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隠れ家の大改装②

 命の洗濯か。


 まさにまさに。


 この悦楽を知らないのは人生の損失だ。

「ほむううう。リウト殿、これはよいものだな」


「でしょ?」


「一日の疲れが溶けていく感じが最高なんですよね」


「全くだ」


 並んで湯船に浸かる俺達は、大層だらしない顔をしてるに違いない。


 あの後。


 王女御一行も隠れ家に合流。

 被害にあった商人ダカタさん一行には協力を求め、“荷は盗まれた”という態で街まで戻って頂くことになった。

 調査と護衛を兼ねてホイットさんの部下が数名同行しているとのこと。なにがどうなって、誰がどう動くのかを確認するためだ。

 危険ではあるが、ダカタさんは二つ返事で引き受けてくれたらしい。ま、後ろに王女が控えてんだから、安心感もあるんだろうな。


 で。


 調査結果を待つ間、俺と相棒は隠れ家の改装を続行。相棒も《石壁》の応用は得意なんで、二人してがんがん進め、隠れ家の内部は今や総石壁造りの、ホイットさん曰く「そこらの下級貴族の邸宅などより余程上等」なものに仕上がった。

 今も雨水や土砂の流入と虫や小動物の侵入を防ぐ細々とした加工を、俺の指導を受けた騎士隊のみなさんが随時進めているようだ。


 本日。


 念願の浴場が完成の運びとなり、俺達は早速ゆったりまったり楽しんでいる、というわけだ。


 連日各種魔法を駆使して造り上げた俺渾身の作。

 かなり時間を費やしたのは、水源から水を引く加工と排水のための加工。こいつは隠れ家の水回り全てに施したんで、さすがにきつかった。

 浴槽に溜めた水を熱するのには、格子状の木製の仕切りで幾つか区分けした専用の箇所に、俺が作った加熱の魔道具で高温に熱した手頃な石を沈め、沸いた湯を掻き回して広げていくという簡単な仕組みにした。

 直接水を熱しないのは、万が一魔道具の使い方を誤った場合の防止策だ。造りが単純なんで、魔力を流しすぎたりするとどえらいことになるからな。


 完成を報せると、その良さを知ってるソアル王女からは大喜びされてしまった。どうも風呂が好きらしい。もちろん一番に楽しんで頂きましたとも。


 王女が堪能した後の第二陣として、騎士隊の面々が交代で入浴することになり、俺達もそれに混じってる。

 仕切り壁の向こう側から聞こえる女性騎士さん達のはしゃいだ声。喜んでもらえてるようでなによりだ。


 名目なんざいろいろあるが、あえて天井まで仕切らないことに風情と浪漫が詰まってると俺は思うんだ。うん。

 

「ところで、念のため確認したいのだが、二人は自由騎士としてやっていくつもりなのだな?」


「「…」」


 その手の質問、もう何人からされたか覚えてねえな。


「そうですよ?それが俺達の夢なんで」


「ほ、ほむう。選択肢はいろいろとありそうだがなあ」


 それも散々言われた。“なんで自由騎士なんだ”って。


「なあリウト。みんなの話を聞いてると、師匠の方針に沿って《至雄院》時代も含めてがむしゃらに鍛えてた俺達は、どうもいろいろと異常らしいぞ?」


 そうみたいなんだよなー。

 ガキの頃はあんまりそれっぽくない神父にシスターと逞しすぎる孤児達に囲まれ、その後に師匠と相棒、《至雄院》もがむしゃらさんが多く集まる傾向のあるところだったから、身近で違和感をそれほど感じてなかったのが原因なのか?


「騎士で魔法をたしなむ者も、普通はひとつ、多くともみっつ程度か。選んだ系統に特化して修得するものだからなあ」


 へえー。


「まあいろいろ出来るからと困ることも無いし、俺達はこのままでいいよな?」


「だな。別に問題ねえだろ」


「うちの隊の連中の矜持を粉々にしないよう、ほどほどに頼むぞ?二人の使う《石壁》の真似がどうしても出来ないと、土魔法を使える奴がひどくやさぐれててな」


「「…」」


 えーと。が、頑張れ?


『あ!?こ、コルテ!?おいコルテ!?』


 んん?


