王女の天幕にて
偉い人と難しい話するの、実はあんまり好きじゃないんだよなー。
が、そうも言ってられない現状。
やれやれ、だ。
俺と相棒で盗賊共をぶちのめし、拐われた商人さんの奥さんを救出した。
で、デリンさんが馬に乗せて送り、商人さんと奥さんは涙の再会を果たしてめでたしめでたし。
奪われた荷物も盗賊の隠れ家にまだあるだろうから、本来なら商人さんの手に戻る。
が。
ちいとばかりその“荷物”絡みで問題があって、すんなりと返すわけにはいかなくなっちまったんだな。
今後の展開次第だが、ことによると商人さんにも協力してもらわにゃならんかもしれん。
俺が見つけて相棒に託した、例の羊皮紙の束。
新たな被害を出さないためにも、あれを見逃すことはしたくない。
「じゃ、申し訳ないけど、後のことはお願い」
「「「「「「は!」」」」」」
スミスさんが回してくれた騎士さん達に盗賊共と隠れ家の警戒を引き継ぎ、俺も一度戻ることになった。
ちなみに彼らが来るまで暇だったんで、ダスト含めて中に放っておいた連中とか外に転がってた連中も全員落とし穴に放り込み、よじ登ろうとする奴を片っぱしから叩き落として遊んでた。
到着した時にとてもいい笑顔で遊ぶ俺になにを感じたのか、騎士さん達がとっても素直で協力的だったのはご愛嬌。今も、ずぴしと揃った見事な敬礼で俺を見送ってくれている。
で。
「お待ちしておりました、リウト様」
戻ってみると本格的に野営の支度がされてて、俺の姿を発見した騎士さんに王女の天幕までお越し頂きたいと頼まれた。
「その深刻な表情から察するに、もう読んだってことでいいですかね?」
「ええ。由々しき事態です」
そりゃあな。
王女の天幕の中には、ソアル王女、スミスさん、ベレッタさん、相棒、王女付きの侍女さん?がいて、侍女さん?以外はみんながみんな眉根を寄せて渋い顔で黙りこんでいる。
ぬう。空気が重い。
侍女さん?が淹れてくれたお茶で喉を潤し、誰も話そうとしないんで俺から口火を切ることにした。
「ところで、これからの話はなかなかに扱いの難しいもんだと思うんだが、ここから出ていかせないということは、そこの侍女モドキさんには正体明かしてもらうってことでいいのかな?」
お。刹那の間だが身体が強張ったね?
王女、スミスさん、ベレッタさんは揃って“あ!?”って顔してる。ははは。油断してるねえ。
相棒、今頃んなって、“そういえば”みたいな顔してんじゃねえよ。
ちらり、と侍女さん?が王女を見る。王女がすぐに頷く。
「いつからお気付きで?」
落ち着いたいい声だな。
「気配だけなら殿下と会った時からずっと。姿拝んで確信したのは今かな」
「後学のためにお聞かせ下さい。なにを切っ掛けとして?」
「主に上等な木綿で縫製されてるように見えるその侍女のお仕着せから発するには似つかわしくない、僅かだけど革の擦れる音。革の下着の可能性もなきにしもあらずだけど、汗を掻きやすい旅向きじゃないし、多分収納用の革帯かなと。両太股んところにナイフだか短剣だか隠してんでしょ?外見巧みに誤魔化してあるけど、スカートの脇、動く度に少し不自然な皺が寄るよね。そこに得物を取り出しやすいように細工してあるからだ」
「「「「「…」」」」」
「それに、流用出来るようでやっぱり違うんだよね。貴族の側仕えになるために学ぶ所作と、武術のために学ぶ所作はさ」
侍女さん?が楽しそうににやりと微笑む。
実はその辺りを最初に気付いて訝しく思ったのはジェイダさんなんだけどなー。この侍女さん?からも同じ匂いがするんだよね。
「最後に。もしも殿下がこの件に対して行動を起こすのであれば、あなたみたいな分野の働き手は絶対に不可欠だ」
「…」
「内容の一端を知ってしまった以上、この件、俺とアディは拒まれないなら当然手を貸すつもりでいる。同じ目的で協力出来るなら、最初からそれと知って話を進めた方がやり易い。配下も含めた全ての人員の情報までは必要ないが、指示を出せる人間とは話が通じてるといろいろ助かる」
ほう、と。侍女さん?がため息をついた。
「お見事です、リウト様。私の名はホイット。お察しの通り、殿下を影からお護りし、諜報も務める隊の長です」
「よろしく、ホイット隊長。知ってるだろうけど、自由騎士リウトだ。《神託の渡り人》なんてのも兼任してるけどねー」
「普通はそちらの方が重要では?」
「あなたと同じだ。いざって時にしか正体は明かさない」
「ふふ。なるほど」
侍女さん?あらためホイットさんとの紹介も終えたところで。
「殿下、俺とアディはこの件に首突っ込ませてもらっても構わないのかな?」
「ええ。リウト様が戻られる前に皆と相談致しまして。アディ様からも是非にとお申し出が」
ははん?皆はおまけだな?そうだろ?
