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続!三人娘改造計画⑤

 すぐ近く。


 そいつらは確実に存在している。


 夢のある話だ。


 だから俺は。

 本日午後の訓練はコルテと一緒。


「コルテ」


「なに?」


「や、ずっと気になってたんだが」


「なにが?」


「お前、魔法使う前後にさ、すんげえ小さな声でなんかぽそぽそ言ってるよな」


「っ!?」


「詠唱じゃないっぽいし、あれ、なんて言ってんの?」


「…」


 おや?


 なんかぷいっとそっぽ向かれちゃいましたが。


「…」


 なんかうなじの辺りに血が上ってる?


「………の…………謝の…葉」


「ん?」


「…」


「…」


「精霊への祈りと感謝の言葉」


 そうなんだ。


「別にそんな顔真っ赤にして恥ずかしがるようなことでもないだろ」


 うお。またぽかぽか杖で殴りかかってきた。照れ隠し?


「いいことじゃねーか」


「でも、みんな、そんなもの必要ないって、魔法の成否に関係ないって、馬鹿にするから」


 あー。確かにそんな奴多いよなー。


「コルテはそれを欠かさないんだな」


「魔法を現出させるには精霊の助けが不可欠。だから、お願いします、ありがとう、って」


 そうか。だからか。


 可愛く照れてるコルテの頭を撫で回す。「あう」とか「やめ」とか「いわ」とか言ってるが、構わずぐりなでぐりなでぐりなで。


 んー、よし。


「コルテ」


「なに?」


「いい子なお前さんに、いいもの見せてやろう。ちょっと移動するぞ」


「?」


 怪訝な顔をしつつも、俺の後についてきてくれる。


「まさか、加護の力を使うの?」


「そのまさかだ。最近になってようやく、ちょっとだけ使えるようになってきたやつでな」


「…」


 魔力探査で、と。


 よし。ここらでいいかな。


「封印を解く。少し離れててくれ」


「わかった」


 さくっと封印を解き、もろもろ馴染んでくるのを少しだけ待つ。


「ふう」


「見たのは二度目だけど、がらっと印象変わる」


 まあなあ、髪の色やらなんやら、別もんになっちまうし。


「それで?」


「ああ。精霊のことなんだが」


「うん」


「定義は知ってるよな?」


「魔素と魔力を糧とし、ありとあらゆる場に在り、森羅万象の力を示すことを至上の喜びとするもの」


「そう。だが普通は、その存在を人は認知出来ない。俺達がその存在を実感するのは、精霊達が起こした現象そのもののみで、だ」


「まさか」


「もう少し俺に寄ってくれ。他人に影響を与える効果範囲はまだまだ狭くてさ」


「…」


「精霊達がいる世界は、俺達がいる世界とほぼ同じ軸にあるんだが、そのほんの少しだけの“ずれ”をちょいとこっちから合わせてやると…」


「あ!?」


 よし。成功。


「うわ!うわ!すごい!すごいすごいリウトすごい!」


 見えてるみたいだな。


 こんなに嬉しそうにはしゃぐコルテは初めて見るぞ。


 それまでのありふれた森の景色が一変し、今まで見えなかったものが見えるようになる。


「この、たっくさんいる子達が」


「そう。精霊だ」


「可愛い」


 そこらじゅうにぴこぴこと動き回る、小さな存在。


 真ん丸な胴体に相当する部分に、目も耳も鼻も口もないが、頭に相当する部分がのっかり、指はないが四肢に相当する部分もある。

 わらわらと漂う精霊達は人と変わらない動きを見せ、踊ってたり、寝てたり、喧嘩してたり、実に忙しない。


「コルテ、自分を見てみろ」


「え?あ」


 頭の上で寝ころがってるやつ、肩の上に座ってるやつ、ローブをよじ登ったり、すべり降りたりして遊んでるやつ。


「お気に入りの相手がいるとな?そうやってひっついて離れないやつが出てくるんだとさ」


「ふおお」


「ほら、俺にもくっついてるだろ?」


「むむ。私よりたくさんいる。くやしい」


「この加護の力は最初、“普通の人よりなんとなく精霊の存在を感じやすい”って曖昧なもんでな?」


「なんか、微妙だね」


「だろ?でもま、いることはわかるからさ。魔法の仕組みを知ったら、俺も自然に呼び掛けたり感謝したりするようになってたんだよな。で、どうしてもこいつらに会いたくて、頑張ってみた結果がこれだ」


