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勇者とひと騒動②

 根回しは大事なんだよ。


 後のこと考えるとね。


 たまに無駄になったりもするけどさ。

 村から離れたそこそこ広い荒れ地。ここが決闘の会場だ。

 ここなら人目も無いし、周囲への影響もごく少なくて済むだろう。


「では、早速始めるとしよう」


「まあ待てよ。まだ立会人が到着してないだろ」


「ふん?誰を手配したのか知らんが…」


 勇者様の顎がかくんと落ちた。

 軽やかな馬蹄の音が耳に届く。


「き、貴様、まさか!?」


「人選になにか不満でも?」


 荒れ地の手前で、控えめな装飾ながら高級感漂う瀟洒な馬車が停車する。


 御者はスミスさんが務め、付き添っている騎馬にはベレッタさん。

 俺の意を汲んで三人だけで来てくれたみたいだ。表面上は、だけどな。

 騎士さん達とは別口の、影から王女様を護る精鋭の気配が点在してる。これはもう仕方がないことだ。


 馬車の扉が望める位置で、介添人の相棒と揃って膝をつき、頭を垂れる。

 勇者様も慌てて、よくわかってない介添人のクロエさんを促して俺達と同様に。ことの原因だからとくっついてきた三人娘も、空気を読んで真似していた。


「皆、面を上げなさい」


 両脇に隊長さん達を従えて立っているのは、もちろんソアル王女だ。


「リウト」


「は」


「許します。此度の経緯を」


「は。まずは、殿下の御温情に厚く御礼申し上げます。また、重ね重ねの不敬、どうか御許しを。事後の処罰あらば、慎んでお受けする覚悟にございます」


「構いません。そなたならば、故無くこのような真似はせぬでしょう。続けなさい」


「は。そこに至る子細は省かせて頂きますが、そちらのリボック殿と決闘を行う運びとなりました。しかし、常のそれとは少々異なる事情があり、現王家の御方であり《曙光の賢姫》と称えられる殿下に、是非に台覧願いたいと愚考いたしました次第」


「して、その事情とは?」


「は。此度の決闘、遺憾ながら《神託の渡り人》同士が刃を交えねばなりません」


「「!?」」


 二人の隊長さん達が無言で息を飲む。


 王女は動じてない。


 どこまで詳細に知らされてるかはわからんが、王家の防諜は甘くはないだろう。既に俺の情報はそこそこ渡っていると見るべきだ。


「我が女神曰く、未だ当代の八人は成長の途上にあり、この世界に大きな影響を与える存在ではないとのこと。しかしながら、例えその片鱗であっても、人の手に余る凄まじい力であるのは間違いございません」


「…」


 ソアル王女の訝しげな顔は、先の件での勇者様の働きを見てのことだろう。

 確かに、あの程度の強さなら、騎士団や傭兵さん達の中にもごろごろいるしな。


 だからこそ、勘違いしたままじゃ困るんだよ。


「大陸最大の国であるモド王国、その政にも関わりを持つ殿下には、僭越ながら、この機を逃さず知見頂ければと」


 瞳に力を込めて、王女のそれを射抜く。


「未熟故に、全てとは叶いませんが、《神託の渡り人》の力の欠片、それすらもいかに恐ろしいものであるか。それを殿下に御目にかけたいと存じます」


「…わかりました。しかとこの目に焼き付けるとしましょう」


「感謝いたします。では、御前失礼を」


 相棒と共に深々と一礼し、立ち上がる。

 ふう。やっぱ堅苦しいのは苦手だ。舌噛みそうだった。


 ソアル王女に一礼した勇者様も立ち上がり、俺に対し不敵に微笑む。


「ふん。一度やって見たかったんだ。同じ存在とな」


「そうか?出来れば俺は御免だがなあ」


「は!今更怖じ気づいたのか?」


 違うっての。


「お前さん、《女神に選ばれし勇者》だとか名乗ってあっちこっちでそれを吹聴して回ってんのに、なんで無事でいられるかわかってる?」


「なにを言っている。女神様の威光には、この世界の誰もが敬意を払う。僕達をどうにかしようなどと、無理な話だ」


 おめでたいね。いや全く。

 元の世界でもこの世界でも、人の為す狡猾な悪意は変わらんぞ?


