街のとある酒場にて
酒場での情報収集なんてのは常套手段だよな。
腹が満たされ、酒に酔い、判断力も鈍る。
今回はちと例外的な感じだったが。
薄暗い部屋に悩ましげな嬌声が響く。
発生源はがっちりむっちりの男だけどなー。
「あはははは!なかなか頑張るじゃない?ほらほらほらあ!」
「うおおおおん!?」
“裏”エメリカさん、男をしばく時は相変わらずすんげえ楽しそうだな。しばかれてる方もだけど。
「なあ、ホイットさん」
「なんでしょう?」
「つかぬことを聞くが」
「はい」
「この変態共をいちいち相手すんのが面倒になって、代わりの勤まる人材探してた、ってんじゃないよなあ?」
「…そんなことは決してございませんよ?ええ」
今ちょっと間があったな?
ずっと気になってたんだ。
ホイットさんからそこはかとなく漂う“しめしめ、上手くいったぜはっはー!”な空気が。
「俺の目を見て、もう一回同じこといってくれる?」
「…」
すんげえ速さで顔逸らしやがった、この女。
「…」
「…」
回り込む。逸らされる。
回り込む。逸らされる。
回り込む。逸らされる。
回り込む。逸らされる。
しゅばばばばってな感じで、無駄に高速化する、無駄に身体能力を駆使した、はてしなく無駄な攻防。そんなに嫌かあんた。
ま、もう認めてるようなもんだからいいけどな?
「ねえ?決まったよお?こいつなんだけど」
っと、そうだった、本題本題。
商人襲撃の黒幕の仲介者との接触を明後日に控え、俺の同行者を選抜することになったんだが。
ホイットさんからの直接的な依頼ということで、受け持ってた元幹部連中が誰が行くかで揉めだして、殴りあいの喧嘩まで始めたんだとか。
どんだけ彼女に心酔してんだかな、この変態共は。
で。
エメリカさん同伴で、と条件付きでホイットさんに呼び出されて変態共の部屋に行くと、「さあ来い!」と言わんばかりに背中を向けて居並ぶ元幹部達。回れ右して帰りたくなったぞ。
顔引きつらせて後ずさるエメリカさんにホイットさんが鞭を手渡し“裏”エメリカさんを呼び出すと、幹部連中をひとりずつしばき倒してくれと頼む。
砂時計を使って時を計り、一番長く“果てずに”耐えた者に役目を与えるって話になったらしい。
いい汗かいたと言わんばかりの“裏”エメリカさんに、その背後で誇らしげに胸をそらす変態。男泣きに悔しがる変態共に、羨ましそうに指をくわえて見てる変態共。満足げに頷いてるホイットさん、と。
俺、なんでこんな魔界に捲き込まれてんだろう?
「んん?見ない顔だな」
「新顔さ。ちょいと訳ありでな?」
「ほお?」
さて。
ようやく出番が回ってきた。
店のもんから客から全てが妖しい空気の酒場。
元幹部の変態さんと一緒にそこを訪れた俺は、奥の部屋に通されて仲介者さんとご対面。
「三日前に襲った商隊にコイツがいてよ」
「!?貴様ら!計画にない略奪を!?」
「安心しろ。わざわざ他領に出向いて襲ったんだ。それに念のため誰も殺してねえよ。あんたらの計画だけだと暇をもて余しちまう」
「ふん?そうか。なら構わん」
は。下衆な会話だねえ。
「商人共にこき使われんのはうんざりだってえからよ、なら一緒に来るか?って誘ったら、ほんとについてきちまった」
「ま、そういうことでな」
「変わってるな、お前さん」
呆れたように苦笑いする仲介者さんに肩をすくめてみせる。
「親分さんのとこだけで働いてても俺あよかったんだがね?「おめえならあっちでも重宝されるかもな」なんて言うもんでさ。こうして連れてきてもらったんだ」
「ダストが?お前、なにか使えるってことか?」
「こいつだ」
中空から金貨をじゃらじゃらと卓の上にばらまいてやる。
「!?《宝物庫》か!?」
「その通り。ああ、こいつは親分さんからだってさ」
「はは。馬鹿な商人もいたもんだな。《宝物庫》の使い手に逃げられるなどと」
「全くだ。聞いたら月に金貨一枚だったとよ?」
「は!ますます馬鹿だな。相場はその三倍以上だぞ」
「素質があって近所のじじいの魔法使いに習って覚えたんだがな?俺あそもそも生まれが悪くてなあ。上手いこと騙せると思ってたらしいぞ?舐められたもんさ」
吐き捨てるように言う俺を、にやりと仲介者さんが見ている。
「商人が嫌いか?」
「大嫌いになったね。あの糞ほどじゃないにしても、商人なんぞどいつも大して変わらんだろ?金にがめつい屑共さ。連中に一泡ふかせてやれるかもってんで親分さんについてったとこもあるしな」
憎々しげな俺の台詞に笑みが深くなる。
「どうだい?こいつが加わってくれんなら、またいろいろやり易くなるだろ?」
「そうだな。雇い主とも一度話し合わにゃならん」
「例の荷物はどうする?一応コイツに持たせてるが?」
