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勇者様のお連れさん達

 はーれむねえ?


 めんどくさいだけじゃないのか?あーいうの。


 一人すらもて余しそうな俺にゃ、無理無理。

「アディ!?アディなのかい!?」


「久しぶりだね、ドリーおばさん」


「アディ!帰ってきたのか!」


「相変わらず遅くまで飲んでるんだね、身体壊すよ?ノコおじさん」


 村に一軒だけの小さな宿屋兼酒場。

 夜更けの村のほとんどが寝静まっている中で、ここだけが明かりを灯している。

 どうも、そろそろ店じまいの時間だったのか、酒場にはあまり人がいない感じだった。

 そんな時に入ってきた俺達にみんな怪訝な顔をしていたが、相棒に目を止めた途端、村人っぽい人達は全員立ち上がって駆け寄ってきて、取り囲まれた相棒は今、揉みくちゃにされてしまっている。


「アディ、クロエに、その、会っちまったのかい?」


「…うん」


「ああ、そうだよなあ。村に帰ってきて、お前がクロエに会わない筈がないもんな」


「ちくしょう!アディがこんなに立派になって帰って来たってのによう!」


「アディは約束を果たしたんだ!なのに!なのにクロエのヤツは!」


「あの馬鹿娘!ほんっとにどうしてあんな男に!」


 ひとしきり挨拶を交わしてしまえば、やっぱり、話題はその事に及んじまうんだな。

 小さな村だ。村人全員が家族みたいなもんだと聞いていたし、相棒とクロエさんの関係も、みんなであたたかく見守ってくれていたらしい。

 相棒を囲む村の人誰もが、悔しそうに、残念そうに、勇者様とクロエさんを詰っていた。そんなみんなを、相棒が宥めまくってる。自分が一番辛いだろうに。


 さて。


 酒場の隅っこで、その光景をなんだか申し訳なさそーに見てる一行がいたりする。娘三人連れで、旅の傭兵って風情だ。


「よ」


「あ、ども」


 彼女らのテーブルに近寄り、気さくに声を掛けてみた。

 引き締まった身体の戦士っぽい茶髪の娘さんが、ぺこりと頭を下げてくれて、後の二人は無言で目礼。


「ひょっとして勇者様…あー、リボックって名前だったかな?その、関係者さん?」


「ああ」


 真面目そうな、銀髪で筋肉質の娘。鎧下姿だから、楯役なのかな?


「今まで、一緒に旅をしてきた。貴殿は、あの御仁の?」


「ああ、友達だ」


「忠告、何度もした。聞かなかった。ごめん」


 だぼだぼのローブのフードから僅かに覗く半眼に、物憂げな光を宿している小柄な娘。あからさまに魔法使いっぽい。


「ええ?君が謝ることじゃないだろ?」


「止められなかった。村の人達とか、悲しませた」


 どんよりしだしたローブ娘の頭を撫で回す。「あう」とか「やめ」とか言ってるが、構わずぐりなでぐりなで。


 しかし、趣はそれぞれ異なるけど、どの娘もやたらと可愛いな。なんだあの野郎、いわゆるはーれむ的なあれでそれでこれなのか?誠にけしからん!けしからんですな!


「ところで、この辺りはさ、十年前に起きた魔物の大氾濫が収まった後はずっと、平和で、のどかなところだと聞いてる。なんでまた、この村に?」


 ま、要は、リボック君とクロエさんがどうしてここまでの関係になったのかが聞いてみたかったんだけど。


「ああ、二年ほど前か。炎竜が、山脈のどこかに巣を作ったようでな」


 あー、その話なら道中何度か聞いたな。


「山や、森の、魔物の縄張り争いに当然影響が出てまして」


 なるほど。炎竜が住み着いた辺りから逃げ出した魔物達、そいつらそれぞれの勢力圏が落ち着くまでは、相当騒がしくなるだろう。弾き出されたヤツが、人里近くまで現れることも増えちまう、と。


「魔物の間引き、哨戒、護衛。仕事山盛」


 だな。傭兵稼業の連中への依頼がわんさか。で、勇者様御一行もそれに加わってたと。


「ははあ。それで、か」


 ちらりと相棒に視線を送る。それに気付いた鎧下娘さんが、ため息混じりに答えてくれた。


「依頼遂行中に立ち寄らせて頂いたこの村で、リボック殿が、その、クロエ嬢を、見初めてしまってな」


 あちゃあ。


「最初は彼女も断ってたんですよ?私達も、お相手がいる女性にまで手を出すのはって、彼を止めたんです。けど」


 あーあーあー。余計に燃え上がっちまったと。


「その内仕事もそっちのけ。何度も通って略奪愛。傍迷惑」


 ほんとにな。


 しかしアレだ。三人とも、なんつーか、瞳には紛れもない嫉妬の炎がめらめらと。

 やっぱはーれむ的なそれであれでこれなんだろうなあ。誠にけしからん!けしからんですな!