「この先、目指すものが異なれば、こうして《神託の渡り人》と争うこともあるわけだが、そこんとこどう思う?」


「ふん?相容れないのであれば、仕方あるまい?女神様の御言葉を忘れたか?『この世界に善かれと思うことを為せ』だ。考え方などそれぞれ違うのだ、ぶつかることもあるだろう。どちらの思いが勝るのか、決着をつければいい。今回のようにな」


 ほお、なるほど。


「あ、そうだ。マテスさん達に使ってる加護の力な、ありゃおそらくお前さん独自のもんだろう。もっと鍛えて、効果を高めりゃ、使い方次第でとんでもないことになるかもしれん」


「な、に?貴様、今、なんと言った?」


 ああ。やっぱりその辺り意識して使ってなかったのか。


「さてな。しかし、マテスさん達にしたような真似をこの先も続けるなら、お前さんと俺は、お前さんの言うように相容れない。敵対することになるんだろうなあ」


「鍛える、とはなんだ?おい貴様!」


 だから聞けよ、人の話を。


 所在なさげに突っ立っているクロエさんのところに歩み寄る。


「悪いね、付き合わせて」


 彼女には、勇者様の介添人をしてくれるよう俺からも頼んだ。


「それは構わないけど。どうして私を?」


「この先を見てればわかるよ。あんたなら」


「…」


「おい!」


 しつこいしうるさいぞ、勇者様。


「そろそろ始めんだから支度しろよ」


「貴様、どこまでも…!」


 はいはい、と。

 さて、次に三人娘のところへ行こう。


「リウト殿…」


「ごめんなさい、私達のせいで」


「お詫びはする。身体でへぷ!?」


 眉を八の字にして申し訳なさそうにしているマテスさんとエメリカさんに苦笑いを返し、阿呆なこと言ってるコルテには脳天に一撃の刑。


「この後、俺とアディはソアル殿下の御一行に随員として加わることになってんだ。で、もしよかったらなんだが、一緒に来ないか?」


「え?」


「私達が?」


「ふおお、頭が」


「リボック君の元を離れるなら、誘ってみようかと思ってたんだ」


 実はある程度話はつけてあったりする。

 三人だけにしとくのはなんかいろいろとヤバそうだしな?口にはしないけど。


「ま、決闘の後で、俺に対して感情のわだかまりがなかったら、考えてみてくれ」


「わだかまり?」


「えと、え?」


 見せちゃえば、怖がられる可能性もあるんだよな。それならそれで仕方ないとは思う。寂しいけど。

 くいくいと袖を引かれる感触に下を向くと、俺をじっと見詰めるコルテ。


「んと。三人とも、多分、大丈夫」


「…そか。ありがとな」


 そう言ってくれたコルテの頭を撫で回す。「あう」とか「やめ」とか「あり」とか言ってるが、構わずぐりなでぐりなでぐりなで。


 最後に相棒の元に戻って、装備の最終点検だ。


「リウト、本気でやるのか?」


「うんにゃ?本気は見せるが、本気ではやらん」


「難儀な話だな。なぜ女神様はそんな重荷を背負わせるのか」


「さてなあ?案外なんも考えてないんじゃねーか?」


 デバガメガミ共め、どうせ見てんだろうよ。


 よし、と。こんなもんだろ。


「勝ち負けの心配はしてない。だが、やり過ぎるなよ?」


「そこそこ派手にやらんと意味が無いからなー。難しいところだ」


 相棒と、拳で互いの胸を小突き、次に上下交互に叩き合い、最後に打ち合わせる。こういう時の、俺達の挨拶。


「双方準備はよいかあ!」


 スミスさんがよく通る大声で俺達に呼び掛ける。


「いつでも!」


 と勇者様。


「こちらも構いません!」


 と俺。


「よおおーし!それでは双方、前へ!」


 俺と勇者様が距離を詰めていく。


 うん。スミスさん以外は、充分に距離がある。


「申し訳ありません、スミス隊長。開始の合図は、殿下の御座すところまで下がってからお願い出来ますかね?」


「む?」


「…」


「…わかった。そうしよう」


 ありがたい。


 ソアル王女とベレッタさんのところまで下がったスミスさんが、右手を振り上げた。


「よいかあ!」


 俺と勇者様の視線が真っ向から絡み合う。


「始めえ!」


 瞬時に抜き合わせ、最初は剣撃の応酬から。

 刃と刃が交錯する度に鳴るこの鈍い音。俺、あんまり好きじゃないんだよなー。鳥肌がたつんだ。


「ははははは!そこそこにはやるじゃないかあ!」


「…」


 や、勇者様。盛り上がってるとこ悪いんだけどさ、お前さん遅いよ?


