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続!三人娘改造計画③

 こうしなければならない、こうあらねばならない。


 義務感とか、使命感とか。


 ある種、呪いみたいになってたりする時があるよな。

 夜半。


 隠れ家からそう離れてない森の中をのんびりと歩いていく。


 ほどなくして、剣のものではない風切り音と短い気合い声が耳に届くようになった。


 左手に備えた小盾を縦横無尽に振るい、受ける、押し返す、流す、それらの動きを繰り返す。想定を変えながら、何度も、何度も、何度も。

 木々の隙間からもれる月明かりに、飛び散る汗と小盾の鋼が反射して時折光を放っていた。


 やがて、動きがゆるやかになり、身体に異常がないか確認するように曲げ伸ばししながら呼吸を整え、長く息を吐き出して静止する。


「ふう。私はまだまだだ。もっと…」


「根のつめすぎはよくないな、マテスさん」


「!?リ、リウト殿!?」


 驚いて呆然と立っている彼女に、いつもの塩果汁蜂蜜水を投げ渡す。


「夜中の秘密鍛練、か。なかなか胸が熱くなる響きだが、身体を痛めつけるような真似は感心しない」


「申し訳ない。明日は鍛練の休息日とうかがいましたので、少しだけ、と」


「十分な休養も鍛練の一環だと思うけど?」


「は。それは、心得ているつもり、だったのですが」


 ふむ。


「なにか焦る要因でも?」


「…」


 一口、喉をならし、潤してから呟く。


「リボック殿との二年ほどの旅、全てが無駄だったとは思いません。ですが、その時間を虚しく失ったもののように感じてしまう、というのが正直なところなのです」


 ははあ。


「だから、少しでも取り戻したいと?」


「浅はかだ、とは思うのですが」


 基本的に真面目っぽいからなあ、いろいろ考え込んじまうのか?


「…」


「…」


 んー。そうだなあ。


「よし。明日は釣りだ、釣りにいこう」


「は?」


「決めた。みんなで釣りに行く」


「リ、リウト殿?」


「さあさあ明日に備えて帰ろう。さあさあさあ」


「ちょ、あの」


 ぐいぐいと背中を押して無理矢理マテスさんを歩かせる。


 晴れてくれりゃいいが。





「いよっし!五匹目え!つーれまーしたー!」


 快晴の空の下。


 エメリカさんが大きく竿を引き上げ、光を放って鈍色の魚体が跳ねる。

 この辺りの魚はすれてないというか、ぽんぽん釣れるな。俺も入れ食いとまではいかないが、なかなかの釣果が期待できそうだ。


「リウトお!この場で焼いて食うのかー?」


「当然だろ!」


 相棒もそこそこか。


「…」


 そしてコルテ。アイツどうなってんだ。

 まさに入れ食い。鼻唄まじりに一定の間隔で釣り上げ、魚籠の中がすでにとんでもないことになっている。


 で。


 そんな中、一匹たりとも釣れてないお方が。


「むううううう」


 あのね、マテスさん。


 釣りで殺気ってどういうこと?


