愛によって動く
誰の目にもつかない袋路地で覆面マスクを取り、普段着に着替える
これで義賊、影朧は消息を絶つ
ふぃー、耳と尻尾がキツイんだよなぁ
今、路地に居るのは影朧ではなくただの狐の獣人だ
白い髪から出ているピコっとした耳をかきむしる
見慣れた風景、今にも壊れてしまいそうなドアを開け、余分な明かりがほとんど無く夜は屋根の隙間から満点の星空が見える自宅に入る
「ただいまー」
何の気なしにいつものように帰宅する
「あ、ハヤテ兄ちゃんお帰り!さっき、大通りに影朧さんが出たんだってさ!観たかったなぁ」
興奮冷めやらぬ様子で駆け寄って来たのは我が家の次男坊で留守番のプロのツムジ11歳
俺が留守の間、弟と妹達を守ってくれる頼れる弟だ
「影朧さんってかっこいい盗賊だね、弱い者の味方で貴族からしか盗まないんだもん!」
背中に幼い妹を背負って現れたのは、我が家の長女で炊事洗濯はお手の物、家の事は任せっきりの12歳コノハ
最近、ちょっと大人っぽくなってきた、もう昔みたいに泣かなくなったし
そのコノハにおんぶされて居るのがウチの末女、フタバ2歳
今は気持ち良さそうに寝ているので起こさないでおいてやろう、我が家において最もフカフカしている
「影朧さんってやっぱり貧困区出身なのかな?それとも貴族?貴族だったら良い人も居るって事か」
ツムジが耳をピクピクさせ一丁前に推理を立てる、だが残念だな影朧は貧民も貧民、そして目の前に居るし
「ハヤテお兄たんおかえり〜、いっつもカゲリョーしゃんってお兄たんがいないとくるね〜?」
「そ、そうだなぁミカ、お兄ちゃんも影朧さんに会いたいよ」
まだ呂律が回っていないのに中々鋭い所をついて来るのは次女ミカ4歳
ちょっぴりおませな可愛い真っ盛りの妹だ、時々ぽけ〜っとしてたりするけど根はしっかりしている
愛するオレの家族、2年前に両親が死んでからオレが手塩にかけて育ててきた自慢の兄妹達
「よし、今日は奮発してスープにウインナーを入れよう!タコさんのやつ」
「「「やったぁ!」」」
皆一様に尻尾を左右にゆっさり振る、嬉しい時の合図だ
今日は上手くいったからちょっとだけ豪華なご飯にしよう、夢中でウインナーを頬張る顔が目に浮かぶ
いつかは美味い肉を腹一杯食わせてやりたいなぁ
大切なオレの家族、貧しさなんかに負けないくらい強く育ってくれよ?
オレはお前達さえいれば何も要らないんだから




