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勇者とひと騒動③

 なんだろうな。


 こう、狙った方向とはびっみょ~に逸れてるっていう違和感というか気持ち悪さというか。


 うーむ。

 腰が抜けたっぽい勇者様が、がたがたがたがた震えている。


 荒れ地をさらに荒らしちまってひどい有り様だ。

 結果はまあ、勇者様の戦意喪失により俺の勝利、なのかな。どうでもいいが。

 俺は再び力を封印し、勇者様の前に立っていた。


「こ、こん、こんこんな馬鹿な!だって!お、同じ、同じ存在のはずじゃないのかあああ!?」


 そいつはある意味正しく、ある意味間違いなんだよ。


「あー、それな?お前さんが勝手に、与えられたものの限界を定めちまったってーだけのことだ」


「し、しかし!そんな?」


「別に信じてもらわなくてもいいが、お前さんを投げ飛ばしたあの時まで、ほんとに加護の力はなにひとつ使ってないんだ。考えろよ、それがどういうことなのか」


「…」


「なんなら相手変えて、アディとでも、もう一戦するか?けどな、断言してやる。今のお前さんじゃ勝てねえよ」


「…」


 ありゃ。


 なんか予想以上に凹んでんな。目が虚ろだ。

 う~ん。別に勇者様をぶっ壊すつもりはないし、少しは飴をぶら下げとこう。


「ところで、《女神に選ばれし勇者》なんて自称してんなら、ひょっとしなくても女神を信奉してたりするのか?」


 俺の問い掛けにがばりと身を起こす勇者様。なんか目に妙な輝きが宿ってて、ちょっと気持ち悪い。


「僕の切なる願いを叶えてくれた万能の御技!究極の叡知と美の化身!女神様なくして、僕らの存在意義などあるまい!当然だろうが!」


 うわあ。


 や、その意見には真っ向から異を唱えたいところだが、今はやめとこう。


「そか。なら、もうちっと頑張れ」


「…?どういう意味だ?」


「俺の決闘前の口上の内容をよく思い出してみろよ。自分が連れてきたんだからな、それなりに感心があるらしいぞ?」


「…」


「…」


「…」


「…」


 鈍いなあ。


「…!?まさか、またお会い出来るのか!?」


「…」


 その質問には答えてやらない。努力して自分で確かめてくれ。


「さて、お前さんが今後、女神と共に讃えられる素晴らしき勇者となるか、女神の面に泥を塗る名ばかりの勇者になるか、どっちなんだろうな?」


「…っ!?ぐううううううううう!!」


「そんじゃな。縁がありゃ、また会うこともあるだろ」


 視線を勇者様からクロエさんに移し、ほてほて歩いていく。愛しい人を叩きのめした俺を、彼女はなぜか笑顔で迎えてくれた。


「ありがとう」


「へえ?」


 しかも、のっけからお礼まで言われちまったぞ。


「…はあ。思っていた以上にとっても大変そうだわ。私の夢」


 とか言いつつ、朗らかに笑ってる。


「ああ。そいつは間違いないな」


「介添人を頼んできたのは、後学のために私にも見せておきたかったからってことなんでしょう?」


 おお?


 クロエさんに関しては大成功なのかもしれん。顔つきが、なんてーか、すげえカッコいい感じになってる。


「差し出がましいのはわかってたんだがな」


「ううん。あなたの言ってた“覚悟”、全然足りなかったのがよくわかったもの。それに、夢の形も少し変わったかな?」


 ん?


「“伴侶になりたい”ってとこは当分保留にすることになりそう。アレじゃ、まだまだ条件満たしてないこと思い知らされたし。あなたにね」


「…」


「ちょっと確かめておきたいんだけど、基本的に素材はほぼ同じはずなのよね?」


「そうらしいぞ。ただ、女神曰く、それぞれの加護には個性があるみたいだけどな」


「なるほど、そこのところも把握しなきゃ駄目なのねえ。まあいいわ、とりあえず我慢しましょ。で、尻蹴っ飛ばしてでも“自称勇者”を“勇者”にしてみせるわ。それはそれで、とっても楽しそうよね」


 が、我慢?尻を、なんだって?


「簡単に放り出したりはしないつもり。彼を野放しにしたら、それはそれで大変そうだしね。でも、どうやってみても駄目かなって時は、そうね、やっぱりあなたを狙うことにしようかな?」


 うおええ!?なに言ってんのこの人!?


「いや、さすがにそいつは」


「あら、知ってるでしょ?私は、自分の夢のために全てを捨てることが出来る女なのよ?」


「…」


「ふふ。また会いましょう、リウト」


 呆気にとられる俺に蠱惑的な微笑みを残して、彼女は軽やかに勇者様の元へ駆けていった。


「…」


 ぽりぽりと頬を指で掻く。


 ああも気安く、色濃い過去を自虐的に皮肉って口に出来るとか、女の人ってなあ強い、や、怖えわ。大成功ってのは撤回しとこう。うん。


 さて。


 再びほてほて歩いて、次は三人娘のところへ来てみたのだが。


「…」


「…」


「…」


 すんげえきらきらした目で見られてるんですけど。こんな反応はちょっと予想外。


「リウト殿!」


 ぬおわ!?なんかマテスさんが必死の面持ちで詰め寄ってきたぞ?


「何卒!私を従者の末席にお加え願いたい!」


 は?


