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続!三人娘改造計画④

 理解し難い世界ってのがあるよな。


 や、無理。


 俺は絶対無理。

「ふ!は!うやあ!」


「…」


 むう。


 エメリカさんは今、短槍の初歩の型の動作を繰り返し、身に馴染ませて覚えようとしている。

 使い手の女性騎士さん達にお願いして、つい先ほど伝授してもらったものだ。


 ちなみに他三人は別行動。

 相棒はマテスさんの盾術の相手を務め、コルテはその近くで魔法の鍛練中。

 で、俺は槍術の復習をしたくて、こっちで一緒に槍を振るっているところ。


 で、エメリカさんなんだが。


 もちろん彼女は真剣にやっている。

 なのに、なんてーか、そこに妙な違和感が漂って拭えない。

 使い慣れてない槍だからとかそんなんでなくて、もっと本質的な部分でそう感じるんだよな。

 それがなにかと聞かれても、実は俺にもよくわからないんだが、どうにもちぐはぐというか、しっくりこない感じ。


「エメリカさん」


「っと、はい?」


「ちょっと遅くなったけど、昼飯食わないか?」


「ありゃ、夢中になっちゃってましたね。もうお日様があんな位置に」


 んー。


 飯食いがてら、ちょっといろいろ聞いてみるか。





「ほえ?槍を使い始めたきっかけですか?」


「そ。武器はたくさん種類があるだろ?その中から槍を選んだ、エメリカさんなりの理由ってのはなんだろうと思って」


 時を外した食堂は案の定すいてた。

 多分相棒達も先に済ませて、午後の鍛練に戻ってんだろ。


「んと。これだあ!って強い理由があるわけじゃないんですよねー。あえて言うなら、子供の頃からの延長なのかも?」


 ほお?


「私、おしとやかな女の子ってがらじゃなくて、男の子に混じって棒きれ振り回して戦争ごっことかしちゃう子だったんです」


 へえ?


「力とかじゃやっぱり敵わないですけど、棒きれとか使って戦えば、大きな男の子とかでも上手くすればやっつけちゃえるじゃないですか」


 ふむ。


「それがなんだかすっごく楽しくて。捕まらないように離れたところから攻撃するために、最初は木の枝だったのが、その内つっかい棒とか箒とか」


「はっはっは。やんちゃな娘さんだったんだ」


「えへへ。母親にもずいぶん怒られちゃってましたねー」


 子供ながらに考えて、か。


「年頃になると、街の外で小さな獣を追って狩りのまねごとしてすごすようになりました。せいぜいが足の遅い《太兎》とか《穴豚》相手ですけど。弓とかでなくて、中古のぼろぼろの槍でめった打ちにして狩るんです」


 え。


 め、めった打ち?突くんでなくて?


「で、傭兵教習所に入った時、なに使うんだって聞かれて、特に考えずになんとなく「槍」って答えたんです。本格的に槍の使い方学び始めたの、実はそこからなんですよね」


 うーむ。


「まあそんな感じなんですけど」


「…」


「リウトさん?」


「ああ、ごめん。話を聞いててちょっとね」


  ひょっとして、ということで、聞いてみるとするか。


「エメリカさんて、槍の技だと突きが苦手だったりする?」


「あー、やっぱりわかっちゃいますかー。そーなんですよ、なんか駄目なんですよねー」


 やはり。


「あのお化け槍はなんで使うようになった?」


「あ、あはははははー。あれはですね、リボックさんの加護の力でどうにかなるってわかっちゃった後で、止まらなくなっちゃったんですよ。もっと長く!もっと太く!って。だってその方が、遠くまでごっそり凪ぎ払えて、おもいっきりずがんと叩きつぶせるじゃないですか!」


 うん。確定だなこりゃ。


「エメリカさん」


「はい?」


「選んだ武器間違ってる」


「ほ、ほえ!?」


「リウト殿、少々よろしいでしょうか?」


 ん?


 俺の背後にぬるりとホイットさんが立つ。

 や、近くの卓で飯食いながらこっちの話を聞いてるっぽいのは気付いてたけど。


「エメリカ殿、断りなくお話を聞いてしまい、申し訳ありません」


「へ?あ、そんなの全然」


「ですが、あなたが見逃せない状態にあると思いまして、こうして口まで挟んでしまいました」


「え、ええ?それってどういう」


 なんだあ?見逃せない状態だと?


