第52話
52.
入って来た刑事たちに医者が話をした。
「ちょっと待ってください。彼女は今、意識が戻ったばかりで、記憶をなくしています。恐らく事故のショックでだと思いますが、今は話が出来る状態ではありませんのでお引き取り願えませんか?」
私の怯える表情を見て刑事たちは頷いた。
「それでは、お話が聞ける状態になったら連絡してください」
刑事たちはそう言って立ち去った。私は貴志さんのことを知っているその女性に懇願した。
「ねえ、あなたは貴志さんを知っているんでしょう?早く連れてきてください。貴志さんに会いたい…。お願いだから早く貴志さんを連れてきて!」
「解かったわ。もう来るころだから迎えに行って来るわね」
彼女は病室を出た。彼女に続いて男性と女の子も病室から出て行った。
「青山さんは事故のショックで一時的に、ある部分の記憶以外をなくしている可能性があります。少し落ち着いたら検査をしましょう」
「事故ってなんですか?」
医者は少しためらっているようだったけれど、静かな笑みを浮かべて話してくれた。
「どうやら、お酒を飲み過ぎて転んでしまったみたいだよ。その時に頭を打って意識を失ったのだと思う。明け方に通りかかった人が警察に通報して、ここに運ばれてきたんだ。持ち物にPTA関係の書類があったから、それで身元も確認できたし、ご主人と山本さんに連絡をさせてもらったんだ。どう?少しは安心した?」
「それで刑事さんが?」
「そういう事。少し、休んだ方がいい。じゃあ、私はこれで」
医者が病室を後にすると私は独りぼっちになった。すると、急に不安で押し潰されそうになった。早く貴志さんの顔が見たい…。貴志さんに電話をしようとしても携帯電話が見当たらない。その時、ドアが開いた。今までここに居た男性が戻ってきた。その後ろに待ち望んだ人の顔があった。
「貴志さん!来てくれたんですね。わたし、酔っ払って転んじゃったみたいで、気が付いたらここに居たの。早く貴志さんに連絡をしようと思ったのだけれど、携帯電話が無くなっちゃってて…」
貴志さんは私の手を取って微笑んだ。そして、優しく声をかけてくれた。
「ごめんね。でも、もう大丈夫だから」
「はい!貴志さんが来てくれて本当に良かったです。今まで知らない人がじっとわたしを見てて怖かったから」
貴志さんと一緒に来た男性はいつの間にか居なくなっていた。




