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発動!三人娘改造計画⑤

 時と場所を選ばないと厄介ごとを増やすはめになる。


 大事なことだ。


 大事な教訓だ。

 御一行の出発が明日と決まった。


 騎士隊のみんなとかは準備に大わらわだが、俺達には別に関係無いわけで。


「俺の師匠の受け売りなんだが、達人の動きを目にすることによって頭の中にその印象が刻みつけられて、記憶に残ったその動きと自分の動きを重ね合わせるように努めることで、技を高めてくって方法があるんだ」


「むう。なるほど」


「ほえー」


「…」


「三人とも女神の加護の影響下にあった時は、いい動きが出来てたんだよな?」


「そうですね。かなりのものかと」


「あの槍を平気で振り回してましたし」


「魔法ばんばん放ってた」


 やっぱすげえな、勇者様の加護の力。


「実際に自分の身体を使って動いてたわけだし、その経験が頭の片隅に必ず残ってると思う。少し形は違うけど、さっき伝えた方法が使えるはずだ。鍛練の時に意識してみるといい。全部が全部活かせるわけじゃないだろうけど、ま、参考までにな」


「ご教授かたじけない。今はまだ時期尚早ですが、いずれ試してみます」


「が、頑張ります」


「越える。その時の私を」


 俺と相棒に三人娘は、またしても村の外れで自己鍛練に勤しんでるというわけだ。


 それを。


「アディ様は本当に見識が広くていらして、お話ししてると楽しいです」


「いやあ、殿下には遠く及びません」


「まあ、そんな。ふふ」


「はは」


 なんでか知らんが、ソアル王女と近衛騎士隊の皆様が見学に来ていた。

 そういう名目というだけのことで、お茶に付き合わされてる相棒を見れば、目的なんざいわずもがなだけどな。

 ま、相棒とベレッタさんには悪いが放っとくことにする。


 さて、と。


「あとな、これはアディとも意見が一致したんだが、三人とも骨が歪んでる」


「骨?ですか」


「ああ。こいつは仕方のない面もあるんだが、普段の姿勢や、日々の行動、そういったものの積み重ねで骨が歪んじまうことがあるんだよ。エメリカさんの鍛え方が偏っちまった原因のひとつでもある。三人の中じゃ一番ひどいからな」


「ほえー。そうだったんですねえ」


 ここで、ぴこりとコルテが手を挙げた。


「はい、コルテ君」


「今、わざわざその話を持ち出したということは、改善することが可能だと?」


 お。


「正解。師匠直伝の方法で治せるんだ、これが」


「はい!はいはいはい!私治して欲しいです!ぜひお願いします!」


 元気に伸び上がって手を挙げるエメリカさん。いい覚悟だ、ふはははは。


「そか、んじゃ」


 持ってきてた布を敷く。


「ここに横になって。うつ伏せで」


「はい」


「あ、ブーツとか、かさ張る上着とかは脱いどいてね?」


「わかりました」


 思い出すなー。師匠の高笑いと共に。


「まず首筋から」


 歪みを確認し、少し姿勢を整えてと。そして一気に、捻る!


「のほお!?」


 ごぎん!とすげえ音がした。


「どうよ?」


「い、いだいですう」


「そかそか。じゃ次ね」


「え!?も」


「終わるまで逃がすとでも?」


「ひいいい!?」


「肩回り」


「うぼおおお!?」


 おおう。これまたばぎごぎすげえ音。


「次、背骨」


「がひ!?いぎええええ!?」


 こりゃ酷い。徹底的にやらねば。


「腰回りに股関節、と」


「あぎい!?だず!?だはあああああ!?」


 女の子としてどうなのか、という絶叫しまくりのエメリカさん。俺がぎっちりがっつり抑え込んでるんで、のたうつことすら出来ない。


「あうう」


「《角鬼》だ。《角鬼》がいる」


 ははは。後ずさってどこに行こうというのかね、マテス君、コルテ君。逃げられなどしないというのに。


「最後に足も、と」


「おぐううう!?」


「ちょっと身体も固いみたいだから、ついでにそっちもやっちまおう」


「も、もおがんべんじで」


「はーい、足を大きくひらいてー」


「ぎにゃばああああああああああ!?」


 その後も強制股割りとか強制前屈とか。折ったり伸ばしたりしながらエメリカさんの身体を整えていく。ふはははは。


 で、〆に血と気の流れを整えるため、ゆったり優しく按摩を施してやる。


「ううううう」

 