「あなたの中には、抑圧され鬱屈を抱えた“もう一人のあなた”がいるのです」


「…」


「…」


 いきなり話が妙な方向へぶっ飛んだなおい。


「えと」


「私は、殿下にお仕えしながら様々な貴族の方を拝見してまいりました。その中には、権謀術数渦巻くどろどろとした独特の世界に馴染めず、疲れ、心を病み、壊れてしまう方も」


「はあ」


「今、語るあなたに、かの方々と同じものを感じました」


「はいい!?」


「おそらく自覚なさってはいないのでしょう。しかしこのまま放置すれば、いずれ大変なことになるかと」


「うええ!?」


 なにする気なんだこの人。面白そうだからちょっと黙って見てようかな。


「たた大変なこと、って?」


「澱み、濁った想いがやがて狂気となり、抑えきれなくなった時」


「んぐっ」


「周りの大切な人をも捲き込んで、訪れるのは」


 ここまで、おどろおどろしい顔で話していたホイットさんが、哀しげに、せつなげに、瞑目し首を振る。


「破滅です」


「ひい!?」


 うは。言い切った。

 エメリカさんはもう完全に乗せられてる。


「ええ?ええ?あの、あのあの、私」


「ご安心下さいエメリカ殿。まだ間に合います。最悪の状態ではない、今ならば」


「…」


 有無を言わさず決め付け、過剰な不安を煽って落とし、希望を示す。しかもその希望は期限つき。


 典型的な思考誘導だな。


「どどどどうすれば?」


「難しく考える必要はありません。抑えつけていた秘めた想い。それを解き放ってしまえばよいのです」


「解き放つ」


 芝居がかった仕草で大仰に語りかけるホイットさん。段々目の焦点がぼやけてきてるエメリカさん。


「さあ、参りましょう。解放の時です」


「ときはなつ」


「さあさあこちらです」


「トキハナツ」


 はてさて、なにが出てきますやら。





「「「「「「「「「「お勤めお疲れ様です!姐さん!」」」」」」」」」」


 やって来たのは盗賊共の牢がわりにしている部屋のひとつ。


 部屋に入った途端、革の腰巻きひとつを身につけた全身傷だらけのむさ苦しい野郎共が、ざざっと姿勢を正しホイットさんに向かって一斉に頭を下げた。


 てか、姐さんってなんだよ。


「ご苦労様。挨拶はいいからさっさと仕事に戻りなさい」


「「「「「「「「「「は!」」」」」」」」」」


 なんか騎士さん達の鎧や革靴をせっせと磨いてやがるぞ。額に汗して、いい顔で。

 垢染みてないし、風呂にも入らせてんのかな?

 

「無駄飯食わせておくのもなんですので、このように雑用をこなさせているのです」


 はあ。


「ダスト!」


「は!」


「来なさい」


「は!」


 ダストお!?これがか!?


 俺と会った時にはでっぷり太ったもじゃ髭だったのが見る影もねえぞ?


「このお嬢さんのお相手を」


「は!」


 俺達に背中を向けて、びしっと変な格好を決めるダスト。


「さ、エメリカ殿、これを」


 ホイットさんが手渡したのは革製の多条鞭、っておいおいおい!?


「トキハナツ」


「そうです。解き放つのです」


「…」


 鞭を片手にふらりとダストに近寄り、ゆらりと持ち上げ構えるエメリカさん。


「トキハナツ!」


「…」


 ぺしゃり、てな感じで鞭がダストの背中を打つが、あれじゃ効いてねえわな。その証拠は奴の顔に見える失望の色だ。


 それでも彼女は気にしてないのか、鞭を振るのを止めない。


「ホイットさんや」


「なんでしょう?」


「あんたこの盗賊共になにしてくれちゃったわけ?」


「尋問後、従順な労働奴隷として売り捌けるよう、少々教育を」


 ほほお。で、残らず変態に育て上げたと。


「…」


 お?


 鞭の音が、“ぺしゃり”から“ぴしっ”てな感じに変わってきたな。


「ふふ、ふふふ」


 うわあ。


 エメリカさんが薄ら笑い浮かべだしたぞ。


「やはり私の目に狂いはありませんでしたね」


 む?