「君らも《女神に選ばれし勇者》に口説かれちまった口か?ああ、答えたくなきゃ別にいいけど。下衆の勘繰りだし」


「「「…」」」


 無言の肯定、かな?三人ともばしゃばしゃ目が泳いでんぞー。


「…なに?」


 魔法使いの娘なんかまだこんなに小さいのに。あの変態野郎め。


「なにやら不当な評価の気配。私はこれでも十七になる」


 嘘!?

 とか思ってたら、杖でぽこぽこ殴られちまった。顔に出てたんだろうね。地味に痛いんでそろそろ止めてくれ。


「自分だけだと思っていたのだがな。一人増え、二人増え、だ」


「僕は皆を平等に愛してるんだ、とか」


「この先、きっともっと増える」


 おや?なんか愚痴りだしましたぞ。


「『僕の背中を預けられるのは君だけだ』などと!」


 おう。楯役娘さんがテーブルに拳を叩きつけ。


「『君の見事な槍さばきが、僕の心まで貫いてしまった』って言ってくれたのに!」


 戦士娘さんもテーブルをばしばし。あ、得物は槍なんだね。


「『その芸術的な魔法の炎、まるで君に恋焦がれた僕のようだ』なんて、なんて」


 魔法使い娘が杖でぽこぽこ俺を殴る。何故!?


 しかし、なんとも見事に自分中心の口説き文句だな、勇者様よ。三人娘も気が付いてんのかいないのか。

 そこからしばらくの間、過去の勇者様の甘ったるいでろでろな愛の言葉発表会みたいになっちまった。なんだこの拷問。


 で。


「「「…」」」


 吐けるだけ吐き出した後は、三人ともがっくりうなだれてどんよりしてる。


「…」


 しかし。


 なんだかな。単に色恋沙汰の嫉妬にしては、妙に深刻な面付きだなんだよな、三人とも。


「悩んでるのはそのことだけか?」


 ぽろっと聞いてみたら、はっと顔を上げた鎧下娘さんに睨まれちまった。


「貴殿、何が言いたい」


 他の二人も、じっと俺を見てる。


「別に?ただなんとなくさ。それに、俺がどうこうする話じゃないし。ま、後悔しないようにな、いろいろと」


 その言葉を潮に、テーブルを離れる。


 実は、ちょっと前からきな臭い気配がしてんだよね。


「相棒!魔力探査!範囲最大でな!」


 村人さん達の愚痴に付き合ってた相棒に叫び、外に飛び出す。

 すぐに相棒も追ってくる。


「リウト!これは!」


「ああ、団体さんらしい。今話してた村の皆さんにお願いして、寝てる人達を叩き起こしてもらえ!村から一時的に避難できるように仕度させるんだ!」


「すぐに話を通す!」


 宿屋の中に駆け戻る相棒と入れ替わりに、三人娘が飛び出してきた。


「何事だ!」


「詳細はまだわからない。魔物の集団が襲撃してくる可能性がある」


 息を飲む三人。


「あんたらも手伝ってくれ」


「「「…」」」


 あ?なんだ?途端にうじうじしだしたぞ、この娘共。


「わ、私達はその、リボックさんがいないと…」


 はあ?


「リボックがいないと、駄目」


 よくわからんが、一緒に行く気はないらしい。

 勇者様がいないと駄目って、なんなんだそりゃ。


「「「…」」」 


 あ。ひょっとして。


「ならいいさ。悪かったな、無理言って」


「急げ!みんなに報せるんだ!」


 宿屋から村の人達が慌てて出てきて、それぞれ散っていく。相棒の話を聞いて動いてくれたんだろう。


「…女神の加護の恩恵は凄まじいものがあるが、このままでは」


「です、よね。やっぱり」


「そう思う」


 あちこちに駆けていく村の人達を見ながら、三人娘が暗く呟くのが聞こえてしまった。


 おそらく、勇者様の女神が与えた加護の中には、一緒にいる周りの人間にも効果を及ぼすものがあるんだろう。その力がなければ彼女らは…ということらしいな。


「待たせた!」


「よし、行くぞ!」


 相棒が戻ってきた。二人で愛馬の元に駆け出す。

 ちらりと三人を見ると、哀しそうにじっとこちらを見ていた。


 ま、今は構ってやれそうもない。

 まずは目の前の厄介ごとをきっちりすっきり片付けてからだ。

 次から次へと…。


 厄介ごとがひっきりなし。しかも王女様とか。


 おかしいな、田舎でのんびりするはずだったってのに。


 次回「結構やさぐれてた」


※2016年5月3日公開予定

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