「いや、ここではさすがに受け取れん。また一月、いや、半月後にしよう。それまでに段取りはつけておく」
「わかった。じゃあまたコイツ連れて顔出すわ」
細々した確認事項を済ませ、挨拶して酒場を出る。
「あんなものでよかったんで?」
「今回は顔見せだし、上々だろ?向こうもそうそう隙は見せちゃくれないって。とっとと解決してやりたいが、焦りは禁物だ」
「そうですかい。なら、俺はここで」
「ああ、お疲れさん」
手下の変態さんを留守番させ待たせていた馬車に乗り込み、元幹部の変態さんは帰っていった。
さて。
ほてほて歩きながら街の様子を見てみるが、やはりちょっと活気が控えめで、元気が足りない感じだ。
聞いていた通りなら、街の下の方まで金が十分に回ってないだろうからな。
なんか勘が働いて、ふらりと目についた酒場に入ってみる。
「いらっしゃーい。あら?旅人さん?珍しいわね、こんななーんにもないつまんない街に」
「はっはっは。そいつは客を迎える言葉としちゃどうなんだ?」
「さらっと受けるわね。面白い人」
ふ。
俺の勘は正しかったな。
看板娘さんかな?なかなかいいものをお持ちで。
「腹が減っちまってね、なんかあるかい?」
「《穴豚》の炙りに、芋ふかしたもんくらいしかないよ。酒も安エールに安ワイン」
正直だなあ。
「それでいい。頼むよ」
「引かないか。ますます面白いわね」
木のマグで出されたぬるそうなエールを魔法で冷やす。
「へー。魔法使えるんだ。でも、エール冷やすの?」
「試してみるか?」
マグを差し出してやると、ためらいなく一口。
「あ、おいこら」
どころか、一気に飲み干しやがった。
「なにこれ美味しい!もう一杯!」
やれやれ。あんたも十分面白いぞ?
「この街に娼館は無いの。くそったれの役人共がめちゃくちゃな税を取り立てやがるからさ」
うん。
俺の勘は正しかった。いろいろもろもろ。
看板娘さんといい感じに盛り上がったところで話を切り出され、彼女の部屋へ。
これも情報収集の一環だ。情報収集の一環なのだ。
「だからこうして街のあちこちに散らばって、客を選んでこっそりとね。客の方も税をかけられちゃうからさ、ちゃんと秘密を守ってくれるってわけよ」
「面倒な街だなあ」
「まったくね。登録された住人は、街を出たくとも出れなくてさ」
「出るのにも税か?」
「そうよ。払えるかそんなもん!てな額で」
なんとも工夫のない間抜けなやり方だな。
特産品みたいなものもないみたいだし、頭すげ替えるだけでどうにかなるってもんでもなさそうだ。こりゃ厄介な。
「なに考えてるの?」
「この街の未来について」
「く、ふ、あはははははははは!」
なぜ笑う。事実だぞ。
「はー、は。ご、ごめん。でもおかしくてさ。あなたって面白い上に変な人よね」
「そうか?」
「そうよお。それに、さ」
ふにゃりとしなだれかかってくる。
「娼婦抱くのにあんなに気を使ってくれる男なんて、滅多にいないわよ?」
はあ。そんなもんなのか?
「今日はひっさしぶりに楽しかったなー」
いやいやいや。
「あれ?楽しかった?もう終わりにするのか?」
「へ?まだするの?」
「そりゃそうさ。夜はまだまだこれからだろ。ちょっと試してみたいこともあるし」
玄人さんにアレが通用するのか、とかな。
「いいわよお?その挑戦、受けてやろうじゃないの」
「その意気やよし。ただ、身体には気をつけろよ?病気にかかってたぞ。もう治しといたけど」
「え!?ちょ、びょ、治したあ!?」
落ち着け落ち着け。
「そういうのって高いんでしょ!?私、お代なんて払えないよ!?」
「金取るつもりなんてあったら治す前にふっかけてる。だろ?」
「あ、そ、そっか」
「それにな、娼婦さん達が仕事柄かかりやすい病の中にゃ、人に感染ったりするもんがあるんだ。だから、これは自衛のためでもある。気にしなくていいんだって」
「で、でも」
なかなか固い娘さんだな。
「よし。ならこうしよう。今回はお互いただでってことにして、こっから先はさらに気合い入れて相手してもらおうか。全力でな」
にまっと笑ってそう言ってみたら、毒気を抜かれた顔で苦笑いされてしまった。
「ほんと、面白くて変だわ。変すぎる」
「どうする?」
「その話乗った」
よおし。
「覚悟しなさいよお?泣かしてあげるから」
「おおっとお、そいつは俺が言うつもりだったんだがなあ」
笑いながら寝床に倒れこむ。
結果。
「も、無理。あ、あんたずるいよ。なにさ、アレ」
「ふはは、なんとでも言うがいい。なかなかいい勝負だったぞ」
明け方近くまで続いた激闘を制したのは俺だった。ふいー。
例のアレは玄人さんにも大変有効でしたとさ。
元の世界の当たり前。
それがこっちで通じないことも多くてね。
次回「隠れ家における食事情①」
食は大事だ。
2016年6月5日公開予定