「リウト殿はお気付きになられませんでしたか?彼女が先ほど語っていた際、時折その瞳に異様な光が宿っていたのを」


 え。なにそれ。


「彼女には、暴力的な破壊衝動があり、加えてその陰に男を屈服させたいという嗜虐的な欲求があったのですよ。ああ、むしろ、幼少期に生まれた嗜虐の欲求を、破壊衝動で隠していた、というのが正しいのかもしれませんね」


「…」


 前者についてはなんとなく察したけど、後者についてはさっぱりわからんかった。


「うふふふふふ。ふは!あは、あはははははははははははは!」


 遂にびしばしびしばし間断なく放たれ始めた鞭の快音と、響き渡る妖しい高笑い。


 つか誰だこれ?こんなエメリカさん俺知らねえ。


「おっほおおお!それ!それでございやすお嬢!きたきたきたきたあああ!」


「誰が無駄口叩いていいっつったこの豚野郎があああ!あはは!あはははははははは!」


「ほひいいい!」


 自分の半分くらいの年の娘に鞭で散々にしばかれて恍惚の表情を浮かべる中年親爺。なんだこの魔界。


「ああん?お前らなにもの欲しそうな顔で見てんのさ!欲しけりゃ並びなあ!まとめて面倒みてやるよ豚共!あはははははははは!」


 ちらりとホイットさんの顔を窺い、彼女が頷くやいなや息を荒げながらぞろぞろ並ぶ盗ぞ、いやさ変態共。しかしよくしつけられてんな、お前ら。


「あんたは並ばないのお?」


 ん?


 え。まさか俺に言ってんのか?


「あんたみないな男が足元にひれ伏して咽び泣く様が見れたらあ、私、さいっこーの気分になれそうなんだけど。あはあ、想像しただけでもぞくぞくしちゃうう」


 うん。俺もぞくぞくしちゃう。別の意味で。


「まあいっか。今日のところはこいつらで我慢してあげる。でも、あきらめないから」


 や、あきらめてくれ、頼むから。


 さて、と。

 彼女の得物は作り直しだな、こりゃ。


「あははははははははは!ほらほらほらあ!鳴けえ!もっといい声でえ!」


 心底楽しそうに変態共をしばきまくるエメリカさんを見ながら、俺は小さくため息を吐いた。





「ほえ?それって、戦棍、ですか?」


「そ。エメリカさんにはこれが向いてるかなって」


 第二弾、ということで。


 ようやく完成したエメリカさん用武器を、みんな揃った晩飯後にお披露目。


 ちなみにあの日だが、体力の続く限り鞭を振るい続けて気絶した彼女は、目を覚ますとあっさり元に戻っていた。

 どうもある程度欲望を発散してしまうと、二人目のエメリカさんは引っ込む仕様らしい。かなりほっとしたってのが本音だな。


「なにしてんだリウト、エメリカさんの得物は槍だったろ?」


 相棒よ、お前の疑問はもっともだ。


「アディ、俺が考えなしにこんなことすると思うか?」


「いやま、そうだけど」


「ふむ。リウト殿は、エメリカが槍に向いてないと判断されたのですか?」


「マテスさん正解。攻撃の嗜好を鑑みて、思いきって二種類の武器で新たに仕切り直すことを提案してみたい」


「二種類?その戦棍以外にも?」


 お。いい話の振り方をありがとう、コルテ君。


「いや。マテスさんの小盾同様、こいつにも仕掛けがあるんだ」


 通常時は長柄の出縁型戦棍。こいつは“表”エメリカさん用の武器。


「魔力を流し込んでやると」


 しゃらん、と涼やかな金属の奏でる音が響き、戦棍が“可変”する。


「ほええ!?」


 柄の途中から八条に分離し、それぞれが連節棍状に。


「こりゃまた面白いもの作ったなあ」


 そう。この金属製多条鞭は“裏”エメリカさん用の武器だ。


「とまあ、こんな風に、魔力の扱いが上手いこと出来るようになったら、二種類を使い分けて戦えるようになる。頑張って使いこなしてくれ」


「…」


 可変戦棍をエメリカさんに手渡す。


「戦棍はともかく」


「なぜに多条鞭?」


 はっはっは。いずれ会えるよ。


「お、おいリウト。なんかエメリカさんが得物に頬擦りしてるんだが」


「ふふ、ふふふ、うふふふふふ」


 うん。そう遠くないうちに。


「「「「…」」」」


 過激な“もうひとりのエメリカさん”に、な。

 たとえ応えがなくとも。


 通じてる想いがある。


 次回「続!三人娘改造計画⑤」


 ちょっとだけだぞ?


2016年6月3日公開予定

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