第26話
26.
自分から話を振ったくせに、貴志さんの顔を見ることが出来ない。こんな話を始めた私を貴志さんはどう思っているのかしら…。
「ねえ…」
そんな私の気持ちを見透かしたかのように貴志さんが話し掛けてきた。
「もしかしてヤキモチ妬いてる?」
あー、やっぱりそう思われるわよね…。
「いいえ。ぜんぜん!ただそう思ったから言っただけです」
本当にヤキモチなんか妬いてませんから。でも、菜穂子さんと二人で幸せそうに歩いていた貴志さんをちょっと困らせてやろうかなんて思ってしまった自分が恥ずかしいな…。
「可愛いね」
突然、貴志さんが言った。
「何がですか?」
「優里は可愛いね」
貴志さんに“可愛い”なんて言って貰えてすごくうれしい!でも、恥ずかしいから、つい、悪びれてしまう。
「私、ちっとも可愛くなんかないですから」
胸が高鳴り頬が紅潮してくるのがわかる。私はそれをごまかそうと、まだグラスに半分ほど残っていた緑茶ハイを一気に飲み干した。それからは次々に出て来る料理をむさぼるように食べた。そんな私を貴志さんはずっと見ている。
「ねえ、今日、しようか?」
えっ!驚いた。貴志さんから“しよう”なんて言って来るなんて。貴志さんはいつも私がしたがっていると、それを感じ取ってホテルへ誘導してくれる。自分から“しよう”と言ったのは初めてかも知れない。
「どうしたんですか?貴志さんから誘うなんて珍しいですね」
「ん?別に理由があるわけではないけど。強いて言うのなら優理が可愛いから」
ダメっ!真顔でそんな風に言われたらどんな女性でもついて行くよ!もちろん、私に依存があるはずがない。
店を出ると貴志さんはすぐにタクシーを拾った。
貴志さんはいつもと変わらない手つきで私の体を弄ぶ。けれど私はいつも以上に感じてしまった。でも、朝には別々に帰らなければならない。そう思うとなんだか悲しくなってきた。私は全身の力を込めて貴志さんにしがみついた。