「!?な、なん!?」


「…」


 無慈悲に剣速を上げてやる。

 刃の調子が狂ってすれ違い、さらに歪な音になっちまう。気持ち悪い。

 

「ぬっぐ!?」


「…」


 《神託の渡り人》は確かに常の人より身体能力が高いらしい。が、それは、常の人が決して至れないというほどの高みじゃないんだよな。


「づあ!?」


 握りの甘くなったところを見計らって勇者様の剣を弾き飛ばす。

 ほれ、得物は無くなったぞ?どうする勇者様。


「ぬあああ!」


 紫電が迸る。《雷撃》の魔法か。が、やはり発動までが致命的に遅い。


「…」


 前回と同じだ。指弾で臍の下を撃ち抜き、魔力を散らす。


「があ!?」


 ふう。


「あのなあ?リボック君。お前さん今、《雷撃》の魔法を放とうとしたな?」


「…っ」


「射線を考えたか?俺に向けて放った後、俺がかわしてたらどうなったと思う?」


「…!?」


 俺の背後を確認し、青ざめる勇者様。


「そう、そのままだと殿下に向かって一直線だ」


「あ、あ」


「無詠唱。そこそこの威力。その《雷撃》も加護の力だな?」


「…」


 おそらく、《雷撃》だけじゃなくて、《雷》だの《電》だのに類する様々な活用が可能な加護のはずだ。どうも初っぱなで止まってるみたいだがな。


「で?ネタは打ち止めか?」


「…っ」


「え?本当に?」


 嘘だろおい。


「別に手の内全てを明かす必要はないが、戦闘に活用できる加護も複数あるはずだろ?」


 デバガメガミ共がそう言ってたし。


「…」


 やれやれ。なんか意気消沈してやがんな。

 剣を鞘に納め、その場に置いておく。


「ふん!」


 さくっと踏み込み、勇者様を投げ飛ばす。抵抗無し。受け身も取らない。


「がはあ!?」


「得物が無くなった、魔力も尽きた。そんな時は?考えたことあるか?」


「ぐ、ふ」


 ゆっくり、再び勇者様と距離を取る。


「俺もまだまだ自分を鍛え始めたばかりの未熟者だ。だから加護の力に関してもまだまだなんだがな?」


 気を急速に練り上げていく。


「最初にやりあった時のこと覚えてるか?言っとくが、あの時も今も、加護の力は全く用いてない。身体能力に関しても“上乗せ”は普段、加護の力もろとも封印することにしてる」


「な!?」


 そう。少し拍子抜けだったし、残念なことだが、今の勇者様をぶっ飛ばすだけならそんなものは必要ないんだよな。


「さて、…やるか」


 練気を鍵として、錠となる気穴をほどいていく。


「…っ!おおおおおおおおおおおおあっ!!」


 周囲を捲き込んで力の奔流が轟々と荒れ狂う。“俺”が変わっていく。


「…な、なん!?」


「…」


 静かに、長く、息を吐き出す。


 封印は、解いた。


 目ん玉ひんむいてる勇者様にニヤリと嗤う。


「これが今の《神託の渡り人》としての俺だ」


 溢れ出る力を抑えきれないのも未熟の証。それを己の内に納め、馴染ませていく。

 あー。まだまだ時間かかりすぎてんなー。要反省、鍛練あるのみ、だ。


「…じゃ、ちょっとだけ、見せてやるよ」

 秘密を明かすのはほどほどがいい。


 それにほら、自分で考えて探して見つけ出す興奮と快感ね。あれ大事。


 次回「勇者とひと騒動③」


 その方がやりやすいしな。


※2016年5月11日公開予定

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