相棒除いた三人の顔がすんげえ微妙な感じだし。いいけどさ、別に。
さて。
なら、これでようやく本題に入れるな。
「此度お二人からもたらされたこの情報は、まさに青天の霹靂ともいうべきもの。政に微力ながら関わる者として、看過することなど到底出来ぬことです」
一旦言葉を切って、みんなを見回す。
うん。腹を括ったいい目をしてる。やる気だな、ソアル王女。
「どうかこの場では皆の忌憚なき意見を。遠慮など無用に。よき解決法を導き出さねばなりません。アディ様、リウト様、お願い致します」
「若輩者ではありますが、この能力の及ぶ限り」
「同じく、だな」
やってやろうじゃないか。
「スミス、ベレッタ、ホイットも、よいですね?」
「「「は!殿下のお心のままに!」」」
おおう。三人息ぴったり。
重かった空気がそれぞれの気炎で吹き飛んだか。
ふむ。
「ま、なんにしても、まず情報集めからだな」
「左様にございますね。手始めに盗賊共を締め上げて、吐けるだけ吐かせてしまいましょう」
俺の言葉にホイットさんが追随する。
ちょっぴり過激なのは仕様なのかね?裏側の人だけに。
「この書類から読み取れる情報も多くあります」
王女がぴらりと羊皮紙を掲げて言う。
「内容しかり、羊皮紙その物しかり。詰めが甘いというか、間抜けというか。辺境だからって気を抜いてくれてるなら、この先も楽が出来そうだが」
「どういうことだ?リウト」
「ん?例えばこの羊皮紙さ、この等級のだと、使える立場の人間が限られてくる。最高級品だから」
「へえ。よく知ってるな」
《至雄院》時代に、なんについても講釈したがる奴なんていくらでもいただろ。その辺りから仕入れた知識も、こうして役に立つもんさ。
「だから、殿下に話を通すためにお前にスミス隊長まで届けるよう頼んだんだよ」
「そうなのか?」
「殿下の旅のお供の最中にこいつを見つけたのは僥倖と言い切ってもいいぞ。俺達だけじゃ、下手すりゃ解決不可能な相手かもしれねえんだから」
相棒にもようやく本格的に事態が飲み込めてきたか。顔がさらに引き締まったな。
「相手は貴族である可能性があるのか」
そういうこと。
「故に、慎重にことを運ばねばならん。もしそうであるなら、間違いましたではすまされんからな」
スミスさんも険しい顔だ。
「であれば、時を要します。このまま旅の道程を進めるわけにもいきますまい」
ベレッタさんの懸念はもっともな話。目立ちすぎるからな、この御一行は。
「その点なら解決策がある。どのみち作戦を練るにしたって、行動するにしたって、拠点が必要になるんだからな」
「ほむう。して?」
「盗賊の隠れ家さ。あれ、使わせてもらっちゃおう。人が近寄らない場所にあるし、収容力もある。少し手を入れれば十分いけると思う。街からは少しだけ遠いが、当座の拠点としてはもってこいじゃないか?」
俺の提案に他の五人が賛意をしめしてくれた。
「殿下にふさわしい場所かってーとちょっとアレだけどね?」
「そのようなこと、一向に構いません」
「なんの、ふさわしくしてしまえばよいのです」
「スミス、ベレッタ。至急皆をまとめ、移動の支度を。我らの姿を隠すとしましょう」
「「は!」」
スミスさんとベレッタさんが王女に一礼して飛び出していく。
「ホイット。私達も支度を」
「承知いたしました」
っと、俺達も呆けてるわけにゃいかないな。
「行くぞアディ。三人娘にも伝えにゃならんし、ひと足先に行っていろいろ片付けねえとな」
「ああ、落とし穴とかそのままか?」
「そ。それに盗賊共のあのなりを殿下に見せるわけにゃいかんだろ?」
「う。それもそうだな。では殿下、御前失礼致します」
「よしなに、アディ様。リウト様も」
「なるべく綺麗にしときますから」
軽口たたきつつ、王女に一礼、ホイットさんにも会釈して二人で外に出る。
「しかし、旅を再開して早々にこれか」
「旅のいく先に暗雲立ち込める、てか?」
「よせよ、縁起でもない」
は。なに言ってんだ相棒。
「暗雲立ち込めても、俺達ですぱっとすかっと晴らしゃいいんだよ。今までずっとそうしてきたじゃねーか。だろ?アディ」
「…うん。そうか。そうだな!」
さて、どうなりますやら。
動き出してはみたものの、そりゃまあなにもかも順調とはいかないわけで。
足元固めるというかなんというか。
次回「隠れ家の大改装①」
快適な暮らしは大事だからな。
※2016年5月21日公開予定




