第9話
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横井さんとはお酒を飲んだり、カラオケに行ったりするだけ。それも、最初から二人っきりということはない。声が掛かる時はいつも何人かのグループで、最後に二人だけになるというパターンが多い。
「じゃあな、青ちゃん」
店を出ると、そう言って横井さんは帰っていく。彼には下心なんて欠片もないように思えた。だから私もすっかり安心しきっていた。そんな彼があるときから急に口うるさく私に付きまとうようになった。そう…。私が貴志さんとお付き合いするようになった頃から…。
貴志さんとお付き合いをするようになって、朝帰りをすることが増えたのは確かね。貴志さんとのことは人に知られたくないから、どうしても遅い時間から会うことが多い。それに、近所のお店ではなくて少し離れた場所にあるお店に連れて行ってもらうことの方が多いし、私が求めたら彼は理由も聞かずに言う通りにしてくれるから。貴志さんが私のことを大事に思っていてくれるのがよく解かる。
横井さんは仕事柄、朝が早い。築地で働いていると言っていた。だから、毎朝2時とか3時には出掛けるらしいの。それで、何度か私を見かけたらしいわ。すぐに言われたわ。
「あんな時間に何してた?」
「お友達とお酒を飲んでいたのよ」
「タクシーで帰って来たよな」
「ええ、JRの駅の方で飲んでいたから」
「誰か一緒に乗っていただろう?」
「千葉方面の人が居たから、ついでに乗せて貰っただけよ」
「男じゃねえのか?」
「男でも女でも横井さんには関係ないでしょう?」
「おまえ、家庭があるんだから、ふざけたことはするなよ」
「ふざけたことなんかしてないし、私の家庭のことをあなたにとやかく言われる筋合いはないわ」
本当に鬱陶しい。余計なお世話。だから、貴志さんと会う時は横井さんにだけは見られたくはない。貴志さんはどんな時間でも黙って私に付き合ってくれる。やっぱりこの人で間違いないわ。この人が本当に運命の人なんだ…。