『リウトさあん!リウトさあん!そっちにいますよねえ?』


 でかい声で呼ばないでくれ恥ずかしい。


「どうした?」


『なんか急にコルテがふらふらしだしたんですよお!』


「たぶん“のぼせる”って状態になっただけだから!湯から出して風通しのいいとこで寝かしときゃよくなる!だめそうならまた声かけて!」


『わかりました~!』


 やれやれ。


「ふはは。あちらはあちらで楽しんでおるようだな」


「だといいんですがね」


 久しぶりの風呂くらいのんびりと浸かりたいもんだ。





 で。


「どうだコルテ。調子はよくなったか?」


「だいぶ」


 のぼせたコルテは運び出されて寝かされてたが、回復してきてるようだ。例の塩果汁蜂蜜水を飲ませてやる。


「なんでのぼせるまで浸かってたんだ?」


「新発見の監察に夢中になってしまった。反省」


「新発見?」


 こくりと頷いたコルテは、隣で介抱していたマテスさんのそれをぽよんぽよんと下から持ち上げ、瞳に真剣な光を宿して言う。


「おっぱいは水に浮く」


「「「「「…」」」」」


 うん。ちょっと時が止まったね。


 しかつめらしい顔でマテスさんの持ちものを弄ぶコルテ。

 それなりに心配してやったのに大損した気分だ。


「こらコルテ、人の胸で遊ぶな」


 マテスさん冷静だなー。たわわに揺れるそれに、周りの男性騎士の視線が釘付けなんだけど。


「マテスのもエメリカのもぷかぷか浮いてた。しかし…」


 にゅいんとコルテの人差し指が一点を示す。


「別格」


「「「「「…」」」」」


 俺の差し上げた塩果汁蜂蜜水を、美味そうに身体を反らしつつぐびぐびと飲み干すその人。


 普段は革鎧と金属製の胸当てで隠されたそれが開放されている。

 湯上がりの薄着を盛り上げているそれは、師匠には及ばないが確かに素晴らしい逸品だ。


 ね。ベレッタさん。


「え。あの、何故皆私を見ているのです?」


「あ、いえ、なんでも」


「?そうですか」


 うん。知らない方がいいこともあるから。


「あれを目指す」


 高望みはどうかと思うぞコルテさんや。とか考えてたらぽこぽこ殴られた。なぜばれた。





 さて。


 場所を移し、これも俺渾身の作。対面式の台所付きの食堂である。


「んほっむううう!やはりこの冷やしエールは素晴らしい!もう一杯!」


 はいはい。飲み過ぎないようにね。


「こいつもいい。下味をつけて焼いて食べてを繰り返す。単純だが実に美味い」


 俺と相棒に三人娘のいつもの面々にスミスさんを迎えての晩餐。

 といっても熱した鉄板で塩と果汁と香草で味付けした《森兎》の肉と茸を自分達で勝手に焼いて食べてもらうだけなんだが。


「アディ殿。リウト殿」


 酒も入ってわいのわいのとやってたら、俺の背後にぬるりとレベッカさんとホイットさん登場。


「お。二人もどう?」


「「…」」


 え。なんでそんな疲れはてた顔してんの、ご両人。


「お願いがあるのですが」


「は?」


「そのお料理を少し分けて頂けないかと」


「へえ?そんな風にわざわざ頼まなくても、座って勝手に食っていいのに」


「いえ。そうではなく」


 んー、なんか歯切れ悪いな。


(リウト殿、あちらをご覧下さい)


 俺だけに聞こえるような小声でレベッカさんが告げ、ホイットさんが目をわずかに動かして方向を示す。


「…」


 そこには食堂の入口の陰で、じっとこちらを見ているソアル王女。


 うわ。ちょっと怖え。


 だが全て察した。


「アディ、肉と茸追加で焼いてくれ」


「自分でやれよ」


「手が足りねえから頼んでんだよ」


「わかったわかった」


(申し訳ありませんリウト殿)


(先日お二人の料理を頂いたことをうっかり殿下に)


(ですが御立場故、私共のように気軽にご一緒に、というわけにもいかず)


(臣下のいらぬ妬みをかうからと、お茶の誘いも自重して頂いています。それもあり、なにやら殿下が拗ねてしまわれまして)


 あちゃあ。


 相棒が絡むと途端におかしくなるよな、あの王女は。


(定期的に届けた方がよさそうだなー)


(そうして頂けると)


(助かります)


(どうにか考える。取り次ぎはホイットさんの方で?) 


(お願い致します)


(了解)


 焼きたてほやほやの肉と茸の皿を持ってとぼとぼ出ていく二人と、ぱあっと顔を輝かせて待ってる王女の対比が酷い。それでいいのか王国第二王女。


「ただでさえ別の厄介ごとを抱えているというのに、レベッカもホイットも気苦労が増すばかりだな」


 気付いてたか、スミスさん。


「なんの話だ?」


「気にすんなアディ。さ、食おう食おう」


「儂はもう一杯冷やしエールだ」


 焼けた肉の奪い合いに興じる三人娘に和みつつ、俺は寂しく端に残ってた茸を口に放り込んだ。

 焦っても事態は簡単に進まない。


 なら、やれることをやればいい。


 次回「続!三人娘改造計画①」


 まだまだいけるって。


※公開日未定


※予定変更申し訳ありません

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