて食え。


 はは。従卒さん達もすんげえ勢いで食べてんな。


 先の五品に加え、《つぶし芋のパン粉包み揚げ》、《なめらか芋汁》、《地芋の乳酪かけ焼き皿》を出してみたが、喜んでくれてなによりだ。


「「…」」


「どうした?食べないのか?」


「「!?」」


 卓の端。

 相棒に話しかけられ、驚きびくりと固まったのは、あの時責められていた二人の従卒娘さんだ。

 ずっと俯いて落ち込んでたのが気にはなってた。


「で、でも、私達のせいで関係のない皆様にまでご迷惑を」


「その上こんな上等なお料理。とても頂けません」


 ま、気持ちはわかるけど。


「失敗は誰でもする。大事なのは、認めてすぐに謝ること。繰り返さないよう考え努めること。誰かが同じ間違いをしようとしたら教えてあげること」


「「…」」


 さすがだ。

 こういう台詞は相棒に任せるに限るな。さらっと言ってのける。


「まだありますよ?」


 ホイットさん?


「失敗を補うために精一杯努めること。そして、そのために誰かの力を借りたなら、感謝の心を込めて必ずお礼をすること」


「「!?」」


 ホイットさんの言葉が終わった途端、あたふたと立ち上がる二人。

 周囲の俺達に詫びと礼を繰り返し、周囲もそれを受ける。


「リウト様、申し訳ありませんでした」


「助けて頂いてありがとうございました」


「いいって。ただ、あの二人から言われた言葉は忘れないようにな?」


「「はい!」」


「さ、せっかくだし、食べてくれ」


「「頂きます!」」


 腹は減ってたらしく、早速嬉しそうに食べ始めた。


「あ、あれ?」


「ええ?」


 が、一口食べて目を丸くし、他のものも一口ずつ食べてはその度に怪訝な顔をする。


「ん?どした?美味しくない?」


「とんでもない!すっごく美味しいです!」


「こんなの食べたことないです!でもこれ…」


「なんか、出来たてみたいに熱くて」


「冷めちゃってると思ってたのに」


「ああ、それ?魔法でちょっとね」


「「「「「「「「「「はあ!?」」」」」」」」」」


 え。なにその反応。


「まさか、料理に熱を取り戻すためだけに魔法を使ったのですか?」


「そうだけど。だって今日の料理はその方が美味いし」


「「「「「「「「「「…」」」」」」」」」」


 え。え。これはひょっとすると呆れられてんのか?俺。


「なんと贅沢な」


「火にかけ直すとかあるじゃないですか」


「それ、かなり面倒な構築式の魔法になるはず。でも、リウトがいろいろ変なのは今に始まったことじゃない」


「なるほど。それもそうでっすね」


「考えてみれば、ここに来てエールやワインを冷やして飲むようになったのも、リウト殿が発端でしたか」


「…」


 なんだろう。この居たたまれない生暖かい視線に囲まれた状態。


 だって温度も料理のうちなんだぞ?

 俺、間違ってないよな?

 それは人を狂わせる魔性。


 とくに女人は弱い傾向にあるようだ。


 次回「隠れ家における食事情②」


 や、俺も大好きなんだがな?


2016年6月6日公開予定

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