第23話
23.
貴志さんはきっと、あからさまに否定すると余計に怪しまれると考えたのに違いないわ。ならば、わたしも話をあわせなくちゃ。
「いつも奥さんが安西さんのことを自慢しているから、どんな人なのか気にはなっていましたよ。それで、会ってみたらやっぱり素敵な人で…。“好き”っていうのはちょっと誤解されるかもしれないけれど、安西さんのことはみんな好きだと思いますよ。山本さんも“いい”と思いますよね?」
たまたま縁があって顔見知りだけれど、基本的には他の人たちと変わらないのだということをアピールしつつ、山本さんの腹の内を探ろうと敢えて、山本さんに話を振ってみた。
「そうよね。うちは旦那と歳が離れているから、安西さんみたいなイケメンでお金持ちの男の人が身近に居たら、こんなおばさんになってもキュンとしちゃうわよ」
「お金持ちって…。まさか、和夫が言ったことを真に受けているんじゃないでしょうね」
“お金持ち”と言う山本さんの言葉に貴志さんが反応した。
「あら、でも、先日だって安西さんが全部払ってくれたじゃない」
貴志さんの表情が変わった。何か気まずい事でもあるのかしら…。ちょっと聞いてみよう。
「えっ!先日って?」
「ああ!Pの飲み会の時よ。青山さんは途中で帰ったから知らないだろうけど、安西さんが帰る時にポンと一万円出してくれたのよ」
それを聞いて、貴志さんは急に表情を崩した。この話なら大丈夫ということなのね。山本さんもこっちの話に留めておいたのは、貴志さんと二人だけの“秘密”を共有しているみたいな優越感に浸っていたいのかもね。
そっか、あの日は私が店を出た後にそういう事があったんだ。でも、さっきの貴志さんの表情は気になるわ。二人のことで何か私に隠していることがあるみたいね。
「まあ、今日はいろいろお話もあるみたいだし、お邪魔しちゃ悪いから失礼するわね」
山本さんはそう言って席を立った。立ち際に意味ありげな笑みを貴志さんに向けていた。山本さんは本気で貴志さんを狙っている。そして、ただのバカ女ではないのだということが判った。自分のことに対しては無頓着な貴志さんに言っても無駄だとは思うけれど、一応、釘を刺しておいた。
「気を付けた方がいいよ。山本さん、完全に貴志さんを狙ってるよ」
「そうなのか?」
予想通り、貴志さんはまるで他人事の様な受け答えをして笑った。