「むむむ無心だ。無心にならねば」


 なれてないなれてない。なんかいろいろだだもれてるから。 


 苦手そうな気配はあったが、まさかここまでとは。


「なあ、マテスさん」


「は、話しかけないでくださいリウト殿。集中、そう集中せねばならんのです」


 それが駄目なんだって。


「…」


 流れから外れて、水がたまってる場所があるな。あそこなら丁度いいか。


 竿を置き、そろりとマテスさんに近寄る。


「どうりゃ!」


「はうわ!?」


 んで、おもむろに抱え上げて放り投げてやった。


 水飛沫をあげて川に落ちたマテスさんは、すぐに体勢を整えて俺を睨みつける。


「な、なにをする!?無体な!」


「はーっはっはっはあ!とあっ!」


 で、俺も飛び込む。


「何故このような真似を!」


「隙だらけだったからな。今のが獣や魔物の一撃だったら?どうなってた?」


「っ!?」


 彼女の警戒をものともせず間合いに踏み込み、また放り投げる。


「ぐ、は!?」


「ほれ、またやられた」


「くっ!?あああ!」


 苛立ち、掴みかかってくるのをするりとかわし、囃し立てる。


「どうした?そんなだから魚にも逃げられるんだよ」


「な!?おのれえ!ば、か、に、するなあ!」


「はっ!無駄無駄!」


「このお!」


「ちょ!?二人ともなにしてんですかあ!?お魚逃げちゃいますよお!」


 すまんね、エメリカさん。


「いいよいいよ。あの二人は放っておこう」


「ええー?」


 さすが。助かるぞ相棒。


「幸いコルテ名人が山のように釣り上げてくれたから、ちょっと早めに昼食にしよう」


「ふ。腹がはち切れるほど塩焼き」


「え?ええ~?ちょ、待ってくださいよお~」


 コルテもありがとな。


「これで邪魔は入らないな。徹底的にぶん投げてやる」


「ぬ、ぐ!な、なんなんだこれはあああ!」


 あの手この手で攻めかかってくる彼女を投げて投げて投げまくる。

 どれだけ川面に叩きつけられてもすぐに起き上がって向かって来るが、全部同じことの繰り返し。


「ああああああああ!」


 しまいには、ぼろぼろ泣きじゃくり技もくそもなくただがむしゃらに突っかかってくるだけになった。小さな子供みたいに。


「なんで!なんで!くそお!うああああああああああ!」


「…」


 大きく肩を揺らし、しゃくりあげて呼吸すらままならないまま、それでもすがりついてくる。


「ひぐ、ひ、う、ぐ、ふ」


 力も入らなくなったその両手を引き剥がし、最後に大きく持ち上げておもいっきり叩きつけてやると、それでようやく起き上がらなくなった。


「…」


「…」


 さて、俺も飯にするか。





 なんでいきなり喧嘩なんて、と詰め寄るエメリカさんを相棒とコルテのとりなしもあってやんわり流しつつ、塩焼きの魚をたっぷりと堪能。

 腹が満たされたところで、コルテが見計らったように焼いてくれた塩焼きの串を三匹分手にして、さっきの場所に戻る。


「…」


 マテスさんは釣りをしていた。


「…」


 彼女の魚籠を覗いて、思わず俺の顔がゆるむ。


「食べないか?コルテが焼いてくれたんだ」


「…」


 鼻先に差し出した串を受け取らず、彼女は顔を持ち上げる。


「滲んでいた視界が晴れた時、空の青が見えました」


「…」


「ずっと見ていたら、頭の中が空っぽになったような気分になって。そしたらこんどは水の流れる音が聞こえてきました。魚の跳ねる音も、たまに」


「…」


「のろのろ起き上がって、ここに座り込んで。そしたら、心地よい涼やかな風が私をなでてくれて」


 今も、彼女の髪がやわらかく靡いている。


「何年ぶりでか、そんなことに意識を向けている自分に気が付いて、妙におかしくなって」


 俺と顔を合わせようとはしないが、横顔には確かに微笑み。


「魚の焼ける美味そうな匂いが漂って、腹が音をたてて。でもみんなのところに行くのもなんか恥ずかしくて」


 そこまで言ってからようやく串を手にして、豪快にかぶりつく。


「美味い」


 瞬く間に二つ目の串へ。


「いつの間にかこうして釣りをしてて。気がついたら何匹も釣ってました。先程までが嘘のように」


 手から串が消えたんで、俺も隣で釣りを再開。


「…」


「…」


「…」


「…」


 二人とも無言でひたすら釣り上げる。


「リウトー!マテスさーん!」


 お?


「どうしたー?」


「そろそろ引き上げないかー?」


 おお。確かに日の傾きが頃合いか。


「行くか」


「は」


 竿を片付けるために糸を手繰る。


「リウト殿」


「んー?」


「不思議な人です、貴殿は」


「…」


「先程は、まるで子供の頃に祖父か父に相対していた時のようでした」


 んぐ。


 あー、や、確かに《神託の渡り人》ってのは、肉体と人格の年齢が一致してなかったりするけどね?俺もそうだし。

 ただ、祖父ってのはないだろ。そこまで老成してると思われるのはちょっと切ない。


「ですが、そのように感じることを私は望まない」


「…」


「叶うならば、貴殿をひとりの対等な男として感じていたい。ひとりの女として」


 ん?


「娘や妹のように扱われるなど、御免こうむる」


 んん?


 えーと。どういうことだそれ?


 ふわりと。


 思考に沈んだ数瞬に自然に懐に入り込まれ、投げ飛ばされたと気がついた時には水の冷たさを全身で味わっていた。


「ぶは!」


 やられた。


 は。俺もまだまだだな。


「ふふ。これでおあいこです」


「いいのか?一度だけで」


「今の私では、これが精一杯ですから。ああ、無論、そのままでいるつもりはありませんが」


「上等だ」


 差し伸べられた手を取り起き上がる。


 力強く握られた手を離す時、マテスさんの顔には、これまでに見たことがないほどにいい笑顔が浮かんでいた。





 晩飯の後。


「ほい、これ」


 まずは第一弾、ということで。


「おお!?こ、これは」


 マテスさん用に作った小盾を見せる。


「こいつにはちょっとした仕掛けがあってな?まだ魔力の扱いに慣れてないだろうから、使えるようになるのは先の話だろうけど」


 試しに魔力を流し、その機能を現出させてみた。


「なんと!?」


「ほえー!?」


「なんか綺麗」


「おー、面白いなそれ」


 小盾の表面に、魔力で形成された盾がうっすらと浮かんでいる。


「この魔力の盾の大きさや強度は、使用者のそれに由来し調整が可能だ。だから…」


 流し込む魔力の量を増して、大盾ほどに。


「こんなことも出来る」


「!?」


 ここまで扱えるようになりゃ、マテスさんの家伝の盾術もそのまま使えるだろう。


「小盾としてもそこらのものよりよほど頑丈で軽い。ま、頑張って使いこなしてくれ」


「か、かたじけなく」


 受け取ったマテスさんが小盾を抱きしめる。


「ちなみに、マテスさん?」


「は」


「念のために言うが、それを試すのは明日からな?」


「!?」


 こらこらこら、なんだその顔、その反応。


「夜中に抜け出してとか、駄目だからな?」


「…」


「…」


「ちょ、ちょっとだけ」


「駄目」


「ううううう」


 なんでそんなうらめしそうな涙目で俺を見るんだ。おもちゃお預けくらった子供みたいだぞ。


 ま、そう簡単に変われんのはわかるが。


 はー、やれやれ、だ。

 胸の内に潜むもの。


 心の内に潜むもの。


 次回「続!三人娘改造計画④」


 いや、しかしこいつは。


※2016年6月2日公開予定

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