 コルテはその場で座ると、自分の周りの精霊達を優しい笑顔で愛でている。


「む?」


 やがて、俺とコルテが自分達を認識しているようだと気付いた精霊達が、わらわらと集まってきた。


「ふおお!?なんかいっぱい来た!?」


 ぶんぶん手を振ったり、みんなで輪になって踊ってみせたり、てしてししたり、中には物陰に隠れてこっそりこっちを見てたり。

 俺達とのふれあいを求め、思い思いにぴこぴこ動き回る様が見ててなんとも楽しい。


「みんな、いつもありがとう。ほんとにほんとにありがとう。あなた達がいてくれるから、自然の恵みがある。理を得て、素敵な魔法がたくさん使える。これからも、どうかよろしく」


 コルテの心からの感謝の言葉。


 精霊達は、照れたり、ふんぞり返ったり、転げまわったり、それぞれ彼女の想いに応えている。


「っと。悪いなコルテ、時間切れだ」


「え?もう?」


「言ったろ?ちょっとだけ使えるようになってきたって。こいつは世界に干渉してる力だ。今の俺じゃそう長くは保てない」


「残念」


「俺もだよ」


 コルテがゆっくりと周りを見渡す。この光景を、その目に焼き付けるかのように。


「!?リウト!?」


「んあ?どうし、!?」


『あらあら、ちょっと気になる子が二人もいるから会いに来てみたけど、もうお別れなのねえ』


 俺達の視線の先。


 そこには、穏やかな微笑みを湛えた半裸の美女。


「リ、リウト?」


「上位精霊!?森で、若葉の装い、まさか《樹姫》か!?」


『御名答~。ふふ。自分達から会いに来る若い子はどんどん減ってるのよねえ。嬉しいわ。今はこれでお別れだけど、いつかまた、きっと会いましょうね?』


 ゆらゆら手を振る《樹姫》と精霊達の姿が次第にぼやけて見えなくなり、元の森の景色に戻っていく。


「…」


「…」


「最後にすごいものを見てしまった」


「だな。俺も直接会ったのは初めてだよ」


 デバガメガミ共曰く、人と精霊との交わりが薄くなりつつある今、上位精霊達はあまり積極的に人と関わろうとはしなくなってしまったらしい。


「リウト」


「ん?」


「また、会わせてくれる?」


「そいつは別に構わないが、それでいいのか?お前は」


「…」


 俺の言葉に一瞬きょとんとしたコルテは、少しの間考えて、いつだかに見せたとてもいい笑顔になった。


「そうだね。いつか必ず、自分の力で」


「おう。せっかくお誘いもあったわけだし」


「頑張る」


 どちらかともなく、笑いあう。


「また、会いにくるから」


 《樹姫》や精霊達が集まっていた辺りに向かって、コルテが小さく手を振る。


「お」


「あ」


 その瞬間、なんとも優しいそよ風が俺達の間を吹き抜けて。


「コルテ、上」


「上?」


 ひらりと。


 どこからともなく現れた一輪の白い花が、思わず差し出したコルテの両手の中にそっと収まった。


「《樹姫》からだったりしてな」


「そうだと信じることにする」


 はは。確かにその方が楽しい。


「ちょっといいか?それ」


 花を借り受け、時空魔法で少し細工してから、彼女の前髪のやや斜め上辺りに飾ってみる。


「枯れるからこそ花だと思いはするが、こいつは約束手形みたいなもんだから。特別にな」


「…」


 花にそっと触れたコルテが、その手できゅっと俺の手を握る。


「帰ろう、リウト」


「あ、お、おう」


 突然のことに少し戸惑う俺の手を引き、歩き出す。


 なんだかごきげんな様子の彼女と手を繋いだまま、隠れ家まで、のんびりほてほて歩いて帰った。





「なあ、どんどんわけがわからなくなってってないか?リウト」


 なにおう?この画期的な杖がなぜわからん、相棒よ。


「で、それはなに?」


 三人娘装備品第三弾、ということで。


「こいつがコルテ専用装備、名付けて《魔弾仗》だ」


 今日はいつもの晩飯後でなく、昼飯後に外でお披露目。


