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盗賊団対自由騎士②

 賊の隠れ家なんてのはやっぱりどこも似たり寄ったりになるもんなのかね?


 なにが耐えられないって、あのいろいろ混ざった臭いがさ。

 

 元は廃坑になった鉱山跡地。実にありがちな話だが、目の前のそれが連中のねぐららしい。


 襲われた現場で人や馬の足跡等から大雑把な逃走方向を割り出し、痕跡探しと魔力探査を併用して後を追う。で、ここを突きとめるに至ったというわけだ。なかなかの早さではなかろうか。


「馬の数、人の出入り、察するにかなりの人数でっす。やはり応援を」


 訛りに愛嬌のある連絡要員デリンさんがおたおたしてる。まあまあ落ち着きたまえ。


 確かに盗賊団の規模は思ったよりも大きいみたいだ。魔力探査の結果では七十人強といったところか。


「言い出しっぺなんだから、お前陽動担当な?精々暴れてくれ」


「さすがに数減らしは手伝ってくれるんだろ?」


「そこそこにはな。商人さんの奥さんになんかあってからじゃ遅えし」


「ああ、そうだな」


「え?え?え?まさか、お二人だけでやる気なんでっすかあ!?」


「デリンさん声抑えて」


「っ!?も、申し訳ないでっす」


 まあ無謀だと思われても仕方ない戦力差ではあるよな。


「平原での戦じゃないんでね。一度に大勢相手しなきゃいいってことで。あとは、精神力と体力の勝負かな?」


「ででででも」


「少人数による不正規戦は、俺達の師匠の得意技でね。弟子の俺達もみっちりきっちり叩き込まれてんの。心配するのはわかるけど、応援呼ぶのはしばらく待ってみてよ」


「手伝えなんて言いませんから。あなたはお役目を果たすためにしっかりと様子を見てて下さればいいんですよ」


「ううう。はいでっす」


 さて、と。


「始めるぞ?」


「侵入経路は?」


「あそこのうっすら煙出てる空気穴。幅も十分。そいつがつながってる部屋はかなりの大きさの個室っぽい。なのに、魔力残滓の反応はそこそこ強そうなのがひとつ、常人程度のがひとつ。たったの二人分だ」


