第30話
30.
貴志さんの体は温かい。終わってから彼の胸に体を預ける。このひと時がとても幸せ。彼が優しく髪をなでてくれる。私は彼の顔を覗きこむ。彼が何か言いたそうな表情で私を見つめる。
「なあに?」
「優里は可愛いね」
恥ずかしい…。でも、うれしいい!私は彼の温もりを全身で感じたくて再び体を併せた。ずっとこうしていたい。でも、今日はそろそろ帰らなきゃ。
「今日はありがとうございました。そろそろ行きますか?」
「いいの?」
「はい」
『会いたいな』
珍しく貴志さんからお誘いがあった。どうしよう…。「よろしくお願いします」すぐにでもそう返事をしたい。でも、それが出来ないのがもどかしい。貴志さんと一緒になっていたらこんなことで悩まなくても済むのに…。
そうこうしているうちに娘が学校から帰って来た。宿題を見てあげてから二人で買い物に出た。
「今日は何が食べたい?」
「ハンバーグがいい」
「そっか!じゃあ、久しぶりにハンバーグを作ろうか」
「うん」
娘と二人でハンバーグを作っていると主人からメールが入った。
『残業になる』
たった一言だけ。
『今日はPTAの集まりがあるの。なるべく早く帰って来て』
主人が帰ってこなければ、娘を置いて出かけられない。
夕食を終えて娘と一緒にお風呂に入った。この後、貴志さんに会うのだから、いつも以上にきれいにしなくちゃ。
お風呂からあがると、軽く化粧をした。
「ママ、お出かけするの?」
「ちょっとだけね。でも、パパが帰って来てからだから」
もう!こんな日に限って帰って来ないんだから…。