「リウト殿、あんなものでよろしいか?」


「お。ありがとうマテスさん、十分だよ」


 少し離れたところに木の板を地中に差し込んで固定してくれていたマテスさんとエメリカさんが戻ってきた。


「ほえー、それ、杖なんですか?なんか変な形してますね」


 変とはなにか。この機能美を理解できないとは。


 ま、見てるがいいさ。


「魔法発動の補助媒体としても優秀だが、こいつの真価は別にある」


 木板に向かって杖を構え、魔力を流し込んで起動させ、引き金を絞るように手前へ。


 きゅいん!てな感じの独特の快音が響き、杖から小さな《火弾》が放たれ、板に焦げあとが穿たれる。


「うお!?」


「なんと!?」


「ほええ!?」


「ふおお!?」


 ふっふっふ。どうかね諸君。


「この杖の筒の部分には、蓄魔石を小型に加工したものが収納できるようになってる。杖の先端の魔道具部分を微量の魔力で起動させれば、別に取り付けられた蓄魔石からの魔力の供給により、この部分の魔方陣が待機状態になる」


「「「「…」」」」


 各部を示しながら説明。構造を教えとかないと無茶な扱いされちまうかもしれないからな。


「で、魔方陣は《火弾》、《水弾》、《風弾》、《雷弾》の四種。状況によりこの円筒を回して切り替え、使い分けてくれな?あとは標的に向かって構え、この引き金を絞りこめば、加速の魔方陣を彫りこんだこの筒の部分から魔法弾が射出される、てな仕組みだ」


「「「「…」」」」


「簡易的に魔法を発動させる関係上、魔法弾の威力はかなり低い。殺傷能力はあんまり期待しないでくれ。こいつは、疲れ果てて魔力が上手く練れない時や、魔法の発動が間に合いそうもない時に、相手を少し怯ませ時間を稼ぐための隠し武器だ」


 呆けた顔で見ているコルテに《魔弾仗》を手渡してやる。


「コルテなら使うだけならすぐに出来るからな。ほれ、やってみ?」


 おそるおそる起動させ、《魔弾仗》を構えたコルテが引き金を絞る。


 きゅいんと音がして、板の端ぎりぎりに焦げあと。


「お!初っぱなから当てるとはやるねえ」


 構えを少し教えて修正してみたら、すぐに上手く板の真ん中辺りに当てられるようになった。なかなか才能あるな。


「リウト、これ楽しい」


「気に入ってくれたか?」


「かなり」


「これで威力が出せたら革命的な武器なんだがなあ?」


「ちゃんとした魔法にこんなもんが勝ったら駄目だろ。魔法ってなあそういうもんじゃねえんだよ」


「うーん」


 それもこの世界の決まりごとだ、相棒。

 「そうそううまい話は転がさない」てえのが、デバガメガミ共の言。


「あの、リウト殿?」


 ん?


「なんか、コルテの様子おかしくないですかあ?」


 え。


 きゅいんきゅいんきゅいんきゅいんと魔法弾を撃ちまくるコルテの顔が笑ってる。なんかやばい感じで。


「ふひひ」


 まさかな?嘘だろ?


 元の世界で“そうなっちゃう”人がいるって知識はあるが、この世界にもあんのかよ!?


「リウト、撃てなくなった」


「蓄魔石がきれたんだ。練習はまたの機会だな。魔力こめなおさねえと」


「やだ」


 やだって言われても。


「もっと撃つ。撃ちまくる」


 ふう、やれやれ。


「正気に戻れや!」


 ごいんと一発。脳天に一撃の刑に処す。


「ふおお」


 ったく。


 うちの娘さん達はどうしてこう、なんか残念な感じなのかね?しまらないよなあ。


 ま、俺や相棒がぴっしりしっかりしまってるのかといやあ、否と答えるしかないし?こんなもんなのかもな。はは。

 演じるってのも、なかなか趣があるな。


 たまになら、こういうのも楽しめるのかも。


 次回「街のとある酒場にて」


 え。たいして変わってない?そんな馬鹿な!?


2016年6月4日公開予定


 

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