 む。ちと調子に乗りすぎたか。しくしく泣いてるエメリカさんにちょっぴり罪悪感。


「あー、いきなりですまんかった。でも、もう痛くないだろ?」


「ふあい。死ぬかと思いましたけど」


「はっはっは。柔軟の方はともかく、骨は一気にやらないと意味がないらしくてさ。実は、俺もアディも昔、師匠に無理矢理何度もやられたんだよ」


「な、何度も?」


「ああ。こういうのは癖がついちまってるんだと。だから、それを直すにゃ時間がかかるんだ、ってな」


「あ、あのあの。まさか」


「そうだな。当然エメリカさん達もやらなきゃ駄目だ」


「ううー。やっぱりですかあ」


 あらま。目に見えてしょんぼりされてしまった。


「ま、効果を実感できればありがたみがわかるさ。普段の生活で気を付けなきゃならんことも後で教えるよ」


「はあ。あ、でも、今やってくれてるこれは気持ちいいですね」


「だろ?」


「はい。はああああ、とろけちゃいそうですうううう」


 ふにゃほにゃした顔でぐでりと弛緩するエメリカさん。


「よし、と、終わり。立って少し身体を動かしてみて。おかしなところや痛みが残ったりしてないか確認しながらね」


「はい。あ、あれ?」


 立ち上がったエメリカさんがきょとんとしてる。


「どうだ?」


「なんて言えばいいのか、その、いろいろすっきりしてて、なんか、自然な感じです」


 ふむ。なら、成功かな。


「うわ。うわわ。すごい!とっても滑らかに身体が動きます!あはははは!」


 腕やら足やらをぶんぶん動かしながらご満悦の様子。


「さて。他の二人にもやってやらにゃならんが、あんなとこまで逃げてたか」


 王女一行のとこまで行ってやがる。おおかた相棒にでも泣きついてんだろ。王女に不敬とか働いてないといいが。


「うふふふふふふ。こんな素晴らしいものは二人にも体験してもらわないと。ええもうぜひとも」


 悪い顔してんなあ、エメリカさん。


「じゃ、いきますか」


「はい」


 ほてほて歩いて近付いていくと、マテスさんとコルテはかたかたぷるぷる震えだした。


「次はどっちがやる?」


 全力でぶんぶん首を振る二人。


「身体の調子すっごいよくなりますよお?やった方がいいですよおお?おすすめなんですよおおお?」


 や、エメリカさん?

 ぬたりとすんげえ怖いその笑顔で言っても。

 ほら、二人の首の振りがさらに激しくなってるし。


「…」


 ふむ。


 こいつはあまり使いたくない手だが、致し方あるまい。


「コルテ君」


「な、なに?」


「君にはひとつ、身体のことで懸念事項があったよね?」


「…」


 コルテが両手でぺたぺたと自分の胸を触りだす。なんてわかり易いヤツだ。


「背の成長は間に合わないかもしれないが、そこはある程度の年齢であっても成長の余地があるのだ!」


「「「「「!?」」」」」


 反応は劇的だった。何故か複数の反応だけど。


「この整体法を伝授してくれたうちの師匠は女性なんだがな?そりゃもう素晴らしい逸品の持ち主なんだ。なあアディ?」


「なんでそこで俺に振るんだよ!だがまあ、確かに師匠のは…っ!?」


「…」


 王女の冷ややかな視線が飛んで、相棒の台詞は強制終了。ちょっと面白い。


「それだけじゃないぞお?常日頃の鍛練にこの整体法を加えることによって血脈気脈の流れを正し、しっかりがっつり滋養のある食事を取り、まったりぐっすり睡眠を取る生活を続ければ、あら不思議、めりはりのある美しくしなやかな魅惑の肢体!瑞々しくぷりぷりつやつやのお肌!病やお通じに悩むことなど少ない健やかさ!夢のような若々しさが永く貴女のものになるのです!」