「む。そいつは当たりくさい。しかし、そこまで把握してるのは時空魔法と魔力探査の併用か?あいかわらず器用だな」


「え?時空魔法使いなのに自由騎士やってるんでっすかあ?《宝物庫》ひとつあれば一生食いっぱぐれずに済むのに?」


 そうなんだよなー。


 素晴らしい可能性を秘めた魔法系統なのに、せっかく適性があっても《宝物庫》修得しただけで満足しちゃう奴ばかりなんだ。それで十分稼げるからって。

 心底不思議でたまらん。文字通り時と空間に干渉する魔法だから、修得すんげえ難しいけど、面白いことたくさん出来るのに。


 例えば。


「ぶおわ!?な、なんだなんだあ!?」


 見張りの立ってる鉱山の出入口に大量の土砂が降り注ぐ。俺の仕業だ。

 半分ほど塞いでやったところで止める。


「アディ、出入り口中心にして半径十歩、そこから幅五歩。半円状に落とし穴な。間違って落ちんなよ?」


「了解」


「え?え?え?落とし穴あ?アレもリウト殿がやったんでっすかあ?」


「まあね。じゃ、あとよろしく~」


 さっさと移動開始。急斜面の山肌に取り付いてよじ登りつつ、目的の空気穴を目指す。


 よし。では次。


 時空魔法《気装》で自分を覆う。煙や熱や汚れを防ぐ優れものだが、呼吸の関係であんまり保たないんで一気にいかねえとな。


「…」


 空気穴をずるずる這いずって奥に進むと、下卑た男の声と女性の悲鳴。


「どうしたあ?動きがとろくなったなあ?ほおれえ、捕まえちまうぞお?」


「い、嫌、嫌あ」


 魔力探査で動きは掴んでたが、どうやら部屋の中で件の女性を嗜虐的に追い回して楽しんでいるらしい。ど変態が。

 ま、おかげで時間が稼げたってことだから、ありがたくもあるが。


「ひゃははははひごぶへう!?」


 部屋の中に飛び降りざま、ど変態野郎の脳天に蹴りをお見舞いしてやる。


「どうも~助けに来ま…!?」


 うおう!?奥さんほとんど裸じゃねーか。ちょっと見ちまった。旦那さん許してくれ。


「てめえ、どこのもんだ?このダスト様を足蹴にした礼は高くつくぜえ?」


 お。意外と頑丈。

 ダストか、いい名だ。元の世界的に。


「うげ」


 最悪だな。のそりと起き上がったダストさん全裸じゃねーか。


「がはあ!?」


 なので、速攻で片つけて視界から外したい。

 懐に入り込み拳で鳩尾を抉ってやる。


「ぐっ、俺達に手を出すと、面倒なことんごふう!?」


 ん?なんか言ってたな。

 うずくまったダストの延髄に回転蹴りをぶちこんで気脈を一時的に絶ち、失神させる。

 間抜けな格好のまま用意の荒縄で後ろ手に手首を、交差させて足首を縛り上げる。汚え野郎の裸見て気分が急降下だ。


「あ、あの。あなた様は?」


 っといけね。


 《宝物庫》から予備の毛布を取り出し、奥さんを見ないように差し出す。


「刺激的すぎるんでとりあえずこれを」


「あ!?すすすすいません」


 いやいやいや、一瞬でしたが眼福でした。よいものをお持ちで。


「…」


 衣擦れの音がしなくなってからもう一度声を掛ける。


「いいですか?」


「は、はい。どうぞ」


「ではあらためて。助けに来ました。旦那さんからの依頼でね」


「!?あの、主人は無事で!?」


「ええ、大丈夫です。とても心配してましたから、早く帰って安心させてあげましょう」


「うう、ありがとうございます。ありがとうございます」


 ぺこぺこ頭を下げる奥さんを宥めながら部屋をそれとなく確認する。


「…」


 ふむ。


 テーブルの上に散らばっている数枚の羊皮紙が目に留まる。部屋の他のものに比べて、妙に浮いた存在感を放っていたからだ。


「…」


 おいおいおい、コイツは。


「そういうことか」


 さっきのダストの言葉。


「あの、どうかなさいましたか?」


「いや、別に。さあ、まだ油断は禁物ですよ?外に向かいますが、残ってる賊を始末しながら進むことになるかと思います。指示に従って、勝手なことは絶対しない。いいですね?」


「は、はい」


「じゃ、行きましょうか」


 ダストの部屋から通路を確認すると、二人の部下がこちらに向かって走って来るところだった。相棒が外でおっ始めたのを報せに来たんだろう。


「親分!おやぶへえ!?」


「な!?おま、どっほう!?」


 はいはいちょっと寝ててねー。


 二人とも適当にあしらってダストと同じ様にして部屋に転がしておく。


「さ、後ついてきて」


「お、お強いのですね。あっという間に三人も」


 ほめてくれてるその声になんだか呆れたような色が含まれてるのはなぜだろう。


 その後も、ちっともやって来ないダストと呼びにいったはずの連中を確かめに来る奴らをほいほいと捌きつつ、出入り口に到達。


「な、なんなんだアイツは!?めちゃくちゃ強えぞ!?」


「もう何人やられた!?」


 挑んでくる賊に対して大暴れしてるだろう相棒の様子を、狭くなった出入り口の隙間から窺いつつ、次は誰が逝くのかで揉めてる残りの連中。


 面倒なので火風混合魔法《爆風》で土砂ごとまとめて吹き飛ばす。


「よおアディ。お疲れさん」


「ぺぺっ。こら、土が口の中に入ったじゃないか。合図くらいしろよ」


「不意打ち食らわした方が楽だろ」


 俺が時空魔法《転移》で作った落とし穴を覗くと死屍累々。

 引っ掛かって落ちた奴に、後からアディに叩き落とされた奴。俺がさっき吹き飛ばした奴も混ざってるな。


「さて、ちょっとご免なさいね」


「え?あ!?」


 俺の後ろで呆けてる奥さんを抱っこ。


「ああああの?」


「そこの落とし穴飛び越えるまでの我慢ですから。旦那さんには内緒でお願いしますね?」


「っ!?」


 言うが早いかさっと飛び越える。

 なんかきゅうっと抱きつかれてしまった。うむ。やはりよいものをお持ちですな。


「デリンさん、この方お願いね」


「はいでっす!しかしほんとに二人でやっちゃったんでっすねえ。半端じゃねえでっす」


 奥さんをデリンさんに任せ、相棒にはさっきの羊皮紙の束を突き出す。


「なんだ?」


「読んでみろ。さっき盗賊の首領の部屋で見つけたもんだ。お前、それをスミス隊長に届けてくれ。ここは俺が見張っとくから」


 軽く流し読みしてる相棒の顔がどんどん硬くなっていく。


「…っ!?リウト、こいつは!?」


「ああ。厄介なことになりそうだ」

 どうにも話がでかくなりそうな気配だなあ。


 政に関わる人にとっちゃよくある頭痛の種。


 次回「王女の天幕にて」


 どうする?ソアル・モド・フアソン。


2016年5月20日公開予定

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