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第4話


 すっかり忘れていた。今日は菜奈緒が学校に雑巾を持って行かなければならない日だった。昨夜、バレーボールの見学が合わった後に用意しようと思っていたのだけれど、お茶に誘われて帰りが遅くなってしまった。

「ママ、雑巾はどこ?」

 菜奈緒に聞かれて思い出した。こんなんじゃ母親失格だわ。そうだ!駅前の100円ショップに置いてあった。時計を見た。あそこは24時間営業だし、今から買ってくれば登校時間には間に合う。

「ごめんなさい。うっかりしていたわ。今、100円ショップで買ってくるから」

「えーっ!朝ごはんは?」

「トースト、自分で焼けるよね」

 私は急いで部屋を出ると、自転車に跨り勢いよく漕ぎ出した。


 駅前の交差点。横断歩道に差し掛かったところで急にペダルが空回りして私はバランスを崩した。自転車を降りて確認するとチェーンが外れていた。どうしよう…。こんなの直せないよ…。なす術も無く佇んでいると不意に自転車が持ち上げられた。

「早く!赤になるよ」

 通りすがりの男の人がチェーンの外れた私の自転車を抱え上げて横断歩道を渡って行く。一瞬何が起こったのか分からず、私はその人の後に従って横断歩道を渡った。彼は手慣れた手つきで外れたチェーンを直してくれた。わっ!この人は…。

「じゃあね」

 自転車を直し終えると、彼はそう言って手を振り駅の方へ歩いて行った。あまりにも突然の出会いだったので私はお礼を言う事さえ忘れて彼の顔に見入ってしまった。そう!彼はあの人だった。安西貴志。

「やっぱりあの人は私の運命の人だわ」

 そして、ようやく気が付いた。

「いけない!私ったら、お礼も何も言わなかった…」

 その後のことは何も覚えていない。ちゃんと雑巾を買って菜奈緒に渡したのかさえ、記憶になかった。せっかく会えた運命の人に言葉一つ交わす事も出来なかった後悔で頭の中がいっぱいだった。


 子供たちの夕食を済ませた後、私は意を決して外に出た。あの人の帰りを持とう。ちゃんとお礼を言わなくちゃ。会える保証はどこにもない。けれど、彼が私の運命の人なら、きっと会えるに違いない。







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