第10話
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横井さんに誘われた。彼がいつも飲んでいる居酒屋に居るから来ないかと言う。また、あのことを追及されるのではないかと思うと億劫になる。けれど、済んだことにはこだわらないのが横井さんのいいところでもある。この日もいつもの軽いノリで誘ってきたし、仲のいいお友達の吉本さんも一緒だと言うので出掛けることにした。
私の心配は杞憂に終わった。いつもの楽しい横井さんだった。ところが、吉本さんが帰ると、急に顔つきが変わった。
「お前、最近、どこかの男と付き合っているのか?」
やっぱり、最初からこのことで呼び出したのね。がっかりだわ。
「何のこと?」
私はしらばっくれてその場を切り抜けようと思った。
「家庭があるのに変な気をおこしたりしていないだろうな?」
「私だって、横井さん以外のお友達は居るよ。そういう人と食事をしたりすることだってあるよ」
「とか言って、けっこう朝帰りとかしているだろう」
「楽しくて盛り上がって、いつの間にか朝になっていただけですから」
「相手は誰だよ」
「横井さんには関係ないでしょう」
「関係あるよ。友達として悪いことは見過ごせない」
「悪いこと?横山さんと飲むのは良くて、彼と食事をするのは悪いこと?バカみたい」
友達だなんてよく言うわ。まるで私が自分の所有物みたいな言い方。くだらない。こんな人と今まで付き合っていた自分が情けなくなった。私は席を立った。
「おい、今日の飲み代はお前が出しとけよ」
呆れた。最低!私は五千円札をテーブルの上に置いて店を出た。すぐにバッグから携帯電話を取り出した。貴志さんの携帯電話の番号を押した。彼はすぐに出てくれた。
『もしもし』
「こんばんは。青山です」
『会いたくなったの?』
「今から出られますか?」
『いいよ』
「高速道路の下で拾って貰えますか?」
『分かったよ。じゃあ、すぐに出るから』
貴志さん…。優しい人…。私は携帯電話を仕舞うと、早足でその場を離れた。