「わ、わた、私もお願いします!」


 エメリカさんまで。

 や、ちょっと落ち着こうよ。


「ほら、大丈夫だった」


 あ、うん。君はいつも通りで安心したよコルテさんや。


「な、なんで従者?」


「女神様より賜りし力に傲ることなく、己が一身のみにても精進を重ねゆくその鋼のごとき高潔なる心!それ故に、常の戦人としても、《神託の渡り人》としても、磨き抜かれた圧倒的なまでの武!このマテス、感服いたしました!」


「か、格好よかったです!すごく!」


「きっとおいしい、いろいろ」


 いやいやいや。そんな仰々しいもんじゃないんだが。あとコルテ、お前のはどういう意味だ。


「貴殿のお側にて私も高みを目指したく!何卒!何卒!」


「が、頑張ります!私も頑張りますから!あの、あの、よろしくお願いします!」


「ついでに」


 なぜだろう。あまりにマテスさんとエメリカさんの想いが重すぎて、一見適当なコルテの言動にむしろなごんじまうぞ。


「…お許し、願えませぬか?」


「…」


「…」


 うわ、やめてくれよ。そんな捨てられた仔犬みたいな目で見るなって。


「…従者とかそういうのは無しで。こっちから誘ったんだ、旅の仲間としてなら、喜んで」


「!?か、かたじけない!」


「ありがとうございます!ありがとうございます!」


 抱き合って喜ぶマテスさんとエメリカさんを見てると、苦笑いしか浮かんでこない。なんでこう話がでかくなるかなー?


 で、コルテ。なんでお前はちょっと浮かない顔なんだ?


「…いいの?」


「なにが?」


「足手まといになる、絶対」


 不安そうなコルテの頭を撫で回してやる。「あう」とか「やめ」とか「ばる」とか言ってるが、構わずぐりなでぐりなでぐりなで。


「これからよろしくな、コルテ」


 ふむ。


 旅を共にするんだから、この三人とはこれから仲良くなればいい。


 てなわけで、次だ。


 柵が多くて、実に扱いの難しいソアル王女と、その臣下の皆様方。

 はは。そんな緊張しなさんな、影の護衛諸君。王女を害する気なんざ全くないから。


 気持ち距離を遠くして膝をつき、頭を垂れる。


「お止め下さい、リウト様。私に対しての臣下の礼など、今後は無用に願います」


 あれ。俺にまで“様”がついちまったか。なにやらかなりの格上げが実施された模様で。


「《神託の渡り人》については、リウト様を含め幾人かその情報を抑え、いかなる存在なのか把握している“つもり”でした」


 ふむ。


「そして、存在を軽んじていた、というのが事実です。リウト様によって、その力の一端を垣間見た今日この時まで」


 派手に動いてるのは勇者様くらいだしなー。


「この世界の如何な権力であろうと、あの力を御すなど到底不可能なことでありましょう」


 だと思う。下手したらその内国のひとつやふたつ、軽~く消し飛ばせるようにもなりかねん。


「故に、臣下の礼など不要であると申し上げました。どうか、お気の向くままに」


 そか。ま、その辺りの所作だのなんだのはやっぱ苦手なんで、正直ありがたい。


「では、お言葉に甘えて」


 立ち上がって、素のままで接することにする。

 ベレッタさんがすんげえ複雑そうな顔で俺を見てるが、気にしないようにしよう。


「力を明かすことを、あまり好まない方であると聞き及んでいました」


「まあね。こんな力は、余程のことがない限り、使わずに済むならその方がいいに決まってる。それが俺の基本方針だから」


 飄々と語る俺に、ソアル王女は思案気な顔。


「それでもこうしてお見せ下さったその意図は、私なりに理解出来たと思います」


 それはなにより。

 《曙光の賢姫》なら、そうそう無下にはしないと信じよう。


「そ、それでですね、その」


「「「…?」」」


 なんだあ?王女が急にもじもじしだしたぞ?

 俺だけでなく、スミスさんやベレッタさんも怪訝そうな顔だ。


「私の旅に、随行するというお話なのですが、リウト様に強要など出来るはずもありません。それで、その」


 おい。まさか。


「もし、もしも、リウト様が自由でありたいとそれを拒否なさることでもありますと、無二の友であるアディ様が、リウト様と共に行きたいと望まれる可能性が高いのではと。随行を無理強いなどしたくはありません。ですが、ですが!こ、困るのです!一緒に来て頂かないと困るのです!困ります!」


「「「…」」」


 色ボケ!?


 さっきまでのやりとりが一気に色褪せたぞ。《曙光の賢姫》の信用も急降下だ。いろいろと台無しじゃねーか。

 見てやってくれよ。スミスさんとベレッタさんのなんともいえない虚脱感に満ちた気の毒な顔を。


「…」


 そろりと確認すると、相棒は三人娘と話し込んでいて、ソアル王女の問題発言に気付いた様子は無い。ちょっと助かった。


「あー、それはちゃんと付き合うんで。 心配しないでくれていい」


 別の心配が大盛りになったけどな。


「そうですか!感謝いたします!では、予定通りということで!」


 辞去の挨拶を交わすと、踊り出しそうな王女が馬車へと戻っていく。


「…」


「…」


 光の消えそうな目でこちらを見るベレッタさんと無言で会話する。大丈夫、そっちもちゃんと手伝うから。


 肩を落としてとぼとぼ王女の後を歩くベレッタさんの背中を、慰めるようにスミスさんがぽんぽん叩きながら並んで歩いていく。頑張れ、ベレッタさん。


「やれやれ、どうにもしまらんなあ」


 はあ。俺も相棒と三人娘のとこへ戻ろう。

 間違ったままそう思い込んで、それが染みついちまうとか。


 そんな経験、ないか?


 次回「発動!三人娘改造計画①」


 こりゃ大変だ。


※2016年5月12日公開予定

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