第55話
55.
楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。また明日になれば貴志さんには会えるのに、落ち着かない。私は部屋を出てアパートの近所をぶらぶらと歩いてみた。コンビニを見つけて缶ビールを買った。明日、貴志さんが来たら一緒に飲もう。そうね、お風呂上りに。小一時間ほどぶらぶらしてから部屋に戻った。テレビを見る気にもなれず、布団を敷いてからお風呂のボタンを押してバルコニーへ出た。辺りは既に暗くなっていた。
タクシーが一台、通り沿いを走ってくる。ハザードが点滅し、アパートの少し手前で止まると中から一人の男性が降りて来た。彼はタクシーから降りると、こちらの様子をうかがっている。私は思わず手を振った。そして、部屋を飛び出して彼を迎えた。
「お帰りなさい」
「一人で大丈夫だった?」
「はい」
私は嬉しくて貴志さんに思いっきり飛びついた。貴志さんは持っていた旅行鞄を手放して私を受け止めてくれた。そして、二人で部屋に戻った。貴志さんの居る部屋は来た時の寂しい空間ではなくなっていた。
「お風呂沸かしておきましたよ。一緒に入りましょう」
私は我慢できずに貴志さんの服を脱がした。そして、二人でお風呂に入った。貴志さんが私の身体を見ている。恥ずかしい…。でも嬉しい。私たちはお互いに体を洗い合い、狭い湯船の中で抱き合うように体を温めた。
お風呂上りに買って来たばかりの缶ビールを飲んだ。
「僕もしばらくここで優理と一緒に暮らすよ」
貴志さんはそう言って顔を寄せてきた。私は目を閉じて彼の唇を迎え入れた。そして、そのまま横になると私たちは久しぶりに一つになった。
翌朝、頭を撫でられている感覚で目を覚ました。そこには優しく微笑む貴志さんの顔があった。
「うれしい…」
「どうして?」
「朝なのに貴志さんが居るから」
私は嬉しくて貴志さんにしがみついてキスを求めた。貴志さんは軽く唇を受け止めると、朝ご飯の支度をすると言った。けれど、私はずっとこうしていたかったから「いらない」と言った。貴志さんと会って遅くなった時にはいつもお昼頃まで寝ているし。そんなことを私は不意に口にした…。