「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」


 ぬおう!?さらに劇的な反応が。


「リウト、お前なんか変なものでも食べたのか?」


 野暮な茶々は無しにしようや、相棒。


「またうちの師匠の話だが、もともと長命な種族であることを差し引いたとしても、年齢にそぐわない実に若々しい美麗な外見の持ち主なんだ。なあアディ?」


「だからなんでそこで俺に振るんだって!いやまあ確かに綺麗だよ?十代はさすがに無理だけど、二十代後半だとか言っても、下手すりゃ誤魔化せるかなあ」


「ちなみに《至雄院》時代の同期の仲間にも請われて教え、実践の結果多くの喜びの声を頂いております」


「「「「「「「「「「…」」」」」」」」」」


 王女が小さく「まさかフランシュ、ジェイダ…」とか呟いてるが、その通り。あの二人もかなり成果出てるらしい。変に真面目なとこあるから、多分まだ続けてんだろ。


 では、話を戻して。


「さて、次はどっちがやる?」


「「「「「「「「「「お願いします!」」」」」」」」」」


「…」


 いやあの。


 マテスさんとコルテはいいとして。


 なんで近衛騎士隊のお姉さま方全員手え挙げてんの?ベレッタさん、あなたまで。


「…」


 そしてまさかのソアル王女挙手。


「ベレッタさん?ちょっと」


「…」


 近寄ってきたベレッタさんと一緒に、みんなから少し離れてひそひそと。


(正気かあんたら!)


(あんな話を聞かされて反応しないほど皆女を捨ててはおりません!)


 や、胸張って言うことかそれ?


(近衛の面々はともかく、殿下はいろいろまずいでしょ!?)


(さりとてここで殿下を除け者にした方がまずいのでは?)


 ぐぬ。


(じゃあせめて小さいのでいいから天幕なりなんなり用意させて。ドレス姿じゃ無理だからその辺も)


(心得ました)


 心得ちゃうんだ。


(リウト殿)


(はあ)


(貴殿を疑うわけではありませんが、誠のことなのですよね?)


(効果の話?個人差はあるが間違いないと思うぞ?手を抜かなけりゃの話だけど)


(ならばよいのです。それでですね、あの)


 らしくないな。なんか言い澱んでる。


(い、いろいろとその、殿下の件でも相談に乗って頂いてますし、どちらかと言えば少しでも気心の知れている方が安心出来るといいますか。わ、わたしにする際はリウト殿におねお願いしたい、のです、が)


(はあ。一向に構わないけど)


(そ、そうですか!ででは支度の指示を)


 なんかぎこちない動きで戻ってくベレッタさんに違和感を感じる。なんだろうね、アレ。


「あー、アディ。お前も手伝え」


「はあ!?なんで俺まで捲き込む!?」


「こんな数一人で捌けねえからだ」


 それに、約一名は間違いなくお前がやった方がもろもろ抵抗が少なくて済むし。


 その後、人気の無い村外れの草原に幾人かの女性の絶叫が響き渡ることになるんだが、ま、気にしない気にしない。


「俺大丈夫かな?不敬罪とか」


「心配すんなよアディ。それはないって」


 むしろ喜んでるんじゃねーか?


「その根拠はなんだよ?」


「…」


「そこで黙るなあ!」


 ふいー。


 あー疲れた疲れた。さ、宿に帰ろう。明日はいよいよ出発だ。

 ただの里帰りの付き合いのはずが、気が付きゃいろいろ抱え込んじまうはめになった。


 なんだかなあ。


 次回「旅立ちの朝に」


 ま、楽しいからいいけど。


※2016年5月17日公開